朝が来た
オウド国、宿。
―――ピチチチ……
―――チュン、チュンッ
『……』
朝が来た。
―――ガバッ、……タッ
布団から出て洗面台に向かう。銀色に光る水栓を大きく捻り、冷たい水を顔にぶつけた。
『ふぅっ……』
息を吐き、蛇口を止めて目線を上げる……すると、鏡の中にうっすらと隈を浮かべた自分がいた。
『……』
さすがの私も、昨日はあまり眠れなかった。
“俺は、最後まであいつと旅がしたい”
“タナカ殿にも、協力して欲しい”
二人の話を聞いた後、部屋に戻ってベッドに入ったけど、イオリさん、ユラさん、そしてラルフのことを考えると、心がそわそわして落ち着かなくて、ここで何もしていない自分がとても腹立たしく感じた。
でも、ようやく朝になった。これでやっと捜しに行ける――
“タナカは、どう思う”
“楽に死ねたほうがいい?”
―――グッ……
あの時、ラルフはどんな気持ちで私に質問したんだろう?どんな思いでこの世界と関わって、生き続けてきたんだろう。
―――スッ、……ジーッ
パーカーを羽織ってファスナーを上げる。やっぱりこの服が一番動きやすい――見つけるんだ。二人と一緒に、絶対にラルフを見つけ出すんだ。
『よしっ』
息を吸い、いつもより強い力でノブを握って扉を開けた。
―――ガチャッ
「あ、おはよ」
―――バタンッ
開けたけどしめた。
『……あれ』
え、今の誰だっけ?ってゆうかココどこだっけ?私なんでココにいるんだっけ?あれ、分かんなくなってきたぞ。……とりあえず、もう一回あけてみよう。
―――カチャッ……
「なんなのアンタ」
『!、ぎっ』
「?」
『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
「うるさっ」
あれ、あれ、あれ!?
―――ダダダダッ
「タナカ殿!?」
「どうし」
『ゆゆゆゆ幽霊!!あ、幽体離脱!?』
「「「は?」」」
『変なのがここにいます!!』
「バカにしてる?」
『!!』
あ、この感じ……この威圧感……
『ほ……ほんもの?』
「にせものとかあるの?」
『え、え、え』
「落ち着けタナカ」
はなはだしく混乱しているとイオリさんが近づいてきて、ポン、と私の肩に手を置いた。
「本物だ」
『……え』
「今朝、ふらっと帰ってきた」
『……』
あの日どこかに行ってしまったラルフが……捜しても全然見つからなかったラルフが……もう会えないんじゃないかと思ってたラルフが……ふらっと……帰って……
……
『……なっ、な、な』
「「「?」」」
『なんじゃそりゃああああああ!!』
「!!」
「タナカ殿!?」
私は暴れた。困惑するイオリさんとユラさんを尻目に、廊下で盛大に暴れまくった。
『なんじゃそりゃ、なんじゃそりゃ、なんじゃそりゃ!!』
「おもしろ」
『ああああああ!!くそっ!!お帰り!!』
「……」
『おかえり!!』
「うん」
馬鹿にするでも呆れるでもなく、ラルフがあははっと笑った。