出逢い
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「そして、今から四年前……別々の場所で育った俺とイオリは、親に、半ば強制的に“待ち合わせ場所”に向かわされた。ラルフと俺たちの先祖が出会った大きな森があった場所だ」
『……』
「我々は三年前に間に合うように、二人でラルフを見つけなければならなかった。しかし、待ち合わせ場所である筈の森はもう跡形もなかった……。近隣の国も捜してみたが、やはり何処にもいない」
『……』
「これ以上は無駄だと判断し、投げ出して帰ろうとした時――人里離れた所に、深い森があるという話を耳にした」
!、深い森……
「そこは……本当に深い森であった」
ユラさんはそう言って顔を上げると、目を細めて虚空を見つめた。
「丈高い木々が陽の光を遮り、鳥の声も獣の声もしない。不気味なほど静かな場所で……しかし、ラルフはそこにいたのだ」
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「あれ、本当にきたんだ」
「まいったなあ」
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……そういえば、前にイオリさんが言っていた。
“ラルフは……笑ってた。今と変わらねえ、何考えてんのか分からねえ、生意気なガキだった”
あの時は、どうしてイオリさんが寂しそうな顔をしているのか分からなかったけど、今は少し分かる気がする。
「それから、俺とユラは言われた通りに旅を始めた――最初は不服だった。人生最後になるかもしれねえ貴重な時間を、何でこの世界を滅ぼす張本人と旅しなきゃならねえんだって。ユラもウザかったしな」
「うむ。親や祖父母から話を聞いていたものの中々腑に落ちなかったな。イオリもガキだった」
「思春期だ」
「俺もだ」
『……』
二人の間で謎の火花が散っている……。黙って様子を見ていると、ふと、イオリさんが視線を落とした。
「始めは気に食わなかった……。だが、旅をしていくうちに気持ちが変わった」
『……』
「あいつに会うまで、俺は焦ってたんだ。死ぬまでに何かにならなきゃいけねえって。でもあいつのお陰で……そのままでもいいと思えるようになった」
『!』
“生きる意味なんてなくていい。無理やりつくる必要もねえ”
“自分がいて、誰かを感じて生きられれば、それでいいんだ”
あれは、イオリさんがラルフと関わっていくなかで見つけた言葉なのかもしれない……。
「うむ。俺もそれまでは何をしても面白いと思えなかったが、いつしかそんなことは無くなっていた。ラルフのお陰で、些細なことも楽しめるようになった」
『……』
“何をしたっていいのだ”
“心が動いたら無視するな。無かったことにするな。それは、大切にしていいものなのだ”
―――……
「俺は、最後まであいつと旅がしたい」
低い声が響いた。見ると、黒い瞳に光を宿して、まっすぐ前を見つめるイオリさんがいた。
「離れていっても、何度でも呼び戻す。あいつの心が少しでも俺たちと居ることを望むなら、逃げられようが隠れられようが、捜し続ける」
“……最初は、他人に言われて、仕方なくラルフと一緒にいた。だが……今は違う。あいつといたいから、俺たちはここにいる”
二人は、自らの意志でここまで来たんだ。誰かに頼まれたからじゃない。自分が最後までラルフの傍にいたいと思うから……
「タナカ殿、」
ユラさんが静かな声で私を呼んだ。
「タナカ殿にも、協力して欲しい」
『……』
黒い瞳と灰色の瞳がこちらを見ている。私は掌を強く握って、二人の目を見て頷いた。