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ライフ  作者: 道野ハル
1199年
145/162

贈り物



 ナルと別れて一月ほどたったある日、ラルフが不思議なことを言い出した。


「ほうたい、ある?」

「え?」

「包帯?なんだ、怪我でもしたのか」


 ホアロの問いにラルフはううん、と首を振った。


「さむいから」

「「寒い?」」


 思わず声が重なった。……寒い?今日は天気も良く、どちらかといえば暖かい。それなのに寒い?


「熱でもあるんじゃねえか?」



―――スッ



 ホアロが、そっとラルフの額に触れた。


「どう?ホアロ」

「全くねえな……」

「ちょうだい」

「!あ、うんっ」


 不思議に思いながらも俺はラルフに包帯を渡した。




―――ワイワイ


―――ザワザワ



 午後、俺は市場に出かけた。服屋を探すためだ。



―――コツッ、コツッ



 原因は分からないけど、とにかくラルフは寒いらしい。でも包帯じゃ寒さはしのげない。長袖を着たほうが絶対いいに決まってる。


「あっ!」


 二つ目の角を曲がったところで、さっそく服屋を見つけた。表に色とりどりの衣服が山積みにされている。あそこなら何かしらあるだろう。



「いらっしゃい!」


 店に入るや否や恰幅のいい店主が声を掛けてきた。いかにも商売人という感じだ。俺はすぐに探してる物を伝えることにした。


「あの、あったかい長袖が欲しいんですけど」

「あったかい長袖?この時期にかい?」

「まあ、はい」

「奥にしまっちゃったなあ……ちょっと待ってて!」



―――タタッ……ユッサ、ユッサ



 しばらくすると、店主は大きな籠を持って戻ってきた。


「はい!この中は全部長袖だよ」

「!、ありがとうございますっ」

「お兄さんくらいのサイズは……」

「あ、俺じゃないんです」

「え?」


 小さな目が丸くなる。あ、そうか。先に言っとけばよかったな。えーと、ラルフの身長は……


「(……うん?)」

「……ふふっ」


 妙な視線を感じて目を向けると、なぜか店主がニヤついた顔で俺を見ていた。

 

「なるほど~、女性用ね?なんだよお、贈り物なら先にそう言ってよお」

「?男性用ですけど」

「え。あー……そっち?」

「どっち?」

「え?いや、あの」


 なんだ?ぜんぜん話が嚙み合わないぞ。俺が眉間に皺を寄せていると店主は頭を掻いて笑った。


「いや、お兄さん色男だから!てっきり彼女にプレセントでもするのかと」

「あははっ!そんなの生まれてこの方いたことないですよ」

「え……マジで?」

「どん引きしないでもらえます?」


 興味ないんだからしょうがないじゃないか。


「で、どんな服がお望みなんだい?」

「あ!えっと」


 その後ラルフの体型を告げて相談しながら何着か選んだ。なんか勘違いもされたけど、とりあえず納得のいく買い物ができた。


「色々ありがとうございました!」

「いえいえ、気に入ってもらえるといいね!」



―――タッ



 紙袋を抱えて、俺は軽い足取りで店を後にした。




「ダサくね?」


 開口一番ホアロが言った。


「なんだこの色。こっちの模様も気持ち悪い……これ、お前が選んだのか?」

「そ、そうだけど」

「天才的にセンスねえな」

「そ、そこまでも言わなくても!ねえ、ラル」

「……」

「ほら、ラルフも呆然としてんじゃねえか」

「ええっ!そんなことないよね!?ホラ、これなんかよくない!?」

「……よくない」

「良くないってよ」

「うそーん!?そんなハッキリ言う子だったっけ!?」

「あ、これだったらいいんじゃねえか?」

「え?」


 ホアロが手にとったのは、唯一の店主が選んだ長袖だった。麻の生地で出来た白い服でなんの模様も装飾もない。


「で、でもちょっと地味じゃ……」

「ラルフ、どうだこれ」

「うん」

「ええーっ!!」

「あはっ」

「「!!」」

「あははっ」


 ……ラルフが笑った。


 口を開けて、目じりを下げて、金色の髪を揺らしながら楽しそうに笑ってる。


「ラ、ラルフ!試しに俺が選んだこれも着てみ……」

「いやだよ」

「なんでだああああ!!」

「キショイからだろ」

「ひどいっ!!」


 俺は何だか泣きそうになった。こんな時間がずっと続けばいいのに……。そんなことを心から思った。


 


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