贈り物
ナルと別れて一月ほどたったある日、ラルフが不思議なことを言い出した。
「ほうたい、ある?」
「え?」
「包帯?なんだ、怪我でもしたのか」
ホアロの問いにラルフはううん、と首を振った。
「さむいから」
「「寒い?」」
思わず声が重なった。……寒い?今日は天気も良く、どちらかといえば暖かい。それなのに寒い?
「熱でもあるんじゃねえか?」
―――スッ
ホアロが、そっとラルフの額に触れた。
「どう?ホアロ」
「全くねえな……」
「ちょうだい」
「!あ、うんっ」
不思議に思いながらも俺はラルフに包帯を渡した。
―――ワイワイ
―――ザワザワ
午後、俺は市場に出かけた。服屋を探すためだ。
―――コツッ、コツッ
原因は分からないけど、とにかくラルフは寒いらしい。でも包帯じゃ寒さはしのげない。長袖を着たほうが絶対いいに決まってる。
「あっ!」
二つ目の角を曲がったところで、さっそく服屋を見つけた。表に色とりどりの衣服が山積みにされている。あそこなら何かしらあるだろう。
「いらっしゃい!」
店に入るや否や恰幅のいい店主が声を掛けてきた。いかにも商売人という感じだ。俺はすぐに探してる物を伝えることにした。
「あの、あったかい長袖が欲しいんですけど」
「あったかい長袖?この時期にかい?」
「まあ、はい」
「奥にしまっちゃったなあ……ちょっと待ってて!」
―――タタッ……ユッサ、ユッサ
しばらくすると、店主は大きな籠を持って戻ってきた。
「はい!この中は全部長袖だよ」
「!、ありがとうございますっ」
「お兄さんくらいのサイズは……」
「あ、俺じゃないんです」
「え?」
小さな目が丸くなる。あ、そうか。先に言っとけばよかったな。えーと、ラルフの身長は……
「(……うん?)」
「……ふふっ」
妙な視線を感じて目を向けると、なぜか店主がニヤついた顔で俺を見ていた。
「なるほど~、女性用ね?なんだよお、贈り物なら先にそう言ってよお」
「?男性用ですけど」
「え。あー……そっち?」
「どっち?」
「え?いや、あの」
なんだ?ぜんぜん話が嚙み合わないぞ。俺が眉間に皺を寄せていると店主は頭を掻いて笑った。
「いや、お兄さん色男だから!てっきり彼女にプレセントでもするのかと」
「あははっ!そんなの生まれてこの方いたことないですよ」
「え……マジで?」
「どん引きしないでもらえます?」
興味ないんだからしょうがないじゃないか。
「で、どんな服がお望みなんだい?」
「あ!えっと」
その後ラルフの体型を告げて相談しながら何着か選んだ。なんか勘違いもされたけど、とりあえず納得のいく買い物ができた。
「色々ありがとうございました!」
「いえいえ、気に入ってもらえるといいね!」
―――タッ
紙袋を抱えて、俺は軽い足取りで店を後にした。
「ダサくね?」
開口一番ホアロが言った。
「なんだこの色。こっちの模様も気持ち悪い……これ、お前が選んだのか?」
「そ、そうだけど」
「天才的にセンスねえな」
「そ、そこまでも言わなくても!ねえ、ラル」
「……」
「ほら、ラルフも呆然としてんじゃねえか」
「ええっ!そんなことないよね!?ホラ、これなんかよくない!?」
「……よくない」
「良くないってよ」
「うそーん!?そんなハッキリ言う子だったっけ!?」
「あ、これだったらいいんじゃねえか?」
「え?」
ホアロが手にとったのは、唯一の店主が選んだ長袖だった。麻の生地で出来た白い服でなんの模様も装飾もない。
「で、でもちょっと地味じゃ……」
「ラルフ、どうだこれ」
「うん」
「ええーっ!!」
「あはっ」
「「!!」」
「あははっ」
……ラルフが笑った。
口を開けて、目じりを下げて、金色の髪を揺らしながら楽しそうに笑ってる。
「ラ、ラルフ!試しに俺が選んだこれも着てみ……」
「いやだよ」
「なんでだああああ!!」
「キショイからだろ」
「ひどいっ!!」
俺は何だか泣きそうになった。こんな時間がずっと続けばいいのに……。そんなことを心から思った。