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ライフ  作者: 道野ハル
1199年
142/162

話がしたい



 ラルフが帰ってきた。それは嬉しい。でも、なぜかもう一人増えた。



―――ザッ、ザッ、ザッ



「はあ、全く信じられないな。ここが異星だなんて。まあでもこの文明の低さを見れば信じざるを得ない……か」


 緑色の髪を揺らして異星人(仮称)が息を吐く。……あれ、俺たちバカにされてる?


「……お前、名前は?」

「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だろう?」



―――ピクッ



 あ、ホアロのこめかみが動いた。


「俺はホアロ……こいつはマーラで、こっちがラルフだ」

「それ名前なの?」

「は?」

「ああ失礼、変な名前だったものだから」



―――ピクピクピクッ



「……で、お前の名前は?」

「ナラルード=ヴァギュラ=レポルト三世」

「「はい?」」

「なにか」

「それ、名前なのか?」

「当たり前じゃないか」

「ぶっ……変な名前」

「っ!!、侮辱するなっ!!」

「「!!」」


 突然、異星人が大声を上げた。



―――ググッ



「……っ」

「「……」」


 異星人は真っ赤な顔で俺たちを睨んだ。その目には涙が浮かんでいる。……なんだよ、何なんだよこいつは。なんか、すごく悪いことをした気分だ。


「……ごめん」

「……」

「ごめんな」

「……ふんっ」


 そう言うと、彼はそっぽを向いてしまった。



―――ザッ、ザッ


―――ザッ、ザッ、ザッ



 それから、しばらく誰も喋らなかった。気まずい空気を引きずったまま俺たちは次の国に入った。





―――シャァァァ……



「これは……」

「?」


 入国して少し歩くと多くの人が行き交う広場にたどり着いた。その真ん中にある噴水の前で、異星人がふと足を止めた。


「綺麗だなあ……」

「!」


 奴は恍惚とした顔つきで水を噴出している岩を見た。緑色の瞳がキラキラと輝いている。


「気に入ったの?」

「え」

「不思議な形してるけど、たしかに綺麗だな」

「……ああ」


 そうだろう?と隣から小さな声が聞こえた。偉そうで人を馬鹿にしてるようなところもあるけど……悪い奴じゃないのかもしれない。



―――……



「……?」


 ふいに背後から視線を感じた。


「!……」

「……」


 振り向くと、少し離れた場所でラルフがこっちを見ていた。その顔に表情は無かったけど、何か考えてるみたいだった。



―――タッ



「宿、とれたぞ」

「!ありがとう」


 ホアロが戻ってきた。


「?何してたんだ」

「噴水見てた。なんかこの岩綺麗だなって」

「……お前にもそんな殊勝な気持ちがあるんだな」

「ぶっ」

「なにを!?ってゆうかお前も笑うな!!」

「失礼、あまりにも的を射ているようだったから」

「失礼すぎるだろ!まだ出会ってちょっとしか経ってないじゃん!!」


 こいつはどうしても俺を馬鹿にしたいみたいだ。でも、



“っ!!、侮辱するなっ!!”


“……っ”



「?、なにか」

「べっつにー」


 怒ったり、黙り込まれるよりはいいと思った。


 


 その後、宿に入って四人で夕食をとった。



―――カチャ、カチャッ



「なんだこの料理は?もう少し工夫出来ないものだろうか」

「「……」」


 異星人は出てくる料理にいちいちケチをつけていた。


「(もぐもぐ)」

「「……」」


 ラルフは肉をよく食べていた。



―――カチャ、カチャ……



「ふぉれも(これも)、もっふぉどうにか(もっとどうにか)、ならふぁいものか(ならないものか)……」

「(もぐもぐ)」

「「……」」


 俺たちには共通の話題がないから、まともな会話はほとんど出来なかった。でも嫌な時間じゃなかった。


「では、失礼」

「!ああ」

「あ、おやすみー」


 食事が終わると異星人は部屋に戻って行った。俺たちも、もう食堂に用はない。でも


「……」

「……」

「……」


 ラルフが椅子に座ったままだった。



―――……



 どうしたんだろう?いつも一番最初に席を立つのに。



“……いせいじん”


“あずかって”



 聞きたいことは山ほどある……。でも、きっとラルフは何かを伝えたくてここにいるような気がする。なら、俺はそれを聞きたい。


「ラルフ、俺たちに話があるの?」

「……」


 少し間を置いてから、ラルフは小さく頷いた。


「なに?」

「……あずかって」


 あずかる?森で再会した時も同じことを言っていた。ラルフの真意を考えていると、隣にいるホアロが口を開いた。


「あの異星人を、俺たちが預かるってことか?」



―――コクッ



「「……」」


 俺はホアロと顔を見合わせた。


 ……異星人とラルフはどうゆう関係なんだ?とゆうか、そもそもあいつは本当に異星人なんだろうか。髪も瞳の色も服装も俺たちと全く違うけど、でもだからといって異星人だと判断するのはあまりにも


「さんかげつ」

「え?」


 唐突な言葉に俺たちはラルフを見返した。


「さんかげつ経てば、かえれるから」


 帰るというのは、異星人が自分の星に帰るということだろうか。でも三ヶ月って……なんで三ヶ月?


「おねがい」


 ラルフの瞼が伏せられる。その姿は、目を逸らしているようにも、何かに耐えてるようにも見えた。


「……いいよ」

「!おい、マーラ」

「ただし条件がある」

「……?」


 ラルフは瞼を上げると、どこか警戒するような瞳で俺を見た。俺はその目を強く見返し、大きな声ではっきり言った。


「お前も一緒だ」

「!」


 茶色の瞳が見開かれる。


「……」


 ラルフは息をするのを忘れてしまったかのように、暫くそこに座っていた。




 こうして、俺とホアロとラルフとナル(長いのでナルと呼ぶことにした)は正式に(強引に)四人で旅をすることになった。


 ラルフは相変わらずあまり喋らない。でも、


「それ、なに」

「昨日宿の裏で見つけたんだ。ほら、こう見ると動物の形みたいだろう?」

「ほんとだ」

「……」


 なぜかナルには心を開いているように見えた。……なんでだ。なんで俺たちと話さないでナルばっかり……。



「お前がうざいんじゃね?」

「……」

「冗談だよ。んな顔で見んなよ」


 ホアロに相談しに来た俺がバカだったのかもしれない。


「しかし……気にはなるな」

「だろ!?なんでナルばっかり」

「なんで避けるんだろうな」

「?、避け?」

「避けてるだろ」

「誰が何を?」

「ラルフが俺たちを」

「え」


 え。俺、避けられてた?


「なんだよ、その話してるんじゃねえのかよ」

「え、いや?俺はナルばっかり話しかけられててズルイなあと」

「ガキか」

「……」


 ホアロは息を吐くと少し低い声で言った。


「ラルフは……俺たちと関わることを避けてる」

「……なんで」

「理由は分からねえ。だがそうだろ?なんか聞いても必要最低限のことしか答えねえし、目も合わせねえ。嫌悪感を抱いてるとも思えねえが……極力関わらないようにしてるように見える」


 確かに……そうだ。


「でも、なんでナルは避けないんだよ。おかしいだろ?俺たちと何が違うっていう」

「異星人だからか?」

「え」

「いや、決定的に違うのはそこだろ」

「ああ……」

「まあだからって何でかは分からねえけどな」

「うん……」


 特別、なんだろうか。ナルはラルフにとって特別な存在なのか?


 でも


 俺もホアロも、ラルフのことが特別だ。





―――ザワザワ


―――ヒソヒソ



「?何だ、あの人だかりは」

「うん?検問?」


 四人で旅をはじめて数日後、俺たちは買い出しをするために大きな国に入った。ホアロと二人で広場を歩いていると、前方に赤茶色のテントが見えた。テントの周りには軍人がいて、通りすがる人々に次々と声を掛けている。



―――ヒソヒソ……



「アメリア国から来たらしいぜ」

「!ああ、あの悪魔捜しに力をいれてるっていう」

「前の200年目で、あそこは国土の殆どが壊滅したらしいからな」

「そりゃ躍起になって捜すよなあ」


 人々の囁く声が聞こえた。なるほど、悪魔捜しか。


「本当にあんなので見つかるのかな?」

「何もしないわけにはいかねえんだろ。国民の声もあるだろうしな」

「確かに」


 200年に一度この星を滅ぼす者――どこにいるのかも、どんな姿をしているのかも分からない。分かっているのは人間の姿をしていて身体に大きな痣があるということだけだ。


「君たち、検査させてもらっていいかな?」

「「(げっ)」」


 俺とホアロに声が掛かった。後ろめたいことは何もないけど……なんか嫌だな。



―――タタッ



「ホアロ、マーラ、待たせ……」

「!」


 近くの商店に行っていたナルとラルフが戻ってきた。


「!、君たちの仲間か?」

「え?まあ、はい」

「じゃあ四人とも検査させてくれ」

「検査?」


 ナルが眉間に皺を寄せる。


「なんだ突然、無礼じゃ……もがっ!!」

「うんうん、突然でビックリしたよね~!さ、皆でこの軍人さんについて行こうね~」

「ふぁにをふる(なにをする)!!」

「さあ、参りましょう!アメリア国万歳!!」

「あ、ああ……ではこちらへ」

「はいっ!!」


 暴れるナルを引き連れてテントに向かう。痣があるかチェックされたらそれで終わりなんだから、抵抗したらかえって面倒だ。


「君、何をしてる?」

「え?」


 前を歩く軍人が足を止めた。軍人の視線を辿ると――そこには広場に佇むラルフの姿があった。


「君も来るんだ」

「……」

「どうした、なぜ動かない?」


 ラルフの様子が変だ……。両手をだらりと垂らし、虚ろな目をして立っている。


「ちょっとすいません」



―――タッ



 俺はホアロにナルを預けてラルフに駆け寄った。


「ラルフ、どうし……!」

「……っ」


 すごい汗だ。身体も震えてる。


「大丈夫か、ラル……」



―――バチンッ!!



「!」


 肩に触れようとした瞬間、ラルフに払われた。


「……っ……ぅっ……」


 ラルフは顔を俯けて苦しそうに唸っている……どうしたんだよ。どうしちゃったんだよラルフ……


「その少年を取り押さえろ!」

「「「!!」」」

「「「「「はっ!」」」」」


 ラルフ目掛けて周りの軍人が一斉に動き出した。


 させるか。



―――ザッ


―――バッ


―――ズザッ



 俺はラルフの目の前に立った。気が付くと右側にはホアロ、左にはナルが両手を広げて立っていた。


「なんだお前たちは!!」


 軍人が銃を向ける。


「ひいいいいっ」

「ナル、うるさい」

「だだだだだって、じゅじゅじゅじゅ銃がっ」

「その覚悟で庇ったんじゃねえのかよ」

「覚悟なんてあるか!気付いたらこんなことしちゃってたんだ!!」


 俺たちはラルフを囲むかたちで軍人と対峙していた。


「全員武器を捨てこちらに来い。さもなくば」

「撃つってか」

「!マーラ」


 俺は無意識に前に出ていた。


「こんなに苦しそうにしてる奴によくそんなこと言えるな!!」


 もう言葉が止まらない。


「よく見ろよ!嫌がってるだろ!!なんで嫌なことしなきゃいけないんだよ!!こいつを傷つける権利がお前たちにあるのか!!ないだろうが!!ふざけんなっ!!」


 頭の中がめちゃくちゃだ。でも何か言わずにはいられない。ラルフが何も言わないんだったら俺が言わなくちゃ気がすまない。



―――くいっ



「……マーラ」

「え」


 ラルフが初めて俺の名前を呼んだ。小さな口が何かを言いかける……が、口はすぐに閉じられた。



―――すたすたすた



 俺の服から手を離すと、ラルフは黙って軍人の元へ歩き出した。


「……」

「……」

「……」


 その後、俺たちはテントに入り全員身体検査を受けた。


 ラルフの右肩には痣があったけど、あまりにも小さかったのでお咎めなしで解放された。




 その夜、俺はホアロとラルフの部屋を訪れた。


「……」

「「……」」


 訪れてはみたけど……なに話せばいいんだろう?


 だって昼間明らかに様子がおかしかったから……いや、今までも何かおかしいことは色々あったけど今回は特に気になったっていうか……いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。俺はただ……


「ラルフー!なんか話そうよー!!」

「!」

「単刀直入だな」


 そうだ。俺はもっとラルフと話がしたい。


「なんかナルだけずるくない!?ナルとだけ仲良くない!?そりゃ俺もホアロもラルフからすればおっさんかもしれないけど、おっさんだって話したいんだよ!」

「一緒にすんな」

「ねえ~ラルフ~!!」

「女子か」

「……」


 ふと、ラルフの目元が緩んだ。しかし、それはすぐに締められた。



―――ぶにっ



「!」


 俺はその頬を両手で思いっきり引っ張った。


「!何してんだマーラ」

「なんかキュッってなっちゃったから」

「は?」

「ラルフ」

「……?」


 茶色の瞳が俺を見上げる。


「笑いたいなら笑ってよ」

「……」

「泣きたかったら泣いていいし」

「……」

「ラルフが笑っちゃいけないとか、泣いちゃいけないとか、そんなこと絶対ないんだからな」


 言い切ると、俺はラルフが痛くないようにそっと手を離した。


「あ。でも俺とは話したくなくても話して?寂しいから」

「そこは強制すんのかよ」

「まあね!」


 どーんと胸を張る。ラルフは呆然とした様子で俺たちを見ていた。……ちょっとびっくりさせ過ぎちゃったかな?


「……よしっ!今日は皆で寝よう!ナルも呼んでくる!!」

「せまくね?」

「じゃあホアロは廊下で」

「ふざけんな」

「顔こわっ」

「……」



 その晩、俺たちは狭い部屋でぎゅうぎゅうになって眠った。……いや、ほとんど眠らず明るくなるまで皆でぎゃーぎゃー騒いでいた。


 ラルフは相変わらずあまり喋らなかったけど、たまに小さな子供のようにウトウトしていた。俺はそのことが、とってもとっても嬉しかった。




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