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ライフ  作者: 道野ハル
1199年
140/162

食卓




 数日後、某宿。



「ほら!ラルフこれ美味しいよ!?」

「……」

「おい、言っとくが俺の金だからな」

「うんうん、美味しいなー!」



―――……はあっ



 俺は、今日何度目かの溜め息を吐いた。


「あれ!?ホアロ、それ食べないの?」

「……」


 いつの間にか、偶然一緒になった変な奴――マーラと、負傷した俺たちを無償で助けた金髪のガキ――ラルフと共に旅をすることになっていた。


 いや、“いつの間にか”じゃない。全部マーラが言い出したことだ。



--------

----



「ラルフ。一緒に旅しよう?」

「……」

「ね、ホアロ」

「……は?」

「ホアロからも誘ってよ」

「おい、ちょっと待て。俺はお前と行動するなんて一言も……」

「えっ……しないの?」

「なんでショック受けてんだよ」

「どっか行く当てでもあるわけ?」

「……」

「ないよね、だって俺たち脱走兵だよ?どこ行っても村八分が関の山だよ」

「……」

「決まりだねっ」



----

--------



 帰る場所が無いのは百も承知だ。その覚悟もして逃げてきた。が……赤の他人と旅をするのは想定外だ。200年目が来るまで、俺はこいつらと一緒にいるのか?



―――ガタッ



「「!」」


 ラルフが黙って席を立った。……今日も何も食ってねえな。


「あっ、ラルフもう寝る?部屋まで一緒に行くよ!」

「……」



―――……すたすた



 ラルフは伏し目がちにマーラを一瞥すると一人で食堂を出て行った。


「……俺、ラルフに嫌われてるのかな」

「そうかもな」

「ちょっ、違う!励まして!!」

「……しかしあいつ、なにも食わなくて平気なのか?」


 そう。三人で行動して三日目になるがラルフは一向に食事をとらない。でも弱ってる様子もない。俺たちと同じ速度で進めるし、険しい道も涼しい顔で歩いてる――自分で何か食ってるんだろうか?


「……ラルフは、あの森にいたかったのかな」


 マーラが珍しく神妙な面持ちで言った。


「人を見る目が俺たちと違うよね。どこか怯えてるってゆうか、警戒してるような気がする」

「……」


 こいつはたまに鋭いことを言う。ラルフは殆ど喋らないし、いつも無表情だが――俺も違和感は感じていた。



―――バッ!



「決めた!明日は旨い肉を食おう!!」

「は?」


 いきなり何だ?っつうか……


「誰の金で食うつもりだ?」

「ホアロ」

「……」

「俺、衝動的に逃げてきたからさ!なんも持ってないんだな!!」

「偉そうにすんな」

「同じ物食べればさ、なんかちょっと変わる気がするんだ」


 そう言うと、マーラは食卓を見つめた。


「同じテーブルで同じ物食べるとさ、相手と同じ美味しさを感じてる気になるじゃない?あれ、良いなあって」

「……」

「今まで安い宿だったから料理も微妙だったけどもうちょっと良い宿にすれば」

「全部俺の金だよな」

「ハイ」

「……」

「お、俺もこれから日雇い探してちゃんと稼ぐからさ!」

「ホントかよ」

「ホントホント!!だからっ」


 ねっ、と灰色の目が懇願するように俺を見る。……食べ物を変えただけて状況が変わるとも思えないが……まあ、何もしないよりはマシか。




 翌夕食。


「ハイ!いっただっきまーす!!」

「声でけえ」

「……」


 マーラの話に乗り、いつもより高い宿に泊まった。外で食べても良かったが、人が多い所はラルフが好まない気がしたのでやはり宿の食堂で食べることにした。


 食卓には色とりどりの副菜と共に旨そうな肉か置かれている。しかし、


「……」

「……」

「……」


 ラルフは食べなかった。食べないどころか食器すら触らない。やっぱり駄目か……



「はい!ラルフ!!」

「!」



―――ムゴッ



「!!、おいっ!?」


 なにを血迷ったか、マーラはフォークで肉を刺すと無理矢理ラルフの口に突っ込んだ。ラルフは目を丸くしたまま固まってる。や、これはやり過ぎじゃないか……?


「俺もた〜べよっ……ん!確かに旨い!!」

「……」

「おい、ラルフ動かねえぞ……」

「ほらラルフ、口動かしてみて!柔らかいから簡単に切れるよ!」

「……」

「「……」」



―――……もぐっ



「「(食べた!!)」」 

「……」



―――もぐ、もぐ……



「どうラルフ!?ジュワッってなってパァッてなるよね!!」

「(もぐ、もぐ)」

「語彙力なさすぎだろ」

「えっ、分かんないこの感じ!?」

「いやまあ分かるけ……」



―――……ぽたっ 



「「!」」


 ラルフの目から、雫が零れた。



―――ぽたっ


―――ぽたっ、ぽたっ……



「……」

「「……」」


 ラルフは泣いていた。声も出さずに、無表情で涙を机に落としている。


「……えっ、ラルフごめ、そんなに不味かっ……」

「いや、く、苦しいんじゃねえか?」

「み、水ーっ!!誰か水くださーい!!」

「目の前にあんだろ!!どんだけ視界狭っ……」

「(ごっくん)」

「「呑んだ!!」」



―――タタッ



「お客様!どうかされましたか!?」

「あの、うちの子が肉呑み込んじゃったんですけど大丈夫ですかね!?」

「……は?」

「何聞いてんだよお前はっ」

「だってお腹に詰まって出なくなっちゃったら!」

「詰まるか!!」

「あ、あの、えっと……?」


 喚く俺たちを見て宿主が狼狽している。悪いとは思ったが俺は――いや俺たちは、わざと大きな声で騒ぎ立てた。



“人を見る目が俺たちと違うよね”


“どこか怯えてるってゆうか、警戒してるような気がする”



 涙の理由は、きっとまだ聞くべきじゃない。……三人で旅を続けたら、いつかラルフは話してくれるだろうか。




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