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ライフ  作者: 道野ハル
カタス国
14/162

素顔



 シンイ隊舎、門。




―――スタスタスタ


―――ザッ



「おい」

「うん?」


 俺が声を掛けると、奴はピタリと足を止めた。夜風に揺れる金色の髪がいやに眩しく光る。自分が……どこかで焦っているからかもしれない。


「……こんな夜遅くに散歩か?」

「そっちこそ。しょんべん?」

「うむ。そんなところだ」


 軽い言葉を交わして、俺とユラは一歩を踏み出した。ラルフは涼しい顔でこちらを見ている。相変わらず、感情が読み取れない。


「……どこへ行く?」

「オウド国」

「「!!」」


 オウド国?一体なぜ……。しかし、問い質した処でこいつが素直に答えるとは思えない。ならば、訊くことは一つだ。


「それが、お前の望みなのか」

「うん」

「……」


 隣を見る。ユラと目が合った。ユラは微かに頷くと、ゆっくりラルフに顔を向けた。


「ならば共に行こう」

「……」

「それが俺たちの望みだからな」

「……そう」


 俺たちの答えを聞くとラルフは少し俯いて、いつもより小さな声で呟いた。



―――タッ、タッ、タッ……



「「うん?」」


 ふと、敷地の奥から足音が聞こえてきた。……こんな時間に誰だ?不審に思いながらラルフの背後に目を向けると、予想外の人物がやって来た。


「タナカ!?」

『えっ?ええっ!?』


 タナカは俺たちの姿を見ると戸惑った様子で足を止めた。……何でここにタナカが?


「タナカ殿、如何したのだ?何故ここに……」

『あっ、えっ、ええっと……』

「それなに?」

『え?、!!あっ、あの……風で、服が飛ばされてっ』

「さがしてたの、それだったんだ」

『っ!!……』


 ラルフがそう言うとタナカは罰が悪そうに視線を逸らした。……ここに来るまでに、二人の間で何かあったのか?疑問に思っていると、ふいにユラが口を開いた。


「……タナカ殿、我々はオウド国に行く」

『!、え』

「明日、キヨズミ殿にこの旨を告げようと思う。……タナカ殿の今後のことも、その時にきちんと頼む。だから心配しなくて大丈夫だ」

『……』

「……」


 タナカは、目を丸くしたまま黙り込んでしまった。




 ラルフさんを追いかけて門の所にきたら、そこにイオリさんとユラさんもいた。何を話していたのかは分からないけど三人は決めたみたいだった――私を置いて、オウド国に行くと。



―――グッ……



 よかったじゃないか。これで危険な所に行かなくてすむ。そりゃ三人と離れるのは寂しいけど……しょうがない。だって敵とか戦うとか恐いもん。そこに行かなくてすむならそれが一番いいに決まってる。……よかった。これでよかったんだ。


「……戻るぞ。いつまでも突っ立てたら隊の奴らに怪しまれる」



―――ザッ



 イオリさんが私の横を通り過ぎる。


「タナカ殿、あたたかくして眠るのだぞ」

『……はい』



―――ザッ



 ユラさんも通り過ぎる。



―――スッ、スタスタスタ



 ラルフさんも。


『……』


 私はすぐに動けなかった。



―――ピタ



「タナカ、今なに思ってる?」

『え』


 ふと、ラルフさんが足を止めて振り返った。茶色の瞳が静かにこちらを見ている。……何を、思ってる?


『(えっと……)』


 オウド国に行かなくてすんでホッとした。皆と別れるのは悲しいけど、それはしょうがないことだと思う……ってことを言えばいいのかな?でも、そんなことを聞いてラルフさんはどうするんだろう?なんでこんな質問を……



“今なに思ってる?”



 いや……違う。それは私が“考えている”こと――“そう思おうとしている”ことだ。……本当は何を思ってる?私は、何を望んでる?



“もう大丈夫だ。恐がることは何もない……”


“一人にして悪かった”


“以後、気をつけてよ”


 私は……


『……危ない所には、行きたくない……死にたくない……』

「……」

『……でも……みんなと、離れたくないっ……』


 声が震える。なんて自分勝手なことを言ってるんだろうって思う。でも、これが本当の気持ち……。私が思っていること……


「じゃあ付いてくれば?」

『へっ』

「!おい、ラル」

「安全だったらいいんでしょ?何とかしてくれるよ二人が」

「お前は!?」

「ふあ~」


 イオリさんの渾身のツッコミをラルフさんは欠伸で流した。そして“また明日”と言いながら、一人でスタスタと隊舎の中に入っていった。



―――……



『……』

「……」

「……ふっ」


 三人でボーっと立ち尽くしていると、ユラさんが小さく噴き出した。


「勝手だな、ラルフは」

「ああ……」

「付いていけるのは、我々くらいだろう」

「……だろうな」


 ユラさんの言葉にイオリさんもフッと笑った。月の光がその表情を柔らかく照らしている。……二人とも、なんだか嬉しそうだ。


「戻るぞ」

『!あ、はい』

「ではタナカ殿、また明日!」

『はいっ』


 イオリさんとユラさんに背を向けて、私は弾む足取りで女子棟に向かった。




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