昔話
また、だ
また、始まるのか
誰かがやってきて心を揺さぶる
終わりに向かう三ヶ月――……
*****
オウド国、宿。
―――ぱちっ
―――……
『……』
夜だ……。まだ朝じゃない。窓から入る月の光が弱々しく室内を照らしている。
“終わりに向かう三ヶ月”
確かにそう言ってた。いや、そう思ってた。私じゃない知らない誰かが……。
これは、一体どうゆうことだろう?
ここに来た時、私は三ヶ月で帰れると言われた。いま見た夢と何か関係あるのかな……。
―――ごろん……
今日も、ラルフは見つからなかった。キヨズミさんの力を借りても見つけることが出来なかった。
“タナカ、ついてきてもらっていい?”
“……ありがと”
―――ぐっ……
あの時、ラルフは頼ってくれた。頼ってくれたのに……私は何もできてない。
この先、見つかるのかな。この星で何かが起きる前にラルフに会えるのかな。
―――……ギシッ、ギシッ
『!』
こんな夜遅くに誰かが廊下を歩いてる……。もしかして、
―――タタッ……ガチャッ
「!……タナカ殿?」
『あ……』
ドアを開けると、ユラさんがいた。
「……また恐い夢でも見たのか?」
『え』
ユラさんが心配そうに私を覗き込む。
『あ、えっと、夢は見ました。いつもの変な夢で、三ヶ月がなんとかって……』
「!」
『?、ユラさん?』
「あ……いや……」
ユラさんがぎこちなく視線を逸らす。なんだか様子が変だ……。あ、っていうか
『どこか行ってたんですか?』
「……うむ」
『……』
「……」
ふうっ、とユラさんは息を吐いた。
「隠し事はやめよう……。ラルフを捜しに行っていた」
『!』
「夜であるがゆえ遠くには行けぬが……何かせずにはいられなくてな」
『イオリさんは……』
「イオリは宿に残っている」
……それは、私がいるからだろうか。
「タナカ殿」
ふわりと肩に温もりを感じた。ユラさんの手だ。その手はいつかのように私の心を落ち着かせた。
「前にも言ったが、我々は自分たちがやりたいようにやっている」
『……』
「タナカ殿にも話してよいか?」
『え』
灰色の瞳に力がこもる。
「俺たちとラルフのことを」
―――ドクン
『……聞いても、いいんですか?』
「聞いてほしい」
『……お願いします』
私がそう言うと、ユラさんはありがとうと言って笑った。
―――ガチャッ
「!タナカ、……なんかあったのか?」
『あっ、いえ、あの』
ユラさんと一緒にイオリさんの部屋を訪れるとイオリさんが心配そうな顔で私を見た。何と答えればいいか迷ってると、ユラさんが小さく笑った。
「イオリ。タナカ殿に昔話をしようと思ってな」
「!」
黒い瞳が見開かれる。
「いいだろう?」
「……ああ」
イオリさんは近くにあったクッションを床に置くと、私に顔を向けた。
「座れ。結構長いぞ」
『あ、はい!』
「はははっ!数百年遡るからな!」
『ええ!?』
す、数百年!?え、ギャグなのかな。今笑った方がいいところだったのかな……?
「これから話すことは、嘘みてえだが本当の話だ」
『……』
イオリさんの低い声が部屋に響く。それが合図だったかのように、ユラさんはゆっくり話し始めた。
「はじまりは今から800年前……6度目の世界の終わりの話だ」
オウド国Ⅳ[前篇]【完】