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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国Ⅳ[前篇]
136/162

予期せぬ人物 



 ノベルさんを見送ったあと、私たちはラルフを捜すためオウド国の周辺を歩き回った。山や森、茂みの中を日が暮れるまで捜したけど……今日もラルフは見つからなかった。



―――ザッ、ザッ


―――ザッ、ザッ……



「……タナカ殿、」

『えっ?』


 遠慮がちな声に視線を上げると、ユラさんとイオリさんが心配そうな顔でこちらを見ていた。


「すまぬ、無理をさせてしまったな」

『え!?いや、全然大丈夫です!すいません!』


 駄目だ、不安な気持ちが顔に出てたんだ。この、すぐ顔に出るクセ直さなきゃな……。


「……クラーレの奴らを西の森に運んだ時、あいつ言ったんだ」

『え?』


 反省してるとイオリさんが少し掠れた声で言った。


「帰ってくるつもりだ、って」

『……』

「……」

「その時と今では状況が違う。でも俺は、あの言葉を無かったことにする事はできねえ」

『!』



“タナカ、ついてきてもらっていい?”


“……ありがと”



 ……そうだ。状況が変わってしまっても、あの時ラルフが言ったことが無かったことになるわけじゃない。だったら、



―――グッ



『……明日も、頑張りますっ』

「「!」」



―――ぐぎゅるるるる~



「「『……』」」


 なんでだ……。なんでこのタイミングで鳴るんだ。


「いやはやっ!タナカ殿は本当に愉快だなっ!!」

「っ最強だな……」

『……アリガトウゴザイマス』


 少し軽くなった足で私たちはオウド国に戻った。





―――ザワザワッ


―――ワイワイ



「今夜は良い魚が入ってますよーっ」

「旦那、もう一杯!」

「ははははっ」


 夜の街は賑やかだった。多くの人が露店で食事を楽しんでいる。ラルフがいたら肉食べたいとか言い出すのかな……。



―――ドンッ



『!あ、すいません』


 ぼーっとしてたら知らない人にぶつかってしまった。……どうしよう、何か言われるかな?


「はっはっはっ。可愛い女性にぶつかられて光栄ですよ」

『……え?』



―――タタッ



「!タナカ、はぐれてんじゃねえよ」

『あ……』

「?、どうしたタナカ殿?」

『や、あの』


 私は改めて今ぶつかった人を見た。



―――フイッ



『……』

「……」


 普通にそっぽを向かれた。


「?どうした、ぶつかったのか」

『あ、まあ』

「はっ!もしや、ぶつかったと難癖をつけられ体で払え的なことを言われたのでは……!!」

「失敬な。私がそんな非紳士的なことを言うと思うかね?」

「「え?」」

「あ」



―――パッ



 目の前の――ユラさんと同じような服を着たその人は、バツが悪そうに口を押えた。


「あ?」

「む……?」

「……」


 頭巾から覗く艶やかな黒髪、キリッとした切れ長の瞳、そしてこの独特の喋り方は……


「「『……キヨズミ(隊長、さん)??』」」

「……」



―――……



 キヨズミさん(砂漠の民ver)は黙った。が、すぐに爽やかな笑顔で言った。


「やあ第六班の諸君、元気だったかね?」

「キヨズミ殿……なぜ貴殿が、オウド国に?」

「軍事機密だ」

「その恰好は?」

「マサコくん、相変わらず可愛いね」

『え?あ、はあ』

「無視か」


 なんだろう……何でキヨズミさんがこんな所に居るんだろう?とゆうか、何かおかしくない??軍事機密って言ってるけど、じゃあ何故そんな服を……


「あ、そうそう!ソラノ君からキミ宛ての手紙を預かっているのだよ」

『え!』

「はい、これだよ」



―――カサッ



 ソラノさんから……!


「では、これにて。さらばだ」

『え』



―――ザッ



 封筒を渡すや否や、キヨズミさんは足早に去って行った。



―――ガヤガヤ


―――ワイワイ



「……どうゆうことだ?」

「全く分からぬ」

『ですよね……』


 考えてもしょうがないので、とりあえず宿に帰ることにした。





『すいません、お待たせしました!』

「いや、我々も今来たところだ」


 荷物を置いて食堂に行くと既にユラさんとイオリさんが座っていた。私は慌てて二人の前に腰を下ろした。


「では、食べるとするか!」

『あ、あのっ』

「?どうした」

『これ……読んでもらってもいいですか?』

「「!」」


 先ほど貰ったソラノさんの手紙をそっと机の上に置く。


『こっちの文字、全然分からないんで……』

「!そうであったな」


 自分宛の手紙を誰かに見せるのは気が引けるけど……ユラさんとイオリさんならきっと大丈夫だろう。



―――カサッ



「!……」


 ユラさんは手紙を手にとると、ある箇所で目を止めて柔らかく笑った。


「“第六班の皆に読んでもらってね”、そう書いてある」

『!』


 良かった。やっぱり二人に見られても大丈夫だったんだ……。ユラさんは手紙に目を落とすと声に出してその内容を読みはじめた。



「“マサコさんへ……」



 お元気ですか?


 大変なこともあったと思うけれど、マサコさん達の無事を確認できてほっとしました(キヨズミ隊長が逐一オウド国と連絡をとっていたので皆の状況が分かりました)。


 潜入調査、本当にお疲れ様でした。知らない星で、慣れない環境で、それでも皆のためにオウド国に行ってくれて本当にありがとう。


 この手紙を読んでいるということは、キヨズミ隊長に会えたのよね?本人は何て言ってるか分からないけど、隊長は皆のことが心配でオウド国に向かいました。西大陸でちょっとした外交の仕事があってね、国軍である私達には関係無かったんだけど、隊長はそれを無理やりシンイ隊のものにして自分が西大陸に行っちゃったの。


 ここだけの話だけど、隊長は皆がオウド国に向かった後、何かしら理由をつけて何度もそっちに行こうとしたのよ。


 でも隊長だけずるいわよね。私だってマサコさんや皆に会いたかった。だから、早く帰ってきてね。またお話できる日を楽しみにしています。


 ◯月×日 ソラノ             

 


『……』

「三日前の日付だな……」

「三日でカタス国からオウド国に来たのかよ、どんだけ速えんだよ」

「莫大な金を使えば出来ぬことではない」

「……国の金じゃねえのか」

「かもしれぬな」


 ユラさんの返事に、イオリさんは居心地が悪そうに身じろぎした。


「……ソラノが言ってる、無事が確認できたってのは」

「おそらく我々がアメリア国から戻り、ノベル殿と潜入調査の報告をした後にオウド国から手紙が出されたのであろう」

「調査が終わったって分かってんなら来る必要ねえじゃねえか」

「そうだな」

「……」

「イオリ、いい加減認めてやれ。キヨズミ殿は、そうゆう人なのだ」



“友のために動いた者が、己の出世のためだけに動くとは思えないのだ……”



 ……赤く染まるシンイ廷の庭でユラさんと話した日のことを思い出した。


 あのとき揺れていたユラさんの瞳は、今まっすぐイオリさんを見つめていた。


『……キヨズミさん、あの服似合ってましたね』

「うむ!キヨズミ殿はヨミ砂漠出身であるからな!」

「わざわざあの服持ってきて、どっかで着替えたってことか」

『確かに……。想像すると面白いですね』

「笑えるな」

「なにがそんなに可笑しいのかね?」

「「『!!』」」



―――バッ



 背後から聞こえた声に勢いよく振り返ると――そこには例の服を着たキヨズミさんが腕組みをして立っていた。


「「……」」

『……っ』


 ダ、ダメだ!今この恰好のキヨズミさんを見たら可愛いやら面白いやらで自然に顔がニヤけてしまう……


「……マサコくん、何か楽しいことでもあったのかね?」

『!!』


 キヨズミさんが眉を寄せてこちらを見る。ああ、さっそく顔に出てるんだ……!


『っいや、あの、ソ、ソラノさんから手紙もらって、う、嬉しくて!』

「それは良かった。もう読んでもらったのかね?」

『いいいいいいや、まだです!なんか、そう、お楽しみにしようかなって!!』

「なるほど」

「キ、キヨズミ殿!貴殿はなぜここにっ?」

「ああ……」


 すっ、とキヨズミさんの顔から表情が消えた。


「先ほどオウド城へ行き、ロレンスという男から話を聞いたのだが――ラルフがいなくなったらしいな」

「「『!』」」

「なぜだ?」



―――スッ



 黒い瞳が私たちを捉える。そこには有無を言わさぬ強い光が宿っていた。


「……俺たちも、詳しいことはわからねえ」

「……」

「ただ、」


 イオリさんは息を吸うと、一つ一つ言葉を選ぶように言った。


「オウド国に、偶然あいつの友人がいた。その友人が、死んだ。それであいつは……何も言わずにどこかへ行っちまった」

「……」

「俺たちは、あいつを見つけたい。見つかるまでここに留まって捜し続ける」

「……そうか」



―――フッ



 キヨズミさんは息を吐くと、静かに腕を解いた。


「明日の朝、またここに来る」

「え?」

「一日なら猶予がある。協力しよう」

「……」

「ラルフは性格に難ありだがセンコウとしては秀でているからな。辞められるのは惜しい」



―――クルッ



「キヨズミ」

「?なんだね」


 背中を向けて歩き出そうとしたキヨズミさんをイオリさんが呼び止めた。


「……ありがとう」

「なんだ……?気持ち悪いな」


 イオリさんの言葉に苦笑するキヨズミさん。その横顔は、とても優しかった。




 翌日、キヨズミさんは私たちと一緒に朝から晩までラルフを捜してくれた。……でもキヨズミさんの力を以てしても、ラルフを見つけることはできなかった。


「キヨズミ殿、かたじけない……」

「いや。ラルフが戻ったら、速やかにカタス国に帰って来い」

「はい」


 そう言い残して、キヨズミさんは夜のうちにオウド国を出て行った。


 

 

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