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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国Ⅳ[前篇]
135/162

別れ 



 ラルフがいなくなった。


 あの夜ふいに立ち上がり、風のように姿を消した。


 私もイオリさんもユラさんも、誰も見つけることができなかった。




―――ピチチッ


―――チュンチュン……



「気を付けてな」

「はい」

「西大陸を出るまで油断してはならぬぞ!」

「お前が言っても説得力ねえよな」

「なにを!?」

『確かに』

「タナカ殿!?」

「ははっ、タナカさんも言うようになったねー!」

  

 晴れ渡る空の下、私たちは出国門に集まった――今日、ノベルさんがオウド国を経つ。


「……お前、あの姫のことはいいのか?」

『!』

「いや、気になりますよ。めちゃくちゃ気になります。でも、まずは自分の家族を何とかしたい」


 そう言うと、ノベルさんは紫の瞳に空を映した。


「家族だから言えなかったり、言わなくてもいいやって思ったり……そんな感じでここまできちゃったけど、やっぱり駄目だ。ちゃんと言います。それ、おかしいと思うよって」

『……』

「そう言うことで傷付けるかもしれない、憎まれるかもしれない、でも、だから言わないっていうのは駄目だ。国が違うから傷付けてもいいなんて、そんなことは絶対に無い」

「……そうだな」

「……いつかノベル殿が王になったモートン国を見てみたいものだな」

『はい……』

「あ、それは嫌です。家族問題が解決したら僕は姫を追います」

「「『あ、そうなんだ』」」

「はい」


 ノベルさんはプッと吹き出すと、両手を天に伸ばして言った。


「いやあ、やりたいこといっぱいあるな~!」



―――ザッ



「邪魔だ、眼鏡」

「え?」

「「『!』」」

「リン、それはないぜ」

「そうそう。言い方ってもんがあるだろ」


 リンさんとジミニア国の人たちが出国門にやって来た。三人とも大きな荷物を持っている。


「リン、お前達も今日発つのか?」

「ああ。もうこの国に用は無いからな」

『……』


 リンさんの左腕は、動かなくなってしまった。



“お前がしたいなら、すればいい。だが俺はごめんだ。助ける気はない”


“……それは、お前がこいつらよりも、懸命に生きてきたと自負してるからか”


“そうだ”



 最初は冷たくて恐い人に見えたけど、リンさんは本当に強い人だった。きっと、すごく努力をしてきたんだと思う。腕が動かなくなってしまっても、一言も弱音を吐かなかった。



―――スッ



「イオリ、死ぬなよ」

「!……お前もな」


 リンさんが差し出した右手を、イオリさんは強く握った。


「行こう」


 高く結った黒髪を揺らしてリンさんは歩き出した。


「あ、リン!ったく……世話になったな。あんた達と色々やれて楽しかったぜ」

「また東で会おう」

「!うむ、必ずな」

『あ、ありがとうございました!』


 じゃあ、と笑いながらアビルさんとゼニバさんはリンさんの背中を追い、去って行った。



―――……



「……皆さんは、残るんですね」


 静かになった門でノベルさんが口を開いた。


「ああ」


 イオリさんが低い声で答える。


「ラルフくんに会ったら、伝えておいて貰えます?頼り過ぎちゃってごめんねって」

「え?」

「あの時……アメリアの兵器製作所で色々お願いしちゃったんで」

「ああ、パイプ壊せだの、姫の所に行けだの言ってたやつか」

「はい」


 そう答えると、ノベルさんは少し目を伏せた。


「すごいなあラルフくんは……ああやって、いつも周りの人間を危険から守ってるんですね。ははっ、彼が眠たそうにしているのを見ると、ちょっと泣きそうになります。あの時は僕も必死で、彼の優しさを利用した……というか頼みにしてしまったので。ずっと謝りたかったんです」

『……?』

「……気付いてたのか」

「はい、ごめんなさい」

「いや、謝ることはねえ。あいつも分かってたはずだ」

「……そうですね」



―――さわっ



 ふと穏やかな風が吹いた。風は私たちの髪を揺らして、どこかに去って行った。


「タナカさん」

『え?』


 紫の瞳がこちらを見ている。宝石みたいで綺麗だ……


「向こう帰っても元気でね」

『!!』


 ズン、と心が重くなった。



““神”と呼ばれる者が200年に一度、世界規模の天災みたいなもんを引き起こしてるのは事実だ”


“今年が、その200年目だ”



 そう……皆はっきり口にしなかったけど、ノベルさんもイオリさんもユラさんも、リンさん達も、ここにいる人たちはあと少しで得体の知れない何かに遭遇する。人類の殆どが滅亡してしまう何かに。


 なのに……私は帰るんだ。


 それが起きるのと同時に安全な自分の星に帰る。みんなを残して、一人で……


「わ!ごめん!!そんなつもりで言ったんじゃないよ!?」

『……え?』


 ノベルさんが目の前で両手をブンブン振っている。……私、また顔に出てたのかな。


「いや、なんていうかその……まあ僕も死は恐れているわけで。ほら、歴史を見ると生き残れる確率の方が低いじゃない?でも死んだとしても、タナカさんが別の星で覚えててくれるって思うと、なんか良いなあって……」

『!』


 ぽりぽりと頬をかくノベルさん。少し照れてるように見える。こんなノベルさんを見るのは初めてだ……。


「いや、お前のことは忘れるんじゃね?」

「えー!」

「うむ!タナカ殿の記憶は我々でいっぱいだ!!な!タナカ殿!!」

『……れません』

「「「うん?」」」



―――バッ!



『ぜっだい、ぜんぶっ、わずれまぜん゛っ゛!!』

「……」

「……」

「……」

『う゛っ、ううううーっ!!』

「……泣くなよ」


 きっと私の顔は涙と鼻水でぐじゃぐじゃだろう。でもしょうがない。だって出てくるんだから。



―――……すっ、……ごしごしっ



『!ゔっ、ゔゔーっ』

「イオリ、より泣かせてないか……?」

「……うるせえ」


 イオリさんが羽織の袖で顔を拭いてくれた。でも、涙も鼻水も一向に止まらなかった。


「……タナカさんも、ありがとう」

『え゛っ゛?』

「あの時、人質役をやるって言ってくれて」

『!』

「ありがとう」


 ふわっ、とノベルさんが笑った。


「別れってのも悪くないですね……。別れるから言えることがある」

『……』

「……そうだな」

「うむ」



―――……



 私たちは誰からともなく顔を見合わせた。そして


「「「『ありがとう(ございまずっ゛!!)』」」」


 そう言って、みんなで笑った。




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