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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国III
134/162

上を向いて




―――……



 満点の星の下で、少年は膝に顔を埋めていた。


 閉ざすように、耐えるように、自分の身体を強く抱える。




「あの御方は逝った」


 風に乗って、低い声が聞こえた。


「もともと薬が完成したら、その生を終えるつもりだった」

「……」

「予定通りだ」



―――ググッ



 細い腕に爪が食い込む。


「200年目が来る前に世界を終わらせることはできなかったが、楽しかったと笑っていた」

「……」

「覚えていてやってくれ」



―――……サワッ



「お前には、それができるのだから」



―――ザァァァァ……



 強い風が吹いた。


 風と共に、男の気配は消えた。





 正子達は茂みの向こうで、風に吹き上げられた木の葉を眺めていた。


「……」

「……」

『……』


 あのあと、ラルフの後ろを静かに追ってこの場所にやって来た。……きっと気付かれているだろう。しかし男が去った後も、ラルフはその場を動かなかった。



“予定通りだ”


“覚えていてやってくれ。お前には、それができるのだから”



『(どうゆうことなんだろう……)』


 正子は今まで見聞きしたことを思い出した。



“…………あの御方は、薬を作っていた”


“この星を終わらせることだよ”


“本当は何のために、誰のためにそんなことを……”



 分からない……。分からないことだらけだけど、全てが誰かのために行われているような気がした。それぞれが、自分ではない誰かのために必死に動いていたような、それがああいった結果になったような――そんな気がした。


『(でも……)』


 脳裏に、ナウェ国での夜が蘇る。



“いろんなことをした。恨みもないのに奪ったり傷付けたり……殺すことも……”


“命令であれなんであれ、僕がやったんだ”



 そこに巻き込まれた人間は確実に存在する。



 ……なにが一番良いのだろうか。


 自分たちは、どうやって生きれば




―――ドンッ……パァァァン……



『え?』


 ふと、聞き覚えのある音がした。顔を上げると、遠くの空に光るものが見えた。



―――ドンッ……パァァァン……



「あれは……」

「……美しいな」


 それは細くて小さかったけれど、夜空に咲く花火だった。


「あの、火薬職人か?」

「ああ……すごいな」

『……』


 正子はそっと茂みの向こうに目をやった。



―――ドンッ……パァァァン……



「……」

『……』


 ラルフは夜空を見上げていた。



―――パァァァン……



 どうかその心も上を向いてくれていますようにと、彼女は強く願った。






 やっぱり置いていくんだね



 今、なにを思ってる?



 あなたがいない時間は長い



 あなたがいない世界は痛い



 消してしまおうか



 少しでも 傷が浅くなるのなら




 あなたの傷が 少しでも浅くなるのなら

   




                         オウド国Ⅲ【完】




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