上を向いて
―――……
満点の星の下で、少年は膝に顔を埋めていた。
閉ざすように、耐えるように、自分の身体を強く抱える。
「あの御方は逝った」
風に乗って、低い声が聞こえた。
「もともと薬が完成したら、その生を終えるつもりだった」
「……」
「予定通りだ」
―――ググッ
細い腕に爪が食い込む。
「200年目が来る前に世界を終わらせることはできなかったが、楽しかったと笑っていた」
「……」
「覚えていてやってくれ」
―――……サワッ
「お前には、それができるのだから」
―――ザァァァァ……
強い風が吹いた。
風と共に、男の気配は消えた。
正子達は茂みの向こうで、風に吹き上げられた木の葉を眺めていた。
「……」
「……」
『……』
あのあと、ラルフの後ろを静かに追ってこの場所にやって来た。……きっと気付かれているだろう。しかし男が去った後も、ラルフはその場を動かなかった。
“予定通りだ”
“覚えていてやってくれ。お前には、それができるのだから”
『(どうゆうことなんだろう……)』
正子は今まで見聞きしたことを思い出した。
“…………あの御方は、薬を作っていた”
“この星を終わらせることだよ”
“本当は何のために、誰のためにそんなことを……”
分からない……。分からないことだらけだけど、全てが誰かのために行われているような気がした。それぞれが、自分ではない誰かのために必死に動いていたような、それがああいった結果になったような――そんな気がした。
『(でも……)』
脳裏に、ナウェ国での夜が蘇る。
“いろんなことをした。恨みもないのに奪ったり傷付けたり……殺すことも……”
“命令であれなんであれ、僕がやったんだ”
そこに巻き込まれた人間は確実に存在する。
……なにが一番良いのだろうか。
自分たちは、どうやって生きれば
―――ドンッ……パァァァン……
『え?』
ふと、聞き覚えのある音がした。顔を上げると、遠くの空に光るものが見えた。
―――ドンッ……パァァァン……
「あれは……」
「……美しいな」
それは細くて小さかったけれど、夜空に咲く花火だった。
「あの、火薬職人か?」
「ああ……すごいな」
『……』
正子はそっと茂みの向こうに目をやった。
―――ドンッ……パァァァン……
「……」
『……』
ラルフは夜空を見上げていた。
―――パァァァン……
どうかその心も上を向いてくれていますようにと、彼女は強く願った。
やっぱり置いていくんだね
今、なにを思ってる?
あなたがいない時間は長い
あなたがいない世界は痛い
消してしまおうか
少しでも 傷が浅くなるのなら
あなたの傷が 少しでも浅くなるのなら
オウド国Ⅲ【完】