離した手
「!!、出口だ」
―――ギィッ
―――……
暗い階段を上って地上に出ると、外はすっかり夜だった。空にはたくさんの星が瞬いている。
「全員いますか?」
ノベルさんの声に周りを見回す。イオリさん、ユラさん、ジミニア国の人たち、ロレンスさん、そして……
―――……
『……』
「……」
ラルフの姿も、ちゃんとあった。でも、黙って虚空を見つめるラルフはまるで知らない人みたいだった。
「……イオリさん、城に行くのは僕たちだけで充分です」
「……すまねえ」
「いえ。行きましょう、ロレンスさん」
「はい。リン様たちも――城には最新の医療機器が揃っています」
「!よし、リン行くぞ」
「っ待て」
「どうした……?」
―――スッ……
ジミニア国の人に支えられながら、リンさんはイオリさんを見た。
「イオリ、」
「え?」
「教わったの、あいつだろ」
「!」
イオリさんがハッと息を呑む。
「リン、行くぞ?」
「ああ」
「……」
リンさんが頷いたのをきっかけに、ノベルさんたちは走り出した。広場には私たち四人だけになった。
―――……
―――……
風が夜の森を通り抜ける。ラルフが、ラルフだけが、とても遠い場所にいるような気がした。
―――サクッ……
「!ラル……」
私たちに背を向けてラルフは歩き出した。どこへ行くんだろう……。どこに行ってしまうんだろう……
「っラルフ!!」
―――ガシッ
イオリさんがその手を摑んだ。
「……行くなよ」
「……」
「一人でどっか行こうとすんなよっ」
「……」
「ラルフ、」
「はなして」
乾いた声がした。
「はなして、イオリ」
「……」
「おねがい」
「……」
―――…………すっ
イオリさんの指が、ゆっくり離れる。
―――サクッ、サクッ……
白い背中が離れて行く。
もう誰も、止めることは出来なかった。