ざわめき
『……』
私は茂みの中で動けずにいた。……完全に出るタイミングを失った。
こっそり演習場に出てきて奇跡的に下着を見つけられたところまでは良かったのだけれど、その後なぜかラルフさんとキヨズミさんがやって来て戦いはじめてラルフさんが勝って去って……現在に至る。
今、この向こうにはキヨズミさんがいる。……絶対に気付かれてはいけない。だって何て言えばいいか分からなし、めちゃくちゃ気まずいもん。キヨズミさんが居なくなるまで息を殺して……
―――むずっ
あ、ヤバっ
『はっくしょんっ!!』
「!」
―――ガサッ……
「……マサコくん?」
『あ……』
「それは……」
キヨズミさんの切れ長の目が私の右手――下着を捉えた。
―――バッ!
『あっ、あの、風で服が飛ばされて、それでっ』
「全部聞いていたのかね?」
『え―……や、』
どうしよう、とぼけるべき?でもこの距離で聞いてないっていうのはかなり不自然じゃ……
「……ははっ」
『!』
頭をグルグルさせているとキヨズミさんが小さく笑った。
「面目丸つぶれだな。だが……それが俺なんだろうな……」
『……』
「……止めなくていいのかね?」
『え?』
「ラルフを。あいつは一人で行くぞ」
『……』
「俺は阿呆だな。行けと言いながら、止まってくれることを願ってる……」
―――スッ……コツ、コツ、
そう言うと、キヨズミさんは立ち上がって去って行った。
『……』
“オウド国、いってあげるよ”
“ただし、三人は置いていく”
ラルフさんは本気なんだろうか……本当に一人で?イオリさんとユラさんは知ってるのかな?あの言い方だと、誰にも言ってないんじゃ……
……
―――……タッ
私は隊舎の入口に向かって走り出した。自分でも、どうしたいのかは分からない。だけど……ここにいるのは違う気がした。