はじまりの日
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【1803】
「あの谷底に村がある。村の主を殺し、金品を奪え」
長から命令が下った。小さな村だから俺一人で行ってこいと言われた。短刀を腰に差し、青紫のローブをかぶって俺はそいつの家に向かった。
「……なに?」
「え」
驚いた。そこにいたのは女だった。家の中には変な色の水が入った透明な器がたくさん並んでいた。
女は剣を抜いた俺を見ると、目を細くして言った。
「最近ここらで人殺したり物盗んでる集団がいるって聞いたけど、あんたたちのこと?」
「……」
―――ダッ
黙って床を蹴る。刀を振りかざし一気に間合いをつめた。
―――バシャッ
「!うっ……あっ、ああっ!!」
女が持っていた器の液体を俺の顔にかけてきた。痛い。熱い。目が開けられない。
「斬りかかってきた罰だよ。ま、そのうち治るから」
「……っ」
何も見えない。痛くて動くこともできない。
―――ガシッ
「!」
強い力で肩を掴まれた。体が石みたいに硬くなる。……このまま殺されるのだろうか。
「頼みがあるんだけど」
「……?」
思いがけない言葉が降ってきた。
「あんたたちの親玉に会わせてくれない?」
「え?」
―――……
―――……
「小僧、しくじったのか」
「……」
「あ、そうゆうのいいから。で、話聞いてもらえます?」
言われるままに、長の所に女を連れてきてしまった。きっと後で酷い目に遭わされる。でも任務を失敗してしまったから、どっちみち変わらないか。
「長。私は貴方と契約したいんです」
「契約、だと?」
―――カチャ、カチャ
女は持っていた鞄をあけると、中から小さな瓶をいくつか出した。
「こっちから、睡眠薬、しびれ薬、幻覚剤。どれも即効性がある。しびれ薬はさっきこいつにかけたから、どうだったか聞いてみればいい」
「……」
「私には薬品に関する膨大な知識がある。武器製造の技術も多少ある。そこらの医者や技術者には劣らないと思うよ」
「……大層な自信だな」
「あんたたちとは文明のレベルが違うからね」
「なに?」
女が口元を上げる。
「私は異星人だから」
「「!!」」
異星人……?
「私の星は、この星と違って200年毎に終わりなんて来ない。だから文明は速やかに進化する。まあ、だから滅んだんだけど」
文明、進化、滅んだ?何を言ってるのかよく分からない。
「……お前の目的はなんだ」
「ふふっ」
女は楽しそうに笑った。
「200年目が来る前に、この世界を終わらせること」