星空
―――ガガガガ……ガッ
暫くして、音は止まった。上から下りてきた戸は人一人が這いつくばってやっと通ることが出来るくらいの所まで落ちていた。
―――……
「うっ」
布の向こうでゴデチアは膝をついた。全身が熱く、キリキリと痛む。
「ゴデチア」
前から、しわがれた声がした。
「勝手に打ったのか」
「……っ申し訳ありません」
「……」
薬で無理やり活性化させた筋肉が悲鳴を上げている。ゴデチアは深く息を吐き、呼吸を整えようとした。
「こちらへ」
「……」
ゆっくり立ち上がる。気を抜けば動かなくなってしまいそうな身体を引き摺りながら、ゴデチアは声に近付いた。
―――ズ……ズズッ……
この場所は一段と暗い。夜目が利くゴデチアでも相手の顔を見ることは叶わなかった。
「座れ」
「……」
言われた通りに腰を下ろす。袖が捲られる。乾いた手が自分の腕に触れて、一度ピタリと止まった。
「……」
「……」
―――……カチャ、カチャ
反対側で器具を取り出す音がした。ほどなくして、腕にチクリと痛みが走った。
「直に戻るだろう」
「……はい」
「お前はいつも何も言わない」
「……」
「我慢しなくていいのに」
「……」
「泣いたっていいのに」
……それは、
お前のほうだろう。
―――スゥ……
ゴデチアは、目の前の気配が段々小さくなっている事に気が付いた。
「……エポナ様」
奥歯を噛み締めて言葉を紡ぐ。
「外に、出られませんか」
「……外?」
「はい」
息を吸う。吸わなければ喋れなくなってしまいそうだ。
「いま外に出れば、きっと沢山の星が」
「ゴデチア……」
その声は、とても柔らかかった。
「お前には、ここが闇に見えるか」
「え」
「ふふっ、不思議なものだな。私には……」
まどろむように彼女は言った。
「美しい星空に見える」
―――フッ
するり、と手が落ちた。
もう何の音もしなかった。