寂寞
―――ひっくっ、ひっく……
泣いている
耳に、胸に、身体にしみる音
―――っ……
堪えようとしてる
見えなくてもわかる
―――……
音が 止まった
……
ああ
あと何度 こんな思いをするのだろう
忘れたい 忘れたい
早く
消えてなくなれ
*****
『……う~……ん?……』
……朝?
―――チュンチュンッ……
―――チチッ……
ああ、また変な夢見たな。誰か泣いてる夢……。
―――ごろん……
えっと、今日は何する日だっけ?まだ寝ててもいいんだっけ?
『……うーzz……ん……』
とりあえず、もう一回寝てから考え
「起きたか」
『え?』
背後から聞き慣れない声がした。……誰だろう?ゆっくり身体の向きを変える。
『!!』
―――ガバッ
『……っ』
「……」
古びた扉の前にローブの男が立っていた。
……思い出した。昨日の夜、部屋に食べ物を取りに行ったら誰かが居て、捕まって動けなくなって頭に衝撃がきて……そこで気を失った。
―――……
男は黙ってこちらを見ている。フードを被っているのでどんな表情をしてるのか全く分からない……。
「ここはかつて、小さな村だった」
低い声が部屋に響く。
「周りを木々に囲まれている。外に出ても構わないが森には足を踏み入れるな。勝手な真似をすれば殺す」
『……』
「日が傾く頃にここを出る。それまで大人しくしていろ」
有無を言わせない冷たい響き……。耳元で聞こえたあの声と同じだ。身体が震える。心臓がバクバク鳴る。私は……どうなってしまうのだろう……?
「……時がくれば少年に引き渡す」
『え』
―――バタン
そう言うと、男は部屋を出て行った。
―――……
―――……
……少年って……ラルフ……?
私、帰れるってこと……?
『……っはああああー!!』
安心した。いや、まだ全然安心できる状況じゃないけど希望が持てた。大人しくしてれば皆の所に帰れるかもしれな……
……
……皆、どうしてるんだろう?
私がクラーレに攫われたってことは、皆も危険な目に遭ってるんじゃ……。大丈夫なのかな?怪我してないかな?命に関わるようなことは……
―――ぶんぶんっ
やめよう、そんなふうに考えない方がいい。
“時がくれば少年に引き渡す”
ああ言ってたってことは、ラルフは無事なはずだ。ラルフが無事なら、皆も無事かもしれない……。
―――ヒュウ、ヒュウ……
改めて辺りを見回す。
ここは……廃屋みたいだ。床も柱も天井もボロボロで隙間風が吹き込んでくる。部屋の中には木のベッドと大きな棚、そして……
『……?』
大きな黒い机があった。
どこかで見たことあると思ったらあれだ、理科室にある黒色の机だ。……こんなもの、今までこの星にあったっけ?
この星の全てを見たわけじゃないけど地球よりだいぶ遅れてるという印象があった。だから今、目の前にあるこの机にすごく違和感を感じる……。
―――ちらっ
横を見る。所々割れている大きな窓があった。
―――ギシッ、ギシッ
腰を上げて窓に向かう。古い木の床は歩くだけで軋んだ。できるだけ静かに、ゆっくり歩く。
―――キッ
鍵は劣化しててグラグラだった。そっと回して、窓を開ける。
―――ギィッ
―――サワァッ……
―――……
外には同じような廃屋がぽつん、ぽつんと建っていた。どの家の屋根も崩れていて壁には蔦が這っている。何十年……いや、百年くらい前に建てられたんじゃないかと思うくらい、その家々は古ぼけていた。
―――サワッ……
森から来た風がゆるく、細く抜けていく。壊れた扉がギィギィと音をたてる。地面に生えた花が小さく揺れて、止まる。
また静寂に包まれる。
―――……
寂しい。なんて寂しい所なんだろう……。なんだか堪らなくなって私は窓を閉めた。