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ライフ  作者: 道野ハル
1800年
116/162

さようなら



 ある朝、起きたらラルフがいなかった。隣の部屋にも、宿にも、街にも、どこを探してもあの涼しい顔を見つけることはできなかった。




【1800】




 真っ白。


 見ていた景色に違和感を感じた次の瞬間、視界が真っ白になった。


 同じだ。ここへ来た時と同じ。



 帰るのか


 私の星に帰る


 あいつが


 ラルフがいない星に


 ……



―――……



 白い光が薄れていく


 ぼんやりと見慣れた部屋が見えてきた



 ああ……帰ってきた……


 私がいた場所に……




―――ドドドドドォォォォォォォォンンッ



 !?



―――……



 視界がクリアになる直前 大きな音が全てを覆った


 再び世界が真っ白になる



―――……


―――……



 白い世界


 なんの音も気配もしない


 白い闇が広がる世界


 ……



<お前が生きていた星は、たった今終わった>



 誰?


 ……私の星が、終わった?



<人間の手により、滅んだ>



 ……



<ここが、お前の星となる>



 え?



<生きるも死ぬも、自由だ>



 どうゆう、こと?


 ねえ


 ……


 ……



―――パァァァ……



 白い闇が光に変わる


 眩しい 眩しい……


 そして



―――カッ



 何も見えなくなった







―――ドサッ



 身体が落ちた。柔らかい何かの上に。……頭が痛い。落ちた衝撃ではなく内側の痛さだ。長い間眠っていたような、そんな痛み……



―――ガシッ



 突然手首を掴まれたのと同時に下にある何かが動いた。そのまま強い力で引っ張られて、体を起こされる。


「……ぃたっ」


 手首が痛い。頭も重い。何が起こっているのだろう……?瞼をなんとか持ち上げて目の前の景色を確認する。……暗い。暗くて何があるのかよく見えない。ここは、どこ?私の手を掴んでいるのは……?


「………………サラーフ?」


 掠れた声が聞こえた。息が止まる。ゆっくりと、声がした方に顔を向けた。


「……ラルフ……?」


 姿は見えない。でも気配は分かる。分からないけど何故だか分かる。こくりと、息を呑む音が聞こえた。


「…………なんで……」

 

 小さな声だった。その問いに答えなければ、と頭では思った。が、口から出たのは違う言葉だった。


「……ラルフ……どうしたの?」

「……」

「なにがあったの?」

「……」

「ラル……」


 ゆっくりと、首の後ろに手が回される。冷たい肌が身体に触れた。しがみつくようにラルフは私を抱き寄せた。


「……」

「……」


 どうしたの?なにがあったの?


 ねえ、ラルフ


 ……



―――……



 どれくらいそうしていただろうか。暫くすると、ラルフはそっと身体を離した。


「……」

「……」


 ラルフは何も喋らない……。


「……あの、ね」


 私は自分の身に起こったことをゆっくり話し始めた。見たものと聞いたことを、できるだけ細かくラルフに伝えた。



―――……



 ふと、静かに息を吐く音がした。


「そっか」

「……」

「生きるも死ぬも、自由」

「え?」

「そういわれたんだ」

「……うん」


 ラルフの気配が動いた。


「もう少ししたら、ここを出るよ」

「え?」

「ちょっと休んでて」


 ……“ここ”って、一体何処なんだろう……?


「外、みたい?」

「!」


 私の心を察したようにラルフが訊ねる。抑揚のない――どこか硬く感じる声だった。


「……見たい」

「わかった」



―――……ぎゅっ



 暗闇の中でそっと手が握られる。冷たい。その手に導かれるまま私は闇の中を歩いた。


 それが、ラルフに触れた最後だった。





 やっぱり置いていくんだね



 今、なにを思ってる?



 あなたがいない時間は長い



 あなたがいない世界は痛い



 消してしまおうか



 少しでも 傷が浅くなるのなら

 




                    1799年・1800年【完】




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