迷子Ⅰ
―――数日後
金髪と行動して何日か経った。こいつは謎ばかりだ。
まず何も持っていない。鞄も財布も、何もかも。どこかの街で必要最低限のお金を稼いで、それが無くなればまた稼いで……そんな感じで生活してる。まあ上手くいってるからいいんだけど、すごい日常だ。
そして、こいつは物凄く強い。旅費も金髪が懸賞金付きの悪党を退治したりして稼いでいる。あと食べる量が異常。そしてよく寝る。歩きながらでも寝る時がある。こいつの身体と神経は一体どうなっているのだろうか。
あと、
『あんたってさ、』
「うん?」
『私のこと女だと思ってないよね』
「は?」
そうなのだ。私は一応警戒していた。知らない男と旅をするなんて普通に考えて危ない。危ないけれど他に頼る人もいなかったので取り敢えず付いてきた。でも気を許しているわけじゃない。もしこいつが手を出してきたら股間を蹴って逃げてやる、と思っていたのだけれど……
「女だとおもってるよ?」
『うん。性別は分かってるってことだよね』
「うん」
『うん。オッケー』
ここまで女として見られてないのもどうかと思う。
『あ。あとさ、』
「なに」
『私もなんか仕事したいんだけど』
「え?」
金髪の目が丸くなる。
『私だけ何もしないの変じゃん。対等じゃない』
「そうなんだ」
『なんかない?薬品の調合とか、武器製造の仕事とか』
「たたかってる国に近づけばあるかも」
『戦ってる?戦争中の国ってこと?』
「そう」
『なるほどね。じゃ、案内してもらえる?』
―――ガシッ
『え……』
突然、金髪に手首を掴まれた。
「アンタ、こわくないの?」
『え』
掴まれた手首と自分を覗き込む茶色の瞳に気を取られて頭が回らない。……落ち着け。落ち着くんだ。私は今、何を聞かれてる?
『……戦争中の国に近付くのが、恐くないのかってこと?』
「うん」
『恐いもなにも……そこにしか仕事ないんだからしょうがなくない?』
「……」
『あ、でもあんたは行く必要ないか。ここら辺でも充分稼げるし』
「アンタも行かなくていい」
『え?』
茶色の瞳が真っ直ぐ私を見つめる。
「いいよ、一人でやらなくて」
……なんだこいつは。
『手、痛いんだけど……』
誤魔化した。その瞳を見返すことができなかった。細い指が、すっと離れる。
―――くるっ
「はやく歩いてよ。置いてくよ」
金髪は背を向けると言葉とは裏腹にゆっくり歩き始めた。……付いていくのか?私は、この背中を追ったほうがいいのだろうか。
―――……
サラサラと風に揺れる髪、何を考えてるのか分からない横顔、華奢だけど自分よりは大きい背中。
その全てに、手を伸ばしたくなった。
―――グッ
でも伸ばさない。伸ばそうとしない。
「どうしたの」
『え?』
気が付くと、金髪がこちらを見ていた。陽が向こうにあるからどんな表情をしているのかは分からない。でもなぜか、その眼差しだけは見える気がした。
『どうもしない』
「そう」
金髪は前を向くと再びゆっくり歩き出した。少ししてから、私も歩き始めた。それから宿に入るまで私たちは何も喋らなかった。