背中
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自分がこの世に生まれた時から、遠くない未来に世界は終わると決まっていた。
そうか、終わるのか。じゃあ何をやっても意味は無い。
「アンタは行かないの?」
行かない。何をしても無駄だ。いずれ消える、全て無くなる。
「そう」
……つまらない。
つまらないと思うと生きてる時間は長く感じる。なんで生まれた、なんで生きてる。俺は……なにをすればいい。
「なにしたっていいんだよ」
「ぜんぶ意味ないんだから」
そう言って、少年は笑っていた
いや
笑ってくれていたのだ
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―――スタスタ
―――ザザッ
「……」
ラルフは振り向かない。が、俺が後ろにいることは分かっているはずだ。今はただ、その背中を追う。
―――ギシッ
―――ギシッ、ギシッ
ラルフに続いて工場に足を踏み入れた。
―――……
誰もいない……。どうゆうことだ?
「うえ」
「!」
―――バッ
「!なっ」
ラルフの声に顔を上げると、天井からローブの――クラーレの男が降ってきた。
―――ザンッ
男は短刀を振りかざして俺とラルフの間に入った。
「ふせて」
「!」
咄嗟に身を伏せる。
―――シュンッ
頭上を何かが通り過ぎた。
―――カカッ
そっと顔を上げる。音のした方に目をやると、見慣れない針のようなものが工場の壁に刺さっていた。
「あれは……」
「くるよ」
「!」
今、針を投げた男が新たな針を取り出す。あれは……何だ?もしあれが刺さったら……
「ささったら死ぬかも」
「なに!?」
「そんな気がする」
ラルフの言うことはよく当たる。……充分に用心しなければ。
―――ガチャッ
「……!」
男達に目を向けていると、ふいに奥にある扉が開いた……扉?あんな所に扉など無かったはず……
―――ひょこっ
「……あれ?」
「!」
空いた隙間から、締まりのない表情をした火薬職人が顔を出した。
「昼間の……?」
――――ガッ
男が瞬時に職人を捕らえる。そして
―――スッ
喉元に針を突き付けた。
「!!」
「そこから動くな。動いたら殺す」
「え、え?」
職人は状況が呑み込めていないようだ。身体を硬直させて目を大きく見開いている。
―――……スッ
そっと後ろを見やる。工場の入口はもう一人の男が塞いでいた。どうする、どう動く……?
必死に頭を働かせていると目の前の男が口を開いた。
「お前達は、何者だ」
暗く淀んだ瞳がこちらを見る。……やはり只者ではない。慎重に言葉を選ばなければ……
「我々は……」
「シラガアタマに用がある」
「!?」
ラルフ……!?
「いるでしょ、血色わるそうなヤツ」
「「……」」
誰だ?誰の、なんのことを言っている?ピリピリと空気が張り詰める。男たちは黙ったままだ。
「……あの御方は、お前達に用はない」
「だろうね」
「ここで死ね」
……やるか。
―――バッ……ドォォォン!
最後の煙玉を投げ付けた。室内が白い煙で覆われる。この隙に職人を連れて、ここを離れ……
「甘い」
「!」
―――シュッ
短刀が眼前に迫る。
「くっ」
すんでの所で避ける。避けた直後、男の両手が伸びてきた。
―――ガシィッ!!
顔の横で何とかそれを受け止める。……強い。このままでは押し切られるのも時間の問題だ。……火薬職人は、大丈夫か?ラルフが助けてくれているだろうか……
「何を考えている?」
「!ぐっ……」
ギリギリと更に強い力で押される。冷たい汗が背中を伝った。
「他人の心配でもしているのか?お前のような脆弱な奴にそんな余裕など……」
「そうだ……」
「なに?」
男の背後を見る。自分の口角が上がっていくのが分かった。
「俺は弱い、だから……」
「……?」
「思う存分、誰かに助けてもらうのだ!」
―――ダンッ!
男の後ろで強く地を蹴る音がした。直後、煙の中から黒い影――イオリが現れた。