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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国Ⅱ
105/162

無色



 夜、街外れの林。



―――サワサワ……



 工場の入口で木箱に腰を下ろしながら、イネはぼんやりと月を眺めていた。


「……」


 今年は200年目だが、その時はいつくるのだろう……。明日なのか明後日なのか、それとももっと先なのか。



“……突然すまねえ”



 今日は変な奴らが来た。火薬の製造方法を調べていると言っていたが何だか怪しい奴らだった。



“キレイなんですよ!ピンクとか黄色とか緑とか、色んな色の火花?がパーン!ってなって、あの、暗い空に大きな花がバーンって咲くって感じで!あっ、だから花火って言うんです!”



 ふと頭の中に女の言葉が蘇った。息が詰まる。すぐに吐き出した。


「ふう……」


 そろそろ始めなければいけない。腰を上げて工場に入り、真っ直ぐ奥に向かった。



―――ギシッ、ギシッ……ギッ



 古びた本棚の前で足を止める。



―――ガッ……ガガガッ



 大きな棚を横にずらす。隠し部屋の扉が現れた。



―――ガチャッ



 親父も、よくこんな物を作ったものだ。


 二年前、街の職人たちが火薬製造を止めて国からの指示で末端の作業のみを行うようになった時、頑固者だった親父は売る当てもないのに一人で火薬を作り続けた。


 そんな時、奴らは現れた。この国の服を纏っていたがこの国の者でないことは明らかだった。


 奴らに言われた通りの物を作っていればそれなりの収入を得ることができた。ただ、外に情報を漏らすことだけは固く禁じられていた。そのため、親父はこの工場の中に隠し部屋を作り、重要な作業は夜間に一人で行うようにしていた。



―――カサッ



 今日受け取った紙を広げる。書いてある通りにそれを作る。



―――カチャッ、カチャカチャ……



 色も音もない、漠然とした時間が流れていった。



--------



「……」

「……」


 イオリとユラは茂みの中に身を潜めて、じっと工場を見つめていた。


「……おい、あいつ入ったきり出てこねえぞ」

「工場の中で作業しているのだろうか……?」

「ずっとボケっとしてて今から始めんのか」

「夜遅くなければならぬ理由があるのでは?」

「……」

「……」

「中見てみるか」

「それでは張り込みの意味がなかろう」

「……」

「……」

「やっぱり見」

「イオリ落ち着け」


 イオリに張り込みは向いていないようだった。



―――ガサッ



「「!!」」


 突然、背後で草が揺れた。二人は鋭く振り返った。


「……あ?」


 しかし、そこにいたのは……


「おつかれ」

『お疲れ様ですー……』

「「!」」


 ラルフと、寝ぼけた顔をした正子だった。


「なんでお前ら……っていうかタナカどうした?」

『え?……あー……なんか寝てたらラルフに蹴り起こされて……引きずられてきました……』

「「……」」

「いいかげん起きなよ」

『いや、あなたはいいですよね、たっぷり寝てたから。こっちはそれどころじゃ……』

「もんく?」

『なんでもないです』

「「……」」

「あ」


 茶色い瞳が一点を捉える。正子達はラルフの目線を追った――そこには暗い茂みがあった。



―――……カサッ



 暫くすると草が割れ、人影が二つ現れた。


『!!』

「なっ」

「あれは……!」


 人影は紺藍色のローブを纏っていた。ナウェ国で見たのと同じものだ。フードを目深に被っているため顔は見えない、分かるのは男ということだけだ。



“オウド国は暗殺集団クラーレと繋がっている”



 正子達の脳裏にノベルの言葉が蘇る。三人が息を呑んでいると、男達は周囲を見回し静かに工場へ入って行った。


『……あれ?』


 気が付くと、正子の隣に居たラルフがいなくなっていた。



―――スタスタ



「「『!』」」


 ラルフは、いつの間にか茂みを出て工場に向かっていた。


「イオリ、タナカ殿を頼む」

「!おい」



―――ザッ



 ユラがラルフの後を追う。その後ろ姿を見ながら、イオリは溜息を吐いた。


「ったく……」

『……』


 ユラがイオリに正子を任せて出て行くなど今まで一度もなかった。昼間といい今といい、今日のユラは様子がおかしい。正子は戸惑いながらそっとイオリに顔を向けた。


『あ、あの……』

「!ああ、すまねえ」


 正子に詫びてから、イオリは二人が去った方向を眺めた。


「昔のあいつに似てたのかもしれねえ」

『え?』

「あの火薬職人が昔の……ラルフに救ってもらう前のあいつに」




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