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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国Ⅱ
102/162

気掛かり



―――サワッ……



 イオリ、ユラ、正子の三人は街外れの林に辿り着いた。そこは建物もなく人も通らない、とても静かな場所だった。


「この林の中に住んでんのか」

「なんとも閑かな所だな……」

『……』


 どこかに道はないかと辺りを見回すと、生い茂った草の中に分け入ったような跡を見つけた。正子達は一列になってそこを歩き始めた。



―――サクッ、サクッ


―――サクッ、サクッ



 暫く歩くと前から二人の男が遣って来た。


「!……オウド国民か」



―――サク、サク



 彼らはこの国特有の白くて長い服を着ていた。三人は訝しまれないように気を配りながら歩き続けた。



―――サクッ、サクッ


―――サク、サク



 双方の距離が縮まっていく……。近くまで来ると、男達はスッと草むらによけた。


「どうぞ」

「!、すまねえ」


 優しく微笑む男に頭を下げて正子達は進んだ。三人が通り過ぎると彼らも道に戻り、林の入口に消えていった。


「……火薬職人の知り合いか?」

「うむ。同業者ではなさそうだったが……」

『荷物も何も持ってなかったですね……』


 引っ掛かるものを感じながらも、三人は歩を進めた。



―――サワサワ……



「……ここか」


 30分ほど歩くと少し開けた場所に出た。そこには工場(こうば)を併設した古い家が一軒、ぽつんと建っていた。眺めていると、家の中から作業着姿の男が現れた。


「「『!』」」


 20代後半くらいの男だ。中肉中背で腰まで伸びた髪を一つに結んでいる。男は工場に移動すると、入口に置かれた木箱に腰を下ろして何かの作業を始めた。


「……」

「……」

『……』



―――ザアッ



 ふと強い風が吹いた。男の近くにあった紙が飛んで草の上に落ちる。男は立ち上がると緩慢な動きでそれを拾った。そして拾い上げて顔を上げた瞬間――正子達と目が合った。


「「『!』」」

「……」


 男は黙って三人を見つめた。



―――……


―――……



 無言の時間が続き、正子達は段々不安になってきた。


「(……おい、なんであいつ黙ったままこっち見てんだ?)」

「(我々がどう出るのか様子を伺っているのでは……)」

『(でもなんか、ぼーっとしてますよね……?)』



―――……サクッ



 イオリが一歩を踏み出した。ユラと正子もそれに続く。



―――サクッ、サクッ……サクッ



 男から少し距離をとった所で三人は足を止めた。


「……突然すまねえ。俺らは旅の者で各国の火薬の製造方法を調べて回ってんだが……街であんたの話を聞いた。この国で個人で火薬を作ってんのはもうここしかねえって」

「あ、依頼じゃないのか」

「依頼?」

「ああ、いいんだ」


 男は締まりのない顔で答えた。


「そんなに特殊な物はないと思うけど……どうぞ」

「!、ああ」





―――ギシッ



 工場の中は思った以上に狭かった。三人とも火薬の知識はないが必要最低限の物が置かれているという印象で、突飛な物や怪しい物は見当たらなかった。それでも何か手掛かりはないかと目を配っていると、ふいに男が口を開いた。


「あなた達の国では、どんなものを作ってるんですか?」

「「『え』」」


 三人は固まった。そっと男の顔を見る。……他意は無いようだ。相変わらず締まりのない顔でこちらを見ている。


「あ、アレだ、よくある……アレだよな?」


 イオリがユラに振った。


「!う、うむ!!そんじょそこらにある火薬で……名はなんと言ったか……なっ!?」

 

 ユラが凄まじい形相で正子に振った。


『!!えっ、あ、あれですっ、あの……あっ、花火ですっ!』

「「「……はなび??」」」

『え』

 

 三人の視線が正子に注がれる。


『えー……いや……』


 正子は逃げ出したい衝動に駆られた。が、己を奮い立たせて何とか頭を回転させた。


『あの……ですねっ……広い場所で、空に向かって投げ……あ、打ち上げて?空中で、ば、爆発させるんです!』

「……なんのために?」

『え?いやっ、あの……あっ、キレイなんですよ!ピンクとか黄色とか緑とか、色んな色の火花?がパーン!ってなって、あの、暗い空に大きな花がバーンって咲くって感じで!あっ、だから花火って言うんです(たぶん)!』

「へえ……」


 男の目が僅かに見開かれる。



―――スゥ



 しかし、次の瞬間にはもとの締まりのない表情に戻っていた。


「変わった火薬ですね」

「……」


 無頓着な様子で話す男の横顔を、ユラは黙って見つめた。


「じゃあ俺はそこで作業してるんで、何かあったら言ってください」

「!ああ、すまねえ」


 そう言うと男は三人から離れて行った。





―――サクッ、サクッ



 男の家を後にして来た道を戻る。林の入口に着くと正子が不安そうな顔で口を開いた。


『あ、あの……あの説明で大丈夫だったんでしょうか……?』

「!ああ、助かった。お前があの……何だ、はな……?」

『あ、花火です』

「ハナビ、の話を出したお陰で切り抜けられた。ありがとな」

『!よ、よかったーっ』


 心から安堵の息をつく正子。そんな彼女を見てイオリとユラは小さく笑った。


「それにしても……変わった奴だったな」


 イオリが眉を顰める。


「警戒しねえし、何も聞いてこねえ……興味がないって感じだったな」

「ああ……」

「?どうした」

「え?」

『……ユラさん?』


 イオリと正子がユラの顔を覗き込む。ユラは二人の視線に気付くと頭を叩いて大仰に笑った。


「すまぬ!呆けていた!」

「……お前はどう思う?」

「うむ。あの男が最初に言った“依頼”という言葉が引っ掛かるな」

「そうだな。もしかしたら、すれ違った男達と関係あるのかもしれねえ」

「噂は、あながち間違いではないのかもしれぬ」

『……』



“……国内で売れないから、闇のルートを使って国外に売りさばいてんじゃないかって皆言ってるよ”



「……一旦、街に戻るか。これ以上ここに居てもしょうがねえ」

「それがよかろう。少ない情報で踏み込むのは危険だ。な、タナカ殿!」

『あ、はい!そうですよね!』


 林に背を向けて三人は街の中心部に向かった。


 その後、何軒かの火薬工場を訪ねた。しかし何処も末端の作業しか行っておらず、目ぼしい情報は見つからなかった。


 陽が赤くなり始めた頃に見切りを付けて、三人は宿に足をむけた。





―――……ザッ



 街での聞き込みを終えて宿の前に着くと、入口に意外な人物が座っていた。


「おかえり」

「「『!』」」


 朝、ふらりと居なくなったラルフだった。


「……早いな」

「そう?」


 茶色の瞳がイオリを見返す。


 ラルフは大抵最後に帰ってくる。それが今日はイオリ達よりも先に戻っていた。普段と変わった様子は伺えないが――違和感を感じずにはいられなかった。


「メガネがきてるよ」


 そう言って立ち上がるとラルフは宿の中に姿を消した。


「……」

「……」

『……』


 彼が消えていった方向を、三人は暫く見つめていた。




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