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ライフ  作者: 道野ハル
カタス国
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予期せぬ出来事




『(わあっ!)』


 お昼前に、私たちはカタス国に入国した。


 カタス国は標高の高い山間盆地にある国で、入国門はこの国で一番高い所にあった。眼下には家屋や商店の黒い瓦屋根が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


『(綺麗だ……)』

「タナカ、行くぞ」

『!あ、はいっ』



―――タタッ

 


 イオリさんの声に慌てて歩き出す。


「タナカ殿、今から “シンイ廷”に向かう!そこに上司のキヨズミ隊長がいる。我々を呼び戻した張本人だ」

『!』

「上司じゃねえ、雇い主だろ」

「イオリ、キヨズミきらいだよね」

「いけ好かねえんだよ。こっちの都合お構いなしで、いつもあれこれ押し付けやがって」


 “キヨズミ”さんに対する三人の反応は、相変わらずバラバラだった。イオリさんは嫌っていて、ユラさんはどちらかといえば従順、ラルフさんは……面白いという。


 話によると、キヨズミさんはカタス国の軍“シンイ隊”の隊長で、独自にセンコウを創って国内外の治安維持に努めているそうだ。


 センコウは三つの条件を満たして試験に合格すれば、誰でもなれるらしい。



一、神の為に動く

一、武器を所持しない

一、有事の際は国に協力する



 つまり、出自も経歴も問わない。軍との関わりはあるけれど所属しているわけではない。センコウに加入した人はキヨズミさんの指令に従って国内外のニセ神潰しを行うそうだ。


 設立当初は依頼が少なかったけれど、200年目が近付くにつれてその数は増えているとか……。多くの依頼を受けて適任者を派遣し、速やかに問題を解決するキヨズミさんの手腕は、他国でも評判なのだとユラさんが言っていた。


『(どんな人なんだろう……?)』


 まだ見ぬキヨズミさんを想像しながら、街へと続く坂道を下った。





―――ひそひそっ


―――きゃっきゃっ



 街へ下りた。


 家屋や商店が隙間なく並んでいて地面には黒い石が敷き詰められている。千と〇尋みたいな雰囲気だ。道行く人々は殆どが和服だった。



―――きゃっきゃっ


―――きゃっきゃっ



「えっ!?ちよっ、超カッコイイんだけど!!」

「え~!どこの人たちだろ~!?」

「三人とも美男子じゃない!?」

『……』


 ……先ほどから、すれ違う女子の反応がすごい。皆が皆キャッキャキャッキャしてる。彼女たちの目線の先には――


「うるせえな」

「イオリ、愛嬌を振りまいておけ!いつ己の身を助けるか分からぬからな!!」

「ふあ~……」


 三人がいた。


『……』


 今更だけど私の前を歩く三人はイケメンだ。


 まあ、分かってたけど……でも、こう露骨な反応を目の当たりにするとヒシヒシと感じてしまう。


「……ねえ、あの後ろ歩いてる子なに?」

「付き人かなんか?」

「召使い的な?地味だもんね」


 三人と、私の差。


 普通なら一緒にいることはあり得ない。まるで漫画のようなシチュエーション……。恥ずかしいというか、申し訳ないというか。ああ、今この瞬間だけでも透明人間になれないかな……



―――グイッ



『わっ!』


 あれこれと考えていたら突然腕を引っ張られた。えっ、誰……


『……』

「……」


 イオリさんだった。


「……いつまでも後ろ歩いてんじゃねえよ。並んで歩け」

『……はい』


 ……気を遣ってくれたのか。


「四人で並ぶとせまいよ?」

「(ヒソヒソ声)ラルフ、今その事には触れぬ方がよいのではないか?」

「……お前らが後ろ歩け」


 すっ、とイオリさんの手が離される。



―――ひそひそひそ……



 周りの視線が今度は私に注がれる。……正直とても居づらい。でも、


「zz……」

「ラルフ、起きるのだ!イオリの面子のためにも我々が後ろに下がらねば!!」

「……黙って下がれ」


 恥ずかしさや申し訳なさは、もうどこかに消えていた。




 しばらくして、私たちは“シンイ廷”に辿り着いた。


『(おおっ!)』


 臙脂色に塗られた立派な門……。その奥には歴史のありそうな、これまた臙脂色の大きな建物が堂々と建っていた。




―――ザワザワッ


―――タタタッ



「おーい、書類できたか!?」

「この前購入したあの武器だけど……」

「その印はここに頼む!」


 中に入ると木製のカウンターがあり、白い和服に黒い胸当てを付けた男の人たちが忙しそうに動き回っていた。



―――カサッ



「お忙しいところ相済まない、」


 ユラさんはポシェットから紙を出すと、近くにいた人に声を掛けた。


「ソラノ副隊長を呼んでもらえるか?」

「え?」


 男性の目がユラさんの持つ紙に落ちる。


「……ああ、センコウの!ソラノ副隊長なら今こちらに向かわれて」

「こんにちは」

『!』


 振り向くと、男の人たちと同じ服を着た――女の人が立っていた。


「ソラノ殿!久しいな!」


 この人が副隊長さんなんだ……!


 茶色がかった黒い瞳。髪は瞳の色よりも明るく、肩の上で切り揃えられている。色白で、凛としてて……美人さんだ。


「久しぶり、みんな元気そうね。……あなたが、タナカマサコさん?」

『へっ!?』


 な、なぜ美人さんが私の名前を!?


「あ、ごめんなさい!ユラくんが書いた隊長宛ての手紙を私も見せてもらったの。それで名前を知っていて……。驚かせてしまってごめんなさいね」

『あ、やっ、いえ』


 上手く受け答えできない……。美人さんを前にすると、いつも緊張してしまう。


「ソラノやせた?」


 ラルフさんが会話を切った。……助かった。


「む……。そう言われてみれば、そうかもしれぬ」

「あいつの下で働いてるからじゃねえか?」

「ふふっ。イオリくんは相変わらず隊長嫌いね。実は最近ちょっと忙しくて……。でも、そんなこと言ってたらダメね。もっと食べるようにするわ」


 優しそうな人だなあ……。



―――クルッ



「じゃ、隊長の所に案内するわね」


 そう言ってソラノさんは歩き出した。歩く姿も美しい。……でも、ちょっと元気なく見えたのは、気のせいかな?




 案内されたのは一番奥の部屋だった。


 白い壁と艶やかな木の床――上座に机と椅子が一組置かれていて、その前には椅子が四つ並んでいる。ソラノさんに言われて、私たちはその木製の椅子に腰を下ろした。


「キヨズミ殿は、相変わらず忙しいのか?」


 ユラさんが後ろに立つソラノさんに訊ねる。


「ええ。次から次へと厄介な事を引き受けてくるものだから……。性分なんでしょうね」

「けっ、巻き込まれる人間はたまったもんじゃねえよ」

「……ほんとうね」



―――ガチャ



 ふと、後方の扉が開く音がした。



「待たせたね」



―――コツ、コツ、コツ



 ブーツの音を響かせながら、その人は無駄な動き一つせずに目の前の席に着いた。そして机の上に肘を載せると両手を組んでニコリと笑った。


「久しぶりだな、第六班の諸君。そして……」


 端正な顔がこちらを向く。


「初めましてマサコくん。可愛いね」

『へっ!?』


 か、かわいい!?


「気を付けろタナカ。こいつはどんなブサイクにも、可愛いやら美しいやら平気で言える人間だ」

『え』


 超・真剣な顔で私に忠告するイオリさん。ちょ、なんて反応すればいいんですか。


「心外だな。私はいつでも心から思ったことを口にしているだけだよ?」

「へえ、左様でごぜえますか」

「相変わらずだなイオリ。だからお前は顔が良いのにモテんのだ」

「モテてえなんざ思ってねえ。てめえと一緒にすんな」

「はっはっはっ、若いな!まあ、私のような大人の色気が出るのは、まだまだ先」

「キヨズミはげた?」



―――ピシッ



 キヨズミさんの何かにヒビが入る音がした。……気がする。キヨズミさんはゆっくりと声の主――ラルフさんに顔を向けた。


「やあ、ラルフくん。元気そうだね?」

「キヨズミとちがって若いからね」

「そうだな。君はまだまだお子様だからね」

「18だからね。キヨズミはミソジ?」


 18!やっぱりラルフさん年下だった……!いや、今はラルフさんの年齢を気にしてる時じゃない。さっきから、キヨズミさんのこめかみがピクピクしてる。顔は笑顔だけど、こめかみだけはピクピクしてる……!


「キヨズミ殿!して、火急の任務とは?」

「……ああ」


 ふいに、キヨズミさんの顔から表情が消えた。


「君たちには、これから西に向かってもらう」

「西?」


 イオリさんが怪訝な顔をする。質問したユラさんも眉を顰めている。……西って?二人の反応を気に留める様子もなく、キヨズミさんは無表情で続けた。


「同盟国である西のオウド国から依頼が来た。停戦中の敵国に怪しい動きがあるので、調査に協力して欲しいと。オウド国は我が国にとって重要な国だ。この依頼を無下にはできん」


 そこで、とキヨズミさんは息を吸った。


「諸君らセンコウ第六班を、オウド国に派遣する」

「「!!」」

「オウド国はこの調査を大事にしたくないため少数精鋭を所望している。少人数と言えど、国軍である我々シンイ隊が動いたことが敵国に知られれば厄介だ。しかし、諸君らセンコウは軍ではない。戦闘能力にも長けている。今回の件に打って付けの人材というわけだ」


 つらつらと淀みなく告げるキヨズミさん。停戦、敵国、戦闘能力……。何だか恐い言葉が……


「マサコくん」

『!、はい』


 突然、キヨズミさんが私を見た。


「君にも同行してもらいたい」

『え』

「おい!!」



―――ガタッ



 イオリさんが声を荒げて立ち上がった。


「てめえ……さっきから何を抜かしやがる……」

「諸君らとマサコくんをオウド国に派遣すると言っている」

「それってさ、」


 ラルフさんが口を開いた。


「神のために動くのはやめて、武器をもって国に協力しろってこと?」

「そう捉えてもらって構わない」

「タナカをつれて行かせたいのは、異星人だから?」

「ああ」


 え?どうゆうこと……? 混乱してるとキヨズミさんが驚いた表情で口を開いた。


「三人から聞かされていないのかね?」

『え?』

「異星人はどんな言語でも解し、話すことができると」


 え!そうなのっ!?


「マサコくんは不思議だとは思わなかったのかね?違う星の人間と普通に会話が出来ることが」

『あ、はあ……』


 ……そう言われてみればそうだ。


 日本ではない、まして地球ではない場所に住んでる人たちとなんの支障もなく喋れるなんておかしいじゃないか。なんで何も思わなかったんだろ……?バカなのかな。


「……教える必要などなかったのです。この東にいる限りは」

『!』


 そう言うと、ユラさんは静かにキヨズミさんを見つめた。


「キヨズミ殿。貴殿が最も重要だと言っていたセンコウになる為の条件、“武器を所持しない”という掟は……もう、いいのですか?」

「大切なものは時勢で変わる。今は国に協力することが最重要任務だと思いたまえ」



―――ダンッ!



 イオリさんがキヨズミさんの机に拳を叩きつけた。


「いけ好かねえ野郎だとは思ってたが……ここまで腐ってたとはな」

「……」

「やってられるか」



―――ザッ


 

 そう言うと、イオリさんは扉に向かって歩き出した。


「待てイオリ!何処へ行くのだ!!」

「こんな場所にいられるかっ」

「金ならないぞ!!」

「……は?」



―――ガタッ



 ユラさんは立ち上がると、なぜか胸を張って言った。


「カタス国に入国すれば何とかなると思っていたからな!今我々は一文無しだ!!食料も買えぬ!!宿にも泊まれぬ!!」

「……」



―――ぐぎゅるるるる



『!』


 最高のタイミングでイオリさんのお腹が鳴った。つ、つらい……この仕打ちはつらすぎる……!


「キヨズミ、メシちょうだい」

「……早速手配しよう」


 ラルフさんが助け舟を出した?ことで、取り敢えずこの場はおさまった。……おさまったのかな?




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