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ノアの選別  作者: 土楯人
一章
4/9

第四話 異常者

8月ですね!夏が始まりました!宣言通り更新です!(強引)

 春の日差しが柔らかい閑静な住宅街。

 カツンカツンと、硬質な音が静寂を破る。


 異形がいた。


 両腕から長い金属質の棒が地面へ伸び、二本の棒と一本の足で跳び跳ねるように猛進する。大型の獣を思わせる姿は、通行人がいれば十人が十人己の目を疑ったことだろう。


 俺だ。


「いっけなァい!遅刻遅刻ゥ!」


 現在、俺は八重島大学の新入生ガイダンスに向かっている。寝坊したわけではない。ただ、退院したばかりで松葉杖の移動時間を考慮してなかっただけだ。

 このままでは間に合わないと焦る中で俺は閃いた。


 ーー松葉杖を「支え」ではなく「加速」に使えれば。


 思いつきのままにバタフライで水をかくように前傾した松葉杖で地面を押し出すと、走るのと遜色無い程のスピードが出た。


 そして今に至る。


「間に合うぞ!この速度なら確実に!」


 リハビリ生活の中、久しく感じなかった空気を裂く感覚でハイになるのが分かる。やはり進化で二足歩行になる必要なんて無かったんだ。今の俺は四足歩行ならぬ三足跳躍だが、曲がれないし止まれないしうるさいし腕がもげそうなのを除けば欠点は無い。幸いにも八重島大学に繋がるこの道では朝は人も車も滅多に通らず、いるとすれば同じ大学生ーー!?


 不意に曲がり角から少年の顔が覗き一瞬頭が真っ白になる。


 まずい。急いで思考を再稼働し、予め考えてあった対策を実行する。松葉杖と右足で強く踏み切ると、爆発的な推進力を得た体は少年の顔の高さを優に越えた。

 スローモーションになった視界の中、少年が立ち止まって顔だけ出していたのが見えた……こちらが跳ばずともぶつからない位置に。


 そりゃあ、曲がり角の向こうから騒音がしてたら飛び出さずに様子見るよなあ……

 穏やかな納得に浸るのも束の間、背中から無様に着地する。


「がふっ。」

「……大丈夫ですか!?」


 暫く固まっていた少年が駆け寄ってくる。中高生辺りか。八重島市に大学以外で私服可の学校は無いので、春休みに散歩でもしているのだろう。


「怪我してるじゃないですか!……って包帯?元々??」

「大丈夫、君は悪くない……分かってたんだ……こうでもしなきゃ、止まれないってことぐらい……」


 背中の痛みを極力意識から外しながら立ち上がると、金属製の松葉杖が歪んでいた。

 もう走れないーーか。


「ーーそれでも、バタフライをすると決めたのは、俺だから。」

「バタフライと言うよりバッタでしたけど……」

「ドラゴンフライーーか。ははっ、良いね。」

「それトンボです。」


 一歩踏み出すと体がぐらりと揺れ、すかさず少年に支えられる。


「行き先はどこですか?荷物持ちますよ。」


 触れた少年の手が微かに震えているのが分かる。筋力の問題ではなく恐怖からだろう。朝一で目にした奇行に怯えながらも助けようとしている。優しい子だ。


「ありがとう。けど、いいよ。ここから大して歩かないし、手伝ってもらっても心苦しくなるだけだよ。」


 それからも協力を何度か辞退すると、少年は心配そうにチラチラと振り返りながら歩き去っていった。


 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 経済学部生用の部屋には始業ギリギリで到着した。骨折はもちろん、道に迷いもした。学部棟やら記念館やら書かれても位置関係が把握しづらいし、一号館二号館とナンバリングするなら端から番号を振ってほしい。


 資料を受け取って手近な席に向かうと、覚えのある顔を見つけた。


「おはよう。さっきぶり。」

「!バッタの……じゃなくて、同じ学部だったんです……だね。時間かかってたけど本当に怪我は大丈夫?」

「大丈夫。道に迷ってただけだから。」


 先程の少年だ。大学生だったのか。頷きつつ彼の手元のアンケートに書かれた名前を読む。湯山森狸……森狸?読めない。森狸……森の狸……


湯山ゆやま……トトロ君?」

「そんなキラキラした名前じゃないよ。湯山森狸ゆのやましんりです。よろしく。あなたは?」


 受け取ったばかりの紙袋から学生証を取り出すと、森狸は一瞬困惑の表情を浮かべた。


「分かるよ。難しくはないけど合ってるか不安になる名前だろ?」

「そうだね……お父さんが化学好きなの?」


 アルケンとは、二重結合した炭素を含む炭化水素ーー要は分子のグループの一つである。高校化学とはいえ化学基礎の範囲外なので、文系学部でされるとは思わなかった指摘に軽く驚く。途中で文系に切り替えたクチだろうか。


「さあ?会ったことないから分からん。」

「…………地獄みたいなやり取りしてごめん。」

「いいって、いいって。何の感情も無いし。」


 それに「やり取り」で括られるとトトロ呼びも地獄にカウントされてそうで怖い。


「そんなことよりLINE交換しようぜ。」

「うーん、後でならいいよ。」


 森狸がちらりと教壇に目をやって答えると、示し合わせたように教授の声が講義室全体に響いた。


「ガイダンスを始めるのでスマホは鞄にしまってくださーい!」


 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 店長

『こんな後ろ向きな信頼初めて見ました。』


 トーク画面の先頭の文章を見て直前のメッセージを思い返す。


『革命家EXの追加が完了した。

 ただし、極力他人には開示しないでほしい。

 私の名前の表示も変えておいた方がいいだろう。

 公平性に欠けて大っぴらに言えないのはもちろん、就職活動に使うのでもない限り、無闇にEXを公開するのは無為な反感を買う行為だからね。

 同じEXからの忠告だよ。』


『私に不利な事柄を敢えて文書で残しておくのは、君が何か問題を感じた時にいつでも告発できるようにするためだ。

 信頼の証だと思ってほしい。』


「……」

「桜田君?」

「ああ、ごめん。QRコード探してた。」

「……ホーム画面にあるよ。まず下のタブを……」


 “才能スキル”の隠匿は簡単だ。自身の”才能”を表示するアプリ「スキルチェッカー」には非表示機能が付いているため覗かれても問題無い。

 高ランクの“心理学”持ちなら何か隠していると勘づく恐れはあるが、”才能”の秘匿自体は珍しくもないのでまさかチートをやらかしているとは考えないだろう。

 こちらもBランクとはいえ”心理学”の心得がある。こんなに圧倒的有利な条件下で後れはとらない。


「……やっぱりやめとく?」

「なんで?」


 唐突な発言に戸惑う。リアクションはとっていたはずだが、上の空に見えただろうか。


「言おうかどうか迷ったんだけどーー僕は、EXランクの”心理学”を持ってるんだ。」

「!ーーそれは、凄いな。」


 動揺を隠し切れない賛辞に何を思い出したか、森狸は憂いを浮かべて続ける。


「心理学の大枠は統計学でね。会話中に唇を触るなら不安を感じている可能性が高い。そんな確率論を幾つか重ねて感情や次の行動を推測する。それでも、ただ唇の荒れを気にしているだけかもしれない。敢えてそう振る舞ってミスリードを誘っているかもしれない。いくら突き詰めても確率は確率でしかないんだ。

 ーーけれど、僕は見ただけで直感的に感情が分かってしまう。」


 “心理学”を活かすには相手の選択肢を絞っておくのが有効だ。ゲームを持ちかけてルールで縛るのはその代表。真偽の二択に持ち込みさえすればフェイクを混ぜられても他の要素で看破できる。

 逆に言えば、ただの日常会話の中で「桜田或献が隠しているのは”革命家EX”であり、偽物のチートである」などと、「はい」か「いいえ」で答えられない複雑な解答を見破られることはそうそうない。

 だが、本当に瞬時に感情を読み取れるのだとすればーー


「ああ、桜田君も”心理学”を持ってるんだね。

 そうだよ。無意識に心理を特定できる分、意識を思考の分析に回せる。テレパシー紛いのことができてしまうんだ。」


 戦慄が走る。分析されたところで発想自体存在しないであろう”革命家チート”は依然安全圏にある。しかし、決してその程度で安心できる手合でもない。何がきっかけで真実に辿り着いてもおかしくないからだ。

 分析の精度にもよるが、超能力と呼んで差し支えない異能。これを相手に心理戦なんてできるか……?


「始めは皆珍しがってくれるんだ。でも、段々と新鮮味が無くなって、僕が秘密をたくさん抱えた頃から、気味悪がって周りに人がいなくなる。はっきり嫌いと言うことも無くゆっくり離れていく。優しい人達だよね。気を遣っても、僕には本心が分かってしまうのに。

 そうやって、悪人なんていないのに独りで独りでに傷付いていく。今では、連絡先に名前があっても、連絡が繋がる人なんていないんだ。

 ーー桜田君が友達になろうとしてくれたのも、本心なのが分かって嬉しかった。だけど、何か秘密にしなきゃいけないことがあるんだよね?

 だったら、僕と喋っちゃ駄目だ。」

「……一応聞くけど、情報収集が趣味だったりする?」

「ううん、自分から情報を集めに行ったことは無いし、仮に何か知ってしまっても他言はしないよ。それでも、誰にも知られたくないことを勝手に知ってる相手なんて最悪でしょ?」


 ああ、最悪だ。

 何のメリットも無い。


 相手の情報は抜くだけ抜いて自分は与えないなんてただの搾取だ。情報の価値を理解していない。折角の才能に振り回されている。関係を続けてもデメリットしかない。


 ……ただ、多分良い奴ではあるんだよな。

 悪人とまでは言わずとも、普通ならまず他人の弱味を握ってクラスを掌握しにかかると思う。それに、こちらから申し出ておいて”才能”を聞いた途端「じゃあいいです~」と離れていくのが一番彼を傷付けるんじゃないか?


 それは少しーー気が進まない。


 腕を組んでウンウン唸っている俺を、笑顔なのにどこか悲しげな、健気な表情で森狸が見守っている……やめろよ、そんな顔。断りにくいじゃんか。


 そもそも、誰にも言わないと宣言しておきながら、相手は秘密を知られたと認識できている。全員が”心理学”持ちだったわけでもあるまいし、余程態度に出やすい性質なのか、今回のように都度馬鹿正直にどんな秘密を知ったか通達していたのかは定かでないが、そんな人間の口の堅さが当てになるだろうか?……その目やめろ。


 それに、EXランクは能力にムラのある者が多いとはいえ、今の話も表情も”心理学”で作っている可能性はまだ残ってーーいや、この考え方は良くないな。


 高ランクの“心理学”持ちは風評被害を受けやすい。心を読めるんじゃないか。他人を誘導して操れるんじゃないか。平然と嘘を吐いているんじゃないか。

 EXともなれば数え切れないほどそういった疑いをかけられてきたことだろう。一つ目に至っては事実だし。


 そんな相手を”才能”が理由で突き放すことは、俺にはできない。


「事情は分かった。その上で頼む。

 ーー友達になろう。」

「……僕なんかが、本当にいいの?」


 手を差し出すと、躊躇いがちに森狸の腕も動き出す。


「ああ!秘密がバレて困るのは俺じゃないから大丈夫だ!」

「そういう問題!?」


 瞬間、硬直した森狸の手を強引に掴む。

 すまない、旧海さん。会ったばかりの友人と会ったばかりのおっさんなら俺は友人をとる。バレたら何とかしてくれ……!

 心の中の旧海が机を叩きながら立ち上がるのを見なかったことにする。


「よろしくな、湯山。」

「……うん、よろしく。桜田君。」


 困ったような、嬉しいような。少し曖昧なはにかみを見れば、この選択が間違いではなかったと、そう思える。


 LINEを交換すると、自分の等身大桜田或献人形のアイコンが目に入ったので、若干しんみり度の高いこの場を和ませようと試みた。


「そうだ、このアイコン俺が中学生の時に作った人形なんだけど、九十九岬の崖あるじゃん?あそこから落ちたら何秒ぐらいで海面に当たるのか気になって、当時の俺と同じ身長と体重になるように砂袋を人の形っぽく組み合わせて、顔に名前書いた紙貼って三体ぐらい落としたんだよ。そしたら、二日後ぐらいに浜に打ち上げられてさ、」

「あははっ!それは桜田君も悪いよ。」

「えっと、まだオチじゃないんだけど……」

「……?ボロボロになった人形を見た人が何かしらの呪いの人形と勘違いして学級会になったから自首したら凄く怒られた話だよね?」

「あれ、中学同じだっけ?」

「ううん、初耳だから違うと思うよ。桜田君が今自分でそういう話をしてたんじゃん。」

「……マジで?」


 今の導入でそこまで見抜かれるの怖いんだけど。というか、エピソードトークが途中で終わって消化不良……


 ……そういうところじゃねぇかなあ!?


つい先日初評価を頂きまして、嬉しかった作者は小躍りしながら書き貯め0の背水に踏み切りました。

ありがとうございます!

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