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とある性悪女の話

作者: 春夏冬 悪姫

「セラを引き取らせていただきたい。」

彼の真摯な眼差しを私は真っ向から受け止めた。

しかし、少しして目を逸らしたのは私の方だった。

「分かりました。」

私はそうつぶやくしか無かった。

胸に溢れるは後悔と悲しみ、そしてふたつとは反する安堵だった。



姪のセラ フォードが家に来たのは確か1歳と数ヶ月だったと思う。

詳しくは聞いていない・・・聞く気がなかったので判然とはしないが。

母親であり、私の妹のアリスはとても純粋な女性だった。

最も階級の低い男爵の娘、それも片田舎で力も財力も強くない家の彼女だが人を愛し他者が傷つくのを嫌い平和を愛した。

そんな彼女が私のコンプレックスだった。

私より遥かに綺麗な容姿にその聖女のような性格。

醜く人を疑い他者が落ちることに愉悦を感じるそんな私はどうしても比べてしまうのだ。

・・・思えば私は彼女に憧れていたのかもしれない。

そんな人間でありたかったと。



私は家のことは全て妹である彼女に任せ、領地の街に住み着いた。

・・・こんなことしても気にも止められないくらい私は家での立場がなかった。

家から持ってきたものは全てお金に変わり、それもすぐに使い果たした。

薬草を取っては売り払い、たまに男をつかまえて体を売った。

幸い男たちからしたら私はまだ上物らしくそれなりに買い手はついた。

そんな生活をしてた中、アリスは突然家に転がり込んできた。

まだ、幼児のセラを連れて。

そして、その4年後彼女は病で亡くなった。

私は知らなかったがいつの間にか私の家は取り潰しになっていたのだ。

今の領主が誰かは知らない。

ただ、セラの父親は知っている。

王都に居を構える公爵のフォード家 その次男である。

どういう形で2人が知り合ったのか想像もつかないが、この次男は女癖が悪かった。ついでに既婚者だ。

想像できてる方も居るかもしれないがアリスは彼の愛人だった。

・・・いや、彼女の性格上自ら不倫なんてしないだろう。

多分知らなかったのだ。

あとは、どうゴタゴタがあったのか。想像するのも嫌になる。

結果すべての責任はアリスに背負わされアリスは私のところにやってきた。

来ても私から散々な目にあうのは知ってるだろうに。

そもそも私は彼女のことを好ましく思ってなかった。それが明らかな上下関係を得たのだ。

もう、やりたい放題だ。お金を稼ぐ面倒事はすべて彼女に任せた。

彼女は笑顔で住まわせてくれてありがとうなんて言うのが死ぬほど気に食わなかった。

だから、もっと追い詰めてやろうと思った。

気に食わないことがあったらいちいち大袈裟に反応した。

謝る彼女を見ると心が安らいだ。

セラは明らかに発達が遅れていった。

私はそれを気にしなかった。

アリスに似てとても美しくなることを予感させるその顔立ちは私をいらつかせた。

やせ細ったその体で私の代わりに薬草を取らせに行かせた。

得た金は全て私の酒代に消えた。

ただ、私はお酒に強くないので適度に吐いていたが。

それも含めてだった。

吐く度にアリスは私を心配してくるのが目障りだったくらいでその時の私はとても愉悦にひたっていた。

アリスがなくなってから私はセラを働かせてまた男漁りを始めた。

セラは売ったお金で少しのパンとミルクを買っていた。

私はセラが稼いだ大半を使い酒を飲み遊び暮らした。



そんなある日セラが8歳になる時だったか。

とうとうセラの体が限界を迎えた。

ベットで寝ている彼女は病に倒れたアリスを彷彿とさせた。

これ以上働き手を失っては困るな。私はそう考えた。

仕方ないので栄養のあるものと久しぶり取った薬草を使わせて薬を買ってきた。

周りは酷く驚いていたが、これ以上金を作るのを失うのはごめんだからねと言うとひでー女だと笑っていた。

ベットで横たわるセラは私の作ったスープをあまり口にしようとしなかった。

それどころか私を見ておばさんが食べてと笑ってみせた。

そんな所まで彼女に似てるのか・・・。

私は頭をかいた。

スプーンを手に取るとむりやりカノジョの口の中につっこんだ。

「死なれたらあたしが困るんだ!」

私の叫び声にセラは目を丸くした。

それからは回復するまで大人しく食べるようになった。

セラが回復する頃、逆に私は体調を崩した。

セラはいつも通り薬草を取りに行く。

私はベットの中で久しぶりにアリスのことを思い出す。

そういえば、あの子は私に何も言わなかったな。

そんな酷い姉なのに。

そう思えた瞬間少し笑ってしまう。

無自覚がやっと自覚したのかと。

閉じてた目を開く。

ベットの横に私の顔を覗くようにあの顔があった。

あの美しい顔。

私と違う聖女のような。

「おば様。大丈夫?」

幼く優しい声色で彼女は言う。

この子はおかしいのかもしれない。

こんな私にそんな言葉をかけるなんて。

もう少しこの子と向き合ってみよう・・・。

私が少しずつ変わっていった。


あれから1年。

セラとの生活は穏やかなものだった。

真面目に働きこそ出来なかったが多少の料理を振舞ったり、一緒に出かけたり。

仲がふかまるように努力はした。

しかし、私は私だ。

どうしても素直に彼女を愛せない。

何かにつけて小言を言うし、あえて彼女が苦手なことをさせてしまう。

やはりどこかで彼女に嫉妬してしまうのだ。

そんな自分に嫌気がさしていた時、彼はやってきた。


それは突然の訪問だった。

家の前にこの街とは全く似つかわしくない馬車が止まった。

その馬車には見覚えのあるエンブレムが刻まれていた。

あのフォード家のものだった。

あの父親が今更何をしに来たのか?

そう思ったが降りてきたのは全く知らぬ男だった。

私はセラに2階で待ってるように伝えるとそのまま男を出迎えた。


男は長男で今の当主を名乗った。

話を聞くにアリスは亡くなる1年前にあの父親に手紙を出していたのだという。

それの内容は姉の家で暮らしてること。セラは元気に(これは嘘になるが)育っていること。もし出来るならまた会いたいこと。

それだけだった。

感情が欠落してるのでないか?そう疑ってしまった。

彼女の境遇・・・私のことも多々あるが・・・を思えばあの父親に恨みのひとつもあっていいだろう。

話を聞くに限るがそんなことは一切書かれてなかったらしい。

そして、男はそこであの次男がやらかしたことを知ったらしい。

そもそもアリスという愛人とその話の顛末を知らなかったのだそうだ。

そんなことあるか?と思うが彼からは嘘をついてるような感じはしなかった。

アリスと同じく誠実な人・・・そんな気を感じていた。

「その次男はどうなったんですか?」

「先日落馬でなくなりました。私が手紙を見つけたのは彼の遺品を整理してたからです。」

「そうですか・・・。」

「それで、そのアリスさんは・・・。」

「なくなりました。病で。」

「そうですか・・・。」

お互いにしばし無言となり・・・そして、始まりのやり取りに話は続く。


彼が帰ったあと、セラは階段をゆっくり降りてきた。

彼はまたセラを迎える準備が整い次第迎えに来るという。

「おば様。今の話・・・。」

「はぁ。これでせいせいしますね。やっとお前の世話から開放される。」

私は大きく息を吐きながらそう呟いた。

私は手渡された袋を見せるように掲げながら言う。

「ほら、お前を育てた時に掛かったであろうお金だってさ。正直多すぎるくらいだ。お前のおかげで儲かったよ。ありがとう。」

私がそう言うとセラは少し目線を落とした後

「どういたしまして。」

そう笑った。それが少し寂しそうに見えたのは私の願望もあるのだろうか。

それからセラと私は少し距離を置いて過ごした。

もう仲良くする必要が無くなったからだ。

彼女の人生に私は必要ない。

公爵家の娘として今から学ぶこと、そして華やかな世界に飛び出す為の準備などに勤しまなければならない。

貴族の世界は悪意だらけだ。

でも、あの男なら彼女から守ってくれるだろう。

そんな予感を信じるなんて私もだいぶバカになったものだと思うが。

しかし、こんな田舎の町でひっそりと暮らすより彼女のためになるだろう。

私も生きるためのお金が手に入るから。ウィンウィンだ。

そう思うことにした。





セラが居なくなった家は広く感じた。

アリスがなくなった時はそう思わなかった。

私がもっと彼女に向き合っていれば変わったのだろうか。

私はふとそう思った。

世界は不公平だ。



あれから何年も経った。

この国は幾度も戦火を迎えた。

その度に聞く聖女の話がある。

曰く、傷ついた兵士を癒し、その言葉はあまたの人々の不安を取り払ったという。

その聖女が皇太子と結婚されることとなった。

私はその報を読み終えた頃。

一瞬、空が暗くなった。

なんだろうか?

窓を見るとそれが勘違いだったと気づく。

空が暗くなったのではなく空を覆うような大きなそれが陽を遮っていたのだ。

白く輝く鱗を持つそれは神話に聞く龍そのものだった。

それは旋回すると街から離れた森へと降りていった。

ちょうど私が薬草を取りに行く森だ。

「困ったわね。龍が居るのでは取りに行けないじゃない。」

私はそうつぶやくとまた椅子についた。

さて、どう断ろうか。

そんなことを思案しながら。

龍の背に乗った妹に似た少女に対して。

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