ダークファンタジー2
よろしければ前作からお読みください。ストーリーの関連性はありませんが。
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私は気づいたら転生していた。
現実ではサラリーマン生活を送っていたはずだが、ここではどこかの学校の生徒のようだ。歳はとっくに中年だが、中学生から高校生程度の年齢になっている。
今私は教室にいる。見たことのない教室だ。周りを本棚に囲まれており、床には赤いジュータンが引かれている。壁も石でできているのか貴族の屋敷のような教室だ。そこに3人は座れるような細長いテーブルをいくつも並べ、真ん中を開けて2人ずつ生徒が座っている。知っている者は誰もいない。
すでに授業は始まっており、教師は生徒たちに問題を当て答えさせているところだった。私の前にも教科書とノートが広げられて、当然のように授業を受けている。
教師はどうも宿題として課していた問題を解答させているようだった。
しかし、その時、私は初めて気がついた。
自分が宿題を忘れていたということに。
一瞬、周りの物音が遠くなる。
どうして忘れていたのか。なぜ今更気づいた。自分は何をしていたのか。
もっと早く気づきさえすれば、授業前に誰かに見せてもらったりいくらでもごまかせたではないか。
今後忘れ物をしないための建設的な思考を行っている余裕などない。
ただ愚かな自分を呪うだけの、そんな自分を不幸だと思うだけの不毛な思考が繰り返される。
自分への怒りと惨めさと後悔と、今後起こりうる恥ずかしさと恐ろしさに、感情だけの思考で脳が埋め尽くされる。
最初それらの混合体としての感情の思考は、しだいに今後起こりうる恥ずかしさと恐ろしさのしめる割合が大きくなり、実体のない恐怖に襲われる。
もし発覚したらどうなるか。怒られて、失望されて、笑われて
机の間をうろうろする教師が私に近づく。
心臓の鼓動が早くなる。正確には私は宿題を途中までやっているが、下の半分以上は空白になっている。
近づいてくる教師を感じながら私は必死に空白部分を手で覆い、宿題の内容を凝視しているように前にかがむ。背中にいやな汗が流れている。
ぱた…、ぱた…、ぱた…、
教師が通り過ぎると一時的に動悸がおさまる。私は体制を少し起こす。
教師が遠ざかっているタイミングでやっていない部分に目を通し今からでも解こうとする。しかし、次の問題からすでに調べなければ私には分からない。
どうせなら宿題をやっているところで当てられた方がいい。ただ、それもあと数問しかない。
分からない問題が当てられたらどうする。いっそもう忘れたことを自白した方が楽ではないか。
自分の回答にも到底自身は持てない。滑稽に間違えるぐらいなら回答しない方がましかもしれない。
どういう選択が正しいのかわからない。わからなければじっとしているしかない。緊張と恐怖に押しつぶされそうになりながら、ただ当たらないことを祈って待つしかない。授業が後何分で、問題が後何問あるのか考えれば絶望的な可能性にもかかわらず、また、それが当たった時に一番みじめな選択になるのが目にみえていながら、一番都合のいい展開を望むしかできない。
考えても考えてもまとまらない思考に気分が悪くなってくる。
他に宿題を忘れている生徒はいないか、
自分と同じように焦っている生徒はいないか、
当てられた問題の解答を滑稽に間違える生徒はいないか、
視線を下げながら必死に周りを見回して探す。
しかし、授業は淡々と進む。誰も間違えず、誰一人忘れている者などいず、ただ淡々と当然のように進んでいく。
それでも私は周りの生徒の些細な動きも見逃すまいともう一度探し、教師が自分以外をあてるたびに鉛筆を握りしめ期待する。
不意に隣の席の生徒が当てられた。
心臓に凍えた手を入れられたような衝撃が走り、私はまた前傾姿勢を強める。
その生徒は私が宿題としてやってきた最後の問題を回答する。これでもう当たらない以外に助かる方法はなくなった。ここで教師に宿題を忘れたことを言うべきか、友達でもない隣のやつに見せてもらうべきか、前傾姿勢でぐるぐるぐるぐる考える。
次の瞬間、教師は私がやってきていない問題を私に当てた。
私は予想していたのに、予想していなかった矛盾の中、頭が白くなる。全身が硬直し、血の気が引いていく。どこかに答えが書いてないか、前の生徒、隣の生徒の宿題が見えないか目をきょろきょろさせるが求めているものは見つからない。
そんな私の態度に教師は私の宿題をみて、やってきていないことを暴露する。
それでもなお、宿題をしてなかろうが回答できると要求する。
私は宿題の問題を凝視するが、解答はまったくわからない。問題文が歪にゆがむ。それは徐々に紙の中でうごめき、どの問題を問われているのかも分からなくなり、問題文を読みあげることもできなくなる。
なぜそんな仕打ちを受けるのか、宿題をやりもせず写したものだって同罪ではないか。なぜ自分だけさらされるのか。
どこかで笑い声が聞こえる気がする、かわいそうに思われている心の声が聞こえる気がする
なんで、嫌だ、惨め、恥ずかしい、失敗した、やり直したい、、、、
その時、私は夢から目を覚ました。
辺りは太陽がカーテンに差し少し明るく、いつもの現実の部屋で、現実の自分だった。
滑稽なのに恐ろしい。
私はその頃の感じ方を忘れないように胸にしまった。
はずかしいですが、今回の悪夢です。
タグ詐欺と言われてしまいそうですが、滑稽ですいません。
でも、本当に滑稽だったでしょうか。
私のどうしょうもない文章力はさておき、中学生、高校生の時って、特に新しいクラスで、
宿題があったことを忘れていた時とか、
わからない問題をみんなの前で当てられた時とか、
そんなことでもこの上なく恐怖心を掻き立てられなかったでしょうか。
私はマジでめちゃめちゃ恐怖でした(私だけかもしれませんが)。今となっては、そんなこと以上に恐怖することが多すぎて宿題程度で何言ってんの?という感じですが。
それでも夢は恐怖心まで再現してみせてくるからすごいです。
大人になると怖いものが多すぎて、青少年のころの恐怖心なんて失うんだと思います。思い出が美化されるってそういうところもあるのかもしれません。
ただ、子供のころは子供のころで、その目線で見える世界から精一杯生きてたなと。子供のころに大人から、「大人は子供と違って社会的責任が云々」みたいなことをいわれていた気がしますが、その世界を精一杯生きている以上、その人が今生きている世界から受ける影響への感じ方なんてたぶん大人も子供も同じなのだと思います。
子供に対して「人生もっとつらいことがいっぱいあるから気にするな」って、全く励ましになっておらず、むしろその程度で落ち込んでいたら生きていけないぞと追い込んでいるようなものだと思いました。
経験者であるにも関わらず、いや経験者だからこそ忘れてしまうことがあるのだと思います。
その時の気持ちを大切にできると、世代間や師弟間、親子間の壁は和らぐのかなあと思いました。
ということでこの話もホラーということにしておいていただけると幸いです。
いや、夢に見たときは怖かったんです。本当に。