まるで戯れあう仲間たち
「名前が無いのは不便だよね。私みたいにお兄ちゃんと似てる名前も不便なの。」唐突にアルが俺に言うとレオが続けて言った。
「僕はレオンハルトでコッチの2人は赤ん坊の頃に同じ籠に入れられて孤児院の前にいたらしく産着にアルベルタとアルベルトと言う名前が付いていたんだよ。そこからアルと呼ばれてるよ。」それを聞くとアルが慌てて
「お兄ちゃんの事はアルトと呼んで欲しいと言っておいたの。一緒の呼び方はいやなの。約束守って欲しいの。」
2人は似たような名前なので俺を連れて来た子供はアルトと呼ばれて、妹はアルと呼び分ける事にしてるようだ。レオンハルトは
「僕のことは気楽にレオと呼んでくれていいよ。」と俺に伝えてきた。
その後俺を連れて来た子供が言うには
「最初は草原手前の草の中で薬草を探していたんだ。今日は欲しい薬草が思うように集まらなかったから少しだけ林の中に入ったんだ。すぐに見つかったのでそこで採っていたら少しづつ林の中に入り込んでいた。気づいたら林の中に居てまだ足りないからそのまま採っていたら途中で動物に追い掛けられたんだ。あれはびっくりしたよ。めちゃくちゃに逃げたら森の深い所に入り込んでいた。逃げた森の中で知らない子に出会って動物を追い払ってもらい薬草の採集中だと言ったら一緒に薬草を採った。その後に木に刺さって血抜きしてある肉を見てそれが食いたくなった。話しをすると食える事も知らないで獲った肉を獲った人を差し置いては食えない。だから一緒に来てもらえば一緒に食えると思いここに連れて来た。」という話を身振りを交えて俺を時々見ながら説明をした。レオに大きな声で
「冒険者として最低だよ。」と言われて
「お兄ちゃんはバカなの。考えないの。反省しないの。死にたいの。」アルにも呆れらたように言われた。
「もう少し考えろよ。林に入る前に俺達に声を掛けろよ。気づいた時点で見張りを付けるとか対応の仕方を相談ぐらいしろよ。下手したら死んでたかもしれないんだよ。体力が回復する薬草が欲しいのは判るけどそれで死んだら誰も浮かばれないよ。毎回心配かけるなよ。」大きな声で怒られてビックリした顔をして頭を下げて反省した様子でアルトは
「俺が悪かった。俺の我儘だ。俺の勝手で体力が回復する薬草が欲しいかったから迷惑になると思って言えなかった。悪かった。本当に迷惑をかけてすまなかった。」とモゴモゴと後の方はハッキリしない感じで話した。
「お兄ちゃんがその薬草が欲しいのは知ってたの。理由もわかっていたの。話して欲しかったから今日はついて来てたの。」アルが寂しそうに言った。
「アルから聞いてたよ。僕も手伝うつもりで来たんだよ。お前は馬鹿だよ。もっと相談しろよ。」と言ってレオも大きな声で怒っていた。
その後、肉も鍋の汁も食べて片付けを手伝うと言うとアルとレオが離れて作業をした場所を教えてくれた。そこには川があった。そこで鍋と汁を飲むのに使ったお椀を運んで洗うことにした。川に近付きに流れの緩い所にしゃがんでそこに映る姿を見た。
水面には俺が映っている筈なのに俺が映ってなかった。見覚えのない黒い短髪の小汚い子供が映っていた。俺と顔立ちも全然違う。じっと見つめて手を挙げると水面の子供も手を挙げる。これ俺なんだよね。と誰かに確認したかった。何事も考え過ぎない俺は、お椀と鍋の汚れを洗い流して置く。
近くでアルはみんなの水筒に鍋で沸かしたお湯を入れていた。そのアルに俺は思いつくままに話しかけていた。
「俺は名前だけじゃなくて歳も何もわからないようだ。見た目も俺自身かわからなくなっていた。どういうことだろう。これがなんとかなる訳ないよな。」
「難しいことはレオに聞いて欲しいの。わからないけど一緒に考えるの。」と言うのでアルの作業が終わったので荷物を持ってレオに聞きに行った。
「レオに聞きたい事があるの。お兄ちゃんが連れて来たこの子ね、自分の姿もおかしいそうなの。水に映る姿も自分じゃない気がするみたいなの。どうしたらいいの。」アルが説明してくれたがレオも直ぐにはわからないようで考えるように俺に話してきた。
「自分のことが思い出せない病気があると聞いた事があるよ。薬で治らないからそのうち思い出すのを待つしかないとも言ってたよ。もしかしたら、ギルドに以前に登録していれば名前がわかるかも知れないよ。わからなくても登録したらそのまま採取とかで暮らしていき思い出すのを待てばいいよ。孤児院の先生が薬草に詳しいから一緒に覚えようよ。それで薬が作れると今後に役立つと思うよ。」と言って薬草の入った布包みを俺に見せた。
「これをギルドに売るのに登録がいるから後で僕らと行こうよ。傷薬がこれで少し赤い葉が体力を回復させる薬草で間違いがなかったよ。」そこでアルトが
「さすが俺。教えたのが俺だから。」と言うとレオとアルがアルトを睨む。
「この病気の時に効く薬草は森の深い所で見かけるけど、こんなにたくさん採れるなんて凄いよ。全部根が付いてるから孤児院の畑によかったら一部植えてくれないか?アルトの採ってきたのには根が無いから植えれないよ。その分の薬草代は孤児院から出してもらえるよ。孤児院でこの薬草で作っていた風邪薬の蓄えが足りなくて困っていると聞いていたからお願いできないかなぁ?」とアルトを軽く小突いてレオは言うとこれからギルドに行く事と薬草の説明が始まった。レオは薬草の研究もしているらしく 俺が採った薬草が根に土が付いてるせいか状態が良い事や葉に傷があまりない事を褒めてくれた。兎擬きの肉が少し残り、角や毛皮も使える事を教えてくれた。
「レオ、今日受けた依頼にベリーが足りないの。一緒にベリーを取りに行くの。」アルが依頼票を見せてくれた。
「アルト、薬草は足りてるいるか?アルトが確認して大丈夫ならこの後はベリーを採ることにしようか。」レオがそう言った。夕方迄4人でベリーを採ることになってベリーの取れる茂みに移動した。
ベリーを摘みながら納品用の籠へ入れるフリをして口に運ぶアルトを叱りながらアルとレオが孤児院について教えてくれた。
「教会が運営する孤児院なので基本的に住む所と食事はちゃんと食べれるの。でも人数が多いの。だから量も少ないの。頑張って自分で働かないと服や身の回りの物や昼食は無いの。」
「余裕はないが夜はみんなが持ちよった物で食事が作れる用に食材を出すよ。お金で出しても良いし畑で野菜を作ったりして持ち寄るのも有りで、孤児院の裏の林を開墾して畑を作っているよ。」
「寄付が足りなくて孤児院を維持するだけで今は大変らしいの。」等、解ることを説明してくれた。
「俺達15歳で成人すると孤児院を出なくてはいけないけど職員が不足しているから職員として残る事も可能で実際に残って料理を作ったり小さな子供達のお世話をしている人もいるんだ。」とアルトも話に参加してきた。俺は説明よりもアルトはベリーつまみ食いし過ぎだよ。と思っていた。
「薬師や神官や司祭として勉強する事も出来るよ。今みたいに職員が少ない場合も補助金が減ることになるから試験に受かり正式に採用される職員の数が必要らしいよ。」とレオが言うとアルトは
「ちなみにレオは神官になりたくて先生に教えてもらっていてアルは職員が少ないので薬師を目指している。俺は冒険者になってお金を稼ぐつもりだ。」
そして、俺は採取に成功している事をみても孤児院で十分に働けるようで期待できそうだって、孤児院の裏を開墾して作った畑に今日採った薬草を育てれば小さい子の仕事がもできて助かるとも言っていた。薬師が外に薬草を採ってくる時間も費用もかからずに済むので薬草が根付くまで何回か採取に行く事になるそうだ。