飛び出ろ超兵器(比喩)
組む。つまり冒険者として……ということでいいのだろうか?
今の彼女の精神状態であれば、まともに答えてくれるかもしれない。
そう考え、カノンは真正面から疑問をぶつけてみる。
「組むって……冒険者としてってことでいいのか?」
「その気になったのね! いいわ、今すぐ行きましょう!」
「あ、いや。そうじゃなくてさ」
「報酬なら勿論等分よ? アタシ、そんなに蓄えもないし」
「だから、そうじゃなくて」
「何よ、実はアタシ自身が目当てだったの⁉ その場合はちゃんと事前に責任を」
「うわあもうめんどくさい!」
精神力の強化。今まで自分くらいにしか試したことはなかったが、面倒くささまで強化されている気がする。何しろ、今まで以上に話にならないのだ。
「まさか他人にかけると、こうなるとはなあ……やっぱり目に見えないものは難しいな」
「何ブツブツ言ってんのよ。結局組むの? 組まないの?」
「つーか、なんで俺なのさ。もっと色々選択肢もあるだろうに」
「何よ、そんなこと?」
少女はハッと馬鹿にするように息を吐くと、自分を指さしてみせる。
「いい? アタシは控えめにいっても美少女だわ」
「は?」
「は?」
いきなり何言いだすんだコイツ、という目でカノンが見れば、少女は何か文句あるのかという目で見てきて……カノンは気合負けしてサッと目を逸らす。
「冒険者稼業は末端は底辺だし、ゴロつき同然の奴も多いわ」
「まあ、そうだろうなあ」
「そんな中で自分を守りながら成り上がるってのは難しいのよ。でも、そこで妥協したくなんかない」
「……」
「だから、信用できそうで強そうで、なおかつ人が良さそうなアンタを見て『これだ!』って思ったのよ!」
「さようなら」
「待ちなさいってば。何が不満なのよ」
「全部」
つまりソレは自分を風除けの盾に使うという意味に他ならないが、何故そんなものを背負い込まなければいけないのか。
正直に言って彼女の人生を背負うほど、カノンはお人よしでもないし彼女に義理もない。
「それに俺が強いってのはどうかな。魔法学校除籍の半端者だぞ」
「そんなの知らないわよ。アタシの見たアンタはすごかったわよ?」
「俺の何を見たってんだよ」
「逃げ足」
「逃げ足かあ……」
なんとも返答に困る部分を評価されていたものだとカノンは思う。
まあ、命に関わる仕事の多い冒険者稼業では必要な部分なのかもしれないが。
「ていうか、それだったらお互いにメリットがあればいいんでしょ?」
「ん? まあ、そうだな」
「なら、話は簡単じゃない!」
「アタシはアンタに『渡せるもの』があるわ。その代わり、アンタもアタシに欲しいものをちょうだい。それなら同等でしょ?」
……なるほど、それがどんなものかまでは分からないが、相当自信のあるものではあるらしい。
聞いてみる価値はあるかもしれない、と。そんなことをカノンは思う。
「ちなみに、どんなのなんだ? 俺に渡せるのって」
そうカノンが聞けば、少女はカノンに耳に口を寄せてこっそりと囁く。
「……王都の家の権利書持ってるから、一緒に住ませてあげる」
「……」
その言葉の意味を考えて。カノンの表情はみるみるうちに驚愕の色へと変わっていく。
「はああああああ⁉」
王都の家。ハッキリ言って、簡単に手に入る類のものではない。
地方都市と違って、王都は拡張政策というものをとっていない。
つまり、王都に住める人間には限りがあるのだ。言ってみれば、住んでいるだけで箔がつく。
そんな家の権利書が簡単に手に入るはずがない。
「え、な、お前……」
「これ以上は組んでからよ。どうする? 組む?」
「組む」
飛び出てきた、予想をはるかに超える超兵器に……カノンは考えることなく頷いていた。
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