儲かる市場は絶対に独占出来ない
「おお、こんなにスライムが……貴方、凄腕のスライムハンターなんですか?」
「やりますなあ、兄さん、これは全部ウチに売って頂けると考えても?」
「ええ、まあ」
ニコニコ顔の2人にカノンが頷けば、2人はハイタッチで喜びを示してみせるが……カノンからしてみれば、全く意味が分からない。
「えーと……どうしたんです? スライムなんて、珍しい食材でもないでしょうに」
「確かに珍しくはないんですが……知らないんですか、お客さん」
首を傾げる少女に、カノンは知らないと首を横に振って答える。
「実は最近、王様はスライムスイーツをお召し上がりになられて、大変気に入られたとかで」
「はあ。それが何か」
「その時に『スライムは獲れたてに限る』とも仰られたそうで。獲れたて新鮮なスライムを食すのが裕福な方々の流行になったってわけです」
「それは分かりましたが……ああ、それを獲れたてとして納品するとか?」
「するんですけど、そうじゃないんです」
否定する少女の背後で、スライムの分類をしていた父親……おそらく店主なのだろうが、その店主が「スライムハンターの問題ですな」と後を引き継ぐ。
「この街は歴史はあるけど、都会じゃないですしな。お貴族様や大商人なんかが居る街の方が、スライムを高級食材扱いするわけで」
「スライムはスライムでしょうに」
「都会のスライムは味が違うそうですぜ。本当かどうかは知りませんがね」
そんなのは気分の問題じゃないだろうかとカノンは思うのだが、なんとなく話の流れは見えてきた。
「あー、つまりスライムハンターがより高く売れる都会に移動しちゃった……と?」
「正確には腕のいいスライムハンターですね。おかげで最近はあまり状態のよくないスライムが持ち込まれる事も多いらしいです」
「それに比べたら、こいつは上物ですな。刃物で一刀両断! なんか欠けてるのもありますが、高く買い取りますぜ」
ちなみに欠けてるのは味見したやつなので、カノンはそっと視線を逸らす。
「ちなみにですが、透明スライムは薬師ギルドでも買い取りしてますぜ」
「へえ、そうなんですか?」
「ええ。味がないからシロップとかと一緒に食べるのが食材としての透明スライムですけど……薬師は飲みにくい薬を飲むための道具に加工するんだそうでして」
「へえ……」
薬品アイテムとしての売値なら、食材として売るよりも高いかもしれない。
カノンは頷きながら、中々の高値で売れたスライムの代金を受け取る。
「いやあ、良い取引でした」
「こちらこそ。お客さんはこれからスライムハンターとしてやっていくんですか?」
「しばらくはそれもいいですね。中々稼げそうですし」
「でしたら、是非当店をご贔屓に!」
「確約はできませんけど、覚えときます」
そう答え、カノンは店を出る。
今のところ需要と供給が釣り合っていないようだから、スライムハンターとして稼げるだろう。
しかし、長続きするとも思えない。こういうものには必ずライバルが出てくるし、冒険者を雇う商会だって居るだろう。そうなれば、妨害だって行われるようになるだろう。
「……ま、早めに稼いで撤退するのが賢い稼ぎ方か」
呟きながら、すっかり軽くなった袋を背負いカノンは今日の宿を探して歩いていく。
学生寮も出てしまったし、寝ようと思えば宿に泊まらなければならないのだ。
「結構稼げはしたけど……無駄遣いはよくないしな。安めの宿を探さないと」
基本的に宿屋の質は値段に比例する。高い宿ほどサービスもよく安全だし、安すぎる宿は何処かに何かがある。そして基本的に、街の中心から離れる程宿は安くなる。
歩いて、歩いて……街壁に近いところまでやってきた時「あー!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
「……げっ」
「アンタ! なんで冒険者ギルドに来ないのよ! ずっと待ってたのに!」
「足強化。さようなら」
「待ちなさ……速⁉ 何なのよ、その速さ!」
やっぱり今日はちょっとだけ高い宿に泊まろう。
そんな事を考えながらカノンは街中を疾走し……ちょっとだけ高い宿に部屋を取るのだった。