表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/25

赤色スライムはイチゴ味

 そして、カノンのスライム狩りは非常に順調に進んでいく。

 一撃でスライムを狩れるうえに他のスライムが邪魔してくるわけでもないから、こんな楽な狩りはない。みるみるうちに袋は狩ったスライムで埋まっていく。


 赤色スライムはイチゴ味。

 緑色スライムはメロン味。

 黄色スライムはレモン味。

 青色スライムはブルーベリー味。

 透明スライムは無味。


 透明スライムを除けばどれも中々に美味しく、カノンは食べ過ぎないように自分を抑えるのを頑張る羽目になった。

 しかし、そのおかげか袋はパンパンだった。


「もう入りそうにないな……」


 足元を跳ねていくスライムを見送りながら、カノンはチラリと空を見上げる。

 太陽の位置は、まだ昼を少し過ぎた頃といったあたり。

 今からであれば女性人気を重要視している食堂で売れるかもしれないし、食材店でも売れるだろう。

 あるいは商人ギルドに持ち込んだっていいかもしれない。

 スライムは日持ちがするから、交易食材としても人気だ。


「うーん、何処で売るかな」


 悩んでも、答えが出るはずもない。カノンは商人でも何でもないのだ。

 こういう時、冒険者ギルドであれば売れそうなものは何でも引き取ってくれるので悩まなくて済むが……カノンはしばらくは冒険者ギルドに近づかないでおこうと決めている。


「ま、とりあえず食材店かな?」


 袋を持ち上げようとして、しかしスライムのたっぷり詰まった袋は重たく……カノンは自分に強化魔法をかけなおす。


「こういう時に強化魔法は便利だよなあ……地味だけどさ」


 頷きながらカノンは街へ戻り……先ほどの衛兵が守っていた門へと辿り着く。

 衛兵は何やら渋い顔をしており、カノンを見るなり「見てたぞ」と声をかけてくる。


「あ、どうも。わざわざ見守ってくれてたんですか?」

「お前なんか何処に見守る必要があるんだ」

「あー、まあ……死んでもたいして重要じゃないですしね」

「いや……まあ、いい。大分狩れたみたいじゃないか」

「ええ、強化魔法も使いどころってやつですね」

「使いどころっていうか……んー……」


 衛兵はますます渋い顔になると、カノンを指さす。


「その強化魔法ってやつ、なんで知られてないんだ?」

「知られてないっていうか、廃れたというか。役立たずの魔法として有名ですからね」

「はあ? いや、そんな……ええ?」


 何やら考え込むように黙り込んでしまった衛兵に「何か気分害したかな?」と考えたカノンは、さっさとこの場を去ることに決める。


「まあ、魔法の華は攻撃魔法ってことですかね。それじゃ、俺はこれで」

「あ、ああ」


 歩いていくカノンを見送った衛兵は疑問符で埋め尽くされた頭で先ほどのカノンの台詞を反芻する。


「役立たず……廃れた魔法……? 何処がだよ。あんな使えそうな魔法、見たことないぞ……?」


 その言葉は、カノンには聞こえていない。すでにその姿は、商店通りへと向かい遠ざかっていたし……聞こえたところで、お世辞だとしか思わなかっただろう。

 ともかく、カノンは無事に商店の立ち並ぶ商店通りへと辿り着く。

 この辺りはもう少し時間が早ければ買い物客でごった返すが、今は丁度狭間の微妙に空いている時間だ。


「えーと、食材店は……と。アレか」


 ロキフェン食材店、と書かれた看板を見つけてカノンは近づき……店の前に立っていた少女に声をかける。


「こんにちはー」

「あ、はい。いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 完璧な営業スマイルを向けられ、カノンは背負っていた袋を下ろし指し示す。


「実は、食材を買い取っていただけないかなー、と」

「当店にですか? そりゃあ食材を扱ってますけど……商業ギルドに持ち込んだほうが正確な目利きを期待できますよ?」

「あー、そっちの方がいいんですか?」


 失敗したかな、と考え始めたカノンに、少女は笑顔を向ける。


「いいえ! 本日はお持ち込み頂きありがとうございます! で、モノは何ですか?」

「スライムですけど」

「えっ」


 少女はその一言に固まり……カノンの腕をガッシと掴む。


「ス、スラ……奥に来てください! あ、そのお荷物も忘れずに!」

「ええ? は、はい」


 少女に連れ込まれるように店の奥に入ると、様々な食材が並んでいるのが見える。

 生鮮食品も多いが、乾物などの保存食品の割合も多いようだった。

 そうしてテーブルや椅子が置いてある奥に辿り着くと、少女はそこに座って居眠りしていた男の頭を平手で引っぱたく。


「お父さん! 寝てる場合じゃないわよ!」

「ぬおっ! エ、エイラ! おめー何しやが……なんだその男!」

「スライムの持ち込みよ!」

「何ィ! うちにか!」

「そうよ!」


 何やらカノンを置いて盛り上がる2人に「なんだこの空気……」と考えていると、2人の視線がカノンへとギラリという輝きを宿し向けられる。


「いやあ、ようこそロキフェン食材店へ! 早速現物を見せて頂いても?」

「え、ええ。この袋の中です」


 そりゃスライムは人気食材かもしれないけど、こんな目をギラギラさせるようなものだっけ。

 不思議に思いながらも、カノンは袋の口を開けてみせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ