奥の手
しかし当然ながら、ゴーレムの食卓に並びたくはない。ならばどうするか。
必死で走りながら、カノンは腕の中のサーリアに視線を向ける。
「どどど、どうするのよ! どうするの⁉」
「うーん……」
サーリアは見たまま剣士だ。魔法なんて習っていなければ使えまい。
カノンは魔法の勉強をしていたから使えはしなくても教えられはするだろうが、使えるかの確証もないし……そもそも、今はそんな時間はない。
たとえば奇跡的な確率でサーリアが軽く教えただけで魔法を使える超天才だったとして、そこに更にゴーレムを吹っ飛ばせる超火力型の魔法使いだという可能性が重なるとも思えない。
つまり、この案は却下だ。
ならどうする。逃げる? 運が良ければ逃げ切れるかもしれない。
しかし「それはどうだろう」とカノンの中の冷静な部分が言ってくる。
ならば、どうする?
「まあ、答えは……1つだな」
「え、何⁉」
「アイツをぶっ飛ばす」
「ええええええ⁉」
サーリアを抱えたまま立ち止まるカノンに、サーリアは叫び声をあげて。カノンの居る場所が、盛り上がる。
「ひっ……」
もうダメだ。目を瞑ろうとしたサーリアが見たものは……ゴーレムの手を蹴り飛ばす、カノンの姿。
「は?」
強化魔法のかかった身体能力を活用してバックステップ、蹴り。
そうであることは理解できる。だが……そんなものを実行するなんて正気の沙汰じゃない。
再び地中から出てくるゴーレムを見ながらカノンはサーリアを下ろし、小さく「ふうー」と身体を整えるような息を吐く。
「やることはいつもと同じだ。アイツはデカいだけ。堅いだけ。なら、やれる」
「な、何がやれるってのよ⁉」
「ケンカだよ。得意なんだ、ケンカ」
「はあ⁉」
「いくぞ、複合強化魔法……『攻撃力強化3』『防御力強化3』『敏捷増加3』」
先程までの強化魔法とは比べ物にならない程の力が、カノンとサーリアの中に注ぎ込まれていく。
沸きあがる万能感に、サーリアは驚き……ゴーレムの足が迫る瞬間にも、驚くほどの冷静さで回避できていた。
「な、何これ……凄い……!」
「俺の奥の手、その1だ。およそ3倍くらい強くなる」
1なら1.5倍。2なら2倍。3なら3倍。そういう計算だったりするのだが、流石にサーリアは冗談が混じっていると受け止める。
「流石にそれはハッタリ効き過ぎよ……でも、いけそう!」
「本当なのになあ……」
ちょっと不満そうに言うカノンと、笑うサーリア。
もう怖くはない。ゴーレムの攻撃は見えている、避けられる。
「いくわよ、カノン!」
「ああ、ついでに実戦じゃ初になる俺の奥の手その2も……お披露目といくか!」




