不穏なる残骸
そうと決まれば、此処に留まる理由もない。
カノンとサーリアはいつも通っている門へと移動し……平和に跳ねているスライムを無視して、北へと回っていく。
兵士に見咎められれば止められる可能性もあるので、こっそりと遠回りし……やがて、北方向へと辿りつく。
街道から少し離れてはいるが、十分修正可能な場所まで来ると、サーリアは「ふー」と息を吐く。
「よし、なんとか……ってところね」
「此処まで誰にも会わなかったな」
「そりゃまあ、冒険者や傭兵雇うにもすぐってわけにはいかないでしょ」
そういった連中が来るのはもう少し後……まあ、明日以降だろう。
「ふーん、そうなのか」
「そうよ。で、どうするの? もう強化魔法かけるの?」
「そうだな。やっとくか。『身体能力強化』、『足強化』」
カノンとサーリアに強化魔法がかかり、サーリアは自分が「強化」されたことを明確に感じ取る。
「相変わらず凄いわね、コレ。自分が強くなってるのがハッキリ分かるわ」
「そんな凄いもんでもないさ」
「またその謎の謙遜。ほんと、よくないわよ。そういうの」
「って言われてもなあ」
「ま、いいわ。行くわよ!」
「ああ」
サーリアの号令で、2人は同時に走り出す。
風を置き去りにするかのような速度は、全力の馬でも追いつけるか怪しいだろう。
ただの人間では有り得ない、そんな速度にサーリアの口からは自然と笑い声が漏れてくる。
「あ、あはは! きーもちいいー!」
「そりゃよかった」
「アンタ、普段からこんな世界が見えてたの⁉ そりゃ感覚もマヒするわね!」
「速く走れたところで、攻撃魔法でぶっ飛ばせるからな」
「その前に拳でぶっ飛ばしてやればいいじゃないの!」
「……ま、ケンカならそれでいけるな」
「でしょ⁉」
言いながらもカノン達は更に先へ、先へと進んでいく。
そうして進んでいくと……街道の先に、完全に粉砕された馬車があるのを発見する。
「アレか?」
「たぶんね。ちょっと見ていきましょ」
サーリアは言いながら馬車に近づき、カノンも少し遅れて馬車に近寄る。
馬車の残骸……そう、残骸だ。粉砕された馬車は、その部品で「馬車であった」と分かるのみだ。
「何があったらこうなるんだ?」
「大きな力で叩き潰されたって感じね。オークでも出たのかしら」
「オークか。資料で見たことはあるけど、そんなに力が強いのか?」
「強いわよ。人間の数倍の力があるっていうくらいだし」
オーク。亜人型モンスターとも言われるが、人間を遥かに超える力を持ち、尚且つ集団戦闘をする知性があることも特徴だ。
しかしながら、人間に対しては完全に敵対的。出会えば殺し合いになるモンスターの名は、サーリアにとっては口に出すだけでも恐ろしいものであった。