理由
……だが、順調なのはそこまでだった。
いよいよ旅に出るべく王都へ向かう方向の北門へと移動したカノンたちは、何やら人が門に集まっているのを見た。
彼等は衛兵に詰め寄っているようだったが……その理由はすぐに理解できた。
「通れないってどういうことだよ!」
「調査中だ。とにかく今は通れない。明日には開放される予定だから、大人しく帰ってくれ」
どうやら人も馬車も全員足止めをくっているらしく、堅く閉ざされた門は開く気配がない。
しかし……肝心の情報は全く分からない。
「門の閉鎖……? 何があったのかしらね」
「あんなの初めて見るなあ」
「アタシだってそうよ。門の閉鎖なんて普通じゃないわ」
「つまり普通じゃない何かが起こったってことか」
とはいえ、それが何かはサッパリ分からない。分からないので……カノンは周囲で野次馬をしているらしい人間の1人に聞いてみることにした。
「あ、ちょっと。あそこの門、なんで閉まってるんですか?」
「あー。なんか知らんけどさ。馬車が襲われたって話だぜ」
「馬車が?」
「ああ。それも乗合馬車だ。結構な人数が死んだらしい」
「へえ……でも、旅の最中に何かに襲われるなんか、普通じゃないです?」
そう、旅の最中の安全が保証などされているはずもない。
盗賊、モンスター、各種災害に事故。旅に危険はつきものであり、それは避けきれるものではない。
どんなに対策したって、出会う時は出会ってしまう。
わざわざ門を閉める程でもないとカノンは思うのだが……それは野次馬の男も同意見であったらしい。
「だろ? 俺もそう思うんだけどさ。だから、何処かのお偉いさんか何かが混ざってて死んだんじゃないかって」
「何処かのって……王都の?」
「可能性はあるだろ? 何しろ、乗合馬車を襲って成功させるような『何か』なんだ。俺達には予想も出来ねえ陰謀が絡んでるかも」
「確かに……可能性はありますね」
「だっろお⁉ 分かってるなアンタ!」
バシバシとカノンの背を叩いた野次馬の男は、話して満足したのか何処かに行ってしまうが……それを見送るとカノンはサーリアへと振り向いて「だってさ」と肩をすくめる。
「陰謀らしいぜ」
「そのまとめもどうなのよ。でもまあ、お偉いさんか……確かに可能性はあるわね」
「護衛つけりゃよかったのにな、お偉いさんなら」
「お忍びだったのかもしれないわよ」
「忍んで死んだら意味ないだろ」
「まあね……」
確かにその通りだとはサーリアも思う。
偉かろうが金を持っていようが、死の先にまでは持っていけない。
お忍びなんて、そういう意味では実情を考えない娯楽でしかないのだが……。
「いや、でもやっぱりおかしいわね」