もどき
……そうして、2人が王都を目指し出発した……というわけではなかった。
翌日、旅に必要なものを整えようと市場に訪れた2人を囲むように、武装した男たちが現れる。
「スライム狩りしてるってのはお前らか」
「は?」
「げっ」
誰だコイツら、という目で見るカノンとは逆に「ヤバいのに会った」という目をするサーリア。
思わずサーリアはカノンの背に隠れるが……その方向にも男たちがいる事に気付き、カノンの服の裾を掴みながらキョロキョロと辺りを見回す。
「いきなり何だ? 誰だアンタら」
「冒険者でもない奴に狩場荒らしをされたら困るんだよな。やめてくれないか」
「誰だって聞いてるんだが?」
いきなり主張などされても、誰とも分からない奴の話をどう受け止めていいのかも分からない。
少しばかり苛立った様子でカノンが問い直せば、どうやらリーダーらしき男が肩をすくめる。
「俺達か? この街の冒険者だよ。お前らがこの2日間、大量のスライムを卸したってのは調べがついてる。スライム狩りは冒険者ギルドに委託される仕事になるはずだったってのに、余計な事をしやがって」
「なんだ、そんな事か」
男の言葉に、カノンはくだらなそうに溜息をつく。
「もう必要な額は稼いだ。スライムを狩りたきゃ好きにすればいい」
「何?」
「もう街も離れるしな。よかったな、これでスライム狩りの依頼もくるんじゃないか?」
まあ、都会でのスライム特需もいつまで続くか分かったものではない。
そのうちスライムハンター達が戻ってきて冒険者ギルドからはスライム狩りの依頼が消えたりするかもしれないが……まあ、知ったことではない。
「そ、そうか。ならいい」
「ああ。じゃ、そこをどいてくれ」
「いや……だが、それだけじゃ足りないな」
カノンが引いた事でもっといけると考えたのだろうか。男は小さくニヤリと笑う。
「お前たちが持ってるスライム狩りのノウハウ、寄越してもらおうか。お前たちにはもう要らないだろうし、迷惑料代わりだ」
「ちょっと! そんなの通るわけないでしょ!」
「うるせえな、サーリア。ザコは黙ってろ」
「うっ……」
気圧されて一歩引いてしまうサーリアとは逆に、カノンの心はこれ以上ないくらいに冷めていた。
(なるほど、こりゃ冒険者が嫌われるはずだ……チンピラもどきじゃないか)
まともに関わった冒険者がサーリアだけだから、それが標準だと思っていたが……もしかすると、目の前の男たちのほうが標準なのかもしれない。そう考えると、カノンの中で冒険者への興味が再び薄れていく。
だからこそ……カノンの口から出た言葉は、カノンがどんな人間か知ったはずのサーリアですら驚くほどに冷たいものだった。
「……断る。帰れ、チンピラ」