強化魔法とは
そして、サーリアの荷物を回収した後。追加料金を払いカノンは自分の宿を2人部屋に変え……何やらソワソワしているサーリアと向かい合っていた。
「1つ、聞きたいんだが」
「何よ」
「権利書の件、他に知ってる奴はいるのか?」
「……どういう意味?」
明らかに警戒した様子を見せるサーリアに、カノンは聞き方を失敗したな……と反省する。
「その様子なら平気そうだな。あまり触れ回ってるとヤバい案件だからな、それ」
「別に触れ回ったりなんかしないわよ。そもそもなんで言ったのか自分でも分かんないし」
「あー……」
間違いなくカノンの強化のせいだろう。それを考えると、少しばかり罪悪感が沸いてくる。
「悪い。それは半分くらいは俺のせいだな」
「ごめん、意味わかんないんだけど」
「お前の精神を『強化』した影響だな」
「……もっと分かんない」
「んー、どう説明したもんかな」
カノンは部屋にサービスとして置かれている果物に目を向けると、そこからリンゴを1つ持ち上げる。
「此処に、リンゴがあるだろ?」
「ええ、そうね」
「これを……防御力強化」
カノンの魔力を受けて僅かに輝くリンゴを、カノンはサーリアへと放り投げる。
「それ、割れるか?」
「アンタ、アタシを何だと思ってんの。普通にナイフ使うわよ」
言いながら果物ナイフをサーリアはリンゴに向けて……しかしナイフは刺さらずにキン、という音をあっててはじき返されてしまう。
「えっ。ちょっ、何これ」
リンゴにしばらくナイフをぶつけていたサーリアは……リンゴをテーブルに置くと、脇に置いていた剣に手を伸ばす。
「おい待て。何しようとしてる」
「だって! あのナイフがなまくらで!」
「ナイフはなまくらじゃない。つまり……強化解除」
光がリンゴの中から霧散し、カノンの振るったナイフがリンゴを切断する。
そのリンゴとナイフを見ていたサーリアは自分も同じようにリンゴを切断し……巨大な疑問符を頭の上に浮かべてしまう。
「……え?」
「強化魔法。俺の魔法だよ」
「きょうか……まほう……」
リンゴをじっと見つめていたサーリアだったが……パッと顔を輝かせると、カノンの手を強く握って笑顔を浮かべる。
「凄いじゃない! アンタ、大魔法使いだったのね⁉」
「人の話聞いてたのか。俺は魔法学校除籍だよ」
「なんでよ! こんなすごい魔法使えるじゃない!」
「こんなもの使えたって、デカい攻撃魔法でドカンだろ? 滅びかけた魔法なんだよ、強化魔法は」
「ふーん……」
サーリアはそれを聞いて何かを考えるような表情になるが……やがて、再びの笑顔を見せる。
「でも、いい魔法じゃない。アタシは素敵だと思うわ!」