drifter
日焼け止めを負かす太陽。
酷暑の中、私達は今日がチャンスだとプールに赴いていた。
洗体槽に身をさらす。その温度差に独特の心地が襲った。心臓が驚くような、肌が粟立つような。
後ろで優美が続いて入る。冷たさへの驚きが表情にまで出てしまっている。かわいい。
「行こうか」
「うん」
プールサイドを歩いて、はしごを伝いプールに入る。
すっかり日の光を浴びた屋外プールは、先ほど入った洗体槽よりもぬるい。
「思ってたよりあったかいね」
「うん。でもこれくらいが体に優しいかも」
「そうだね」
足を動かす。ゼリーのような抵抗を感じながら二人で泳いだ。その水圧すら私達には愛おしいもので。そんな中、優美がおもむろに呟く。
「人間の祖先って最初はどこにいたのかな」
「うーん、海とか?」
「私もそう思う、水の中ってすごく心地良いから」
「確かにね」
息ができず思い通りに動けない場所にもかかわらずそんな事を思うほど、水に包まれる感覚にやすらぎを覚えた。
泳ぐのをやめて、二人仰向けに浮かんで手を繋ぐ。
「ふわふわ浮くね」
「うん」
「私達、こうやっていつまでも浮いていられるかな」
「…きっと大丈夫だよ」
確証は持てないけれど、そうできる自信はあった。
「優美」
「ん」
水の中あなたを抱き寄せて、鼻先とおでこをくっつける。ひたりと吸い付く互いの水着。照れたように目を伏せるあなたを至近距離で確認する。
天敵もいない区画された水槽の中。私とあなたは暑さに溶けて一つになるのだ。時にはゆるやかな波となり、時には凪いだ水面となり。こんなに狭くちゃ迷子にもならないだろう。
噛みしめて。あなたと過ごす夏を。もしよければ、私と過ごす夏も。
プールからあがる。水を吸い重たくなった水着は、まだ行かないでと引き止めているようだ。
キシキシする髪をシャワーで洗って、濡れた体をしっかり拭いたら。
いつものコンビニにアイスを買いに行こう。
My Young Animalのdrifterを聴きながらどうぞ。