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うららかな春の日差しが感じられる季節となりました

 駅でおそらく小学生だったころの同級生と別れた夏帆ちゃんは、気まずそうな顔をして、俺の方を見てきた。

「えっと、お兄ちゃん。久しぶりだね」

「そうだな夏帆ちゃん」

「……聞いてた?」

「何をだ?」

「……あ、じゃいいや」

 うむ。俺は何も聞いてなどいない。可愛い可愛い俺の妹に、カレシなんてものが存在しているはずがないのだ。もしそんな変質者に付きまとわられているのだとしたら、家族会議を開かなければならない。

「話は変わるが、俺のどんな写真をホーム画にしてるんだって?」

「話変わってないけど。……別に何でもいいでしょ」

 と言って、夏帆ちゃんは見せる気はないらしい。まあいい、後でこっそり見てみよう。


「どうして、もう愛知にいるんだ? 学校はどうした」

「私もう中三よ。昨日卒業式だったから、今春休みなの」

「ああそう。ずいぶん早いんだな。修了式と同じくらいかと思っていたんだが」

「まあ、そういう学校もあるでしょうけど。私の学校は夏休みが短いから三学期は早くに終わるのよ」

「ふーん。……それで、俺に荷物持てだって?」

「えっと。……うん」

「まあいい。お兄ちゃんは基本ハイスペックで優しい夏帆ちゃんの自慢の兄だからな」

 そういったところ、ジト目でこちらを見てきたが、

「……はい」

 といって、夏帆ちゃんは俺に荷物をよこしてきた。


「お兄ちゃんさ、さやかさんとは仲良くしているの?」

 歩き始めた夏帆ちゃんは、こちらを見ずに尋ねてくる。

「何を当たり前のことを。今日なんかあいつと連絡先の交換しちゃったもんね」

 いやあ、繋がるっていうのはいいものですわ。これで俺は地球上のどこにいても、綿貫と繋がれる。ヴィヴァ・ネット社会!

「……それくらいで喜んでるお兄ちゃんが、私は心配だよ」

 浮かれた俺の耳には、夏帆ちゃんのそのような言葉など、入ってこないも同然だった。

 

    *


「うららかな春の日差しが感じられる季節となりました」


 今まで、幾度となく、同じセリフを聞いた気がする。

 今日は、県立神宮高校の卒業式だ。三年生は、前期日程の試験を先日終えたばかりである。そのため、幾分か晴れやかな顔をしているように見える。……もうヤケクソなのかもしれんが。

 どこかで聞いたような三年生の答辞だったが、三年の女子生徒の中には涙を浮かべているような人がたくさんいた。練習中はざわざわ私語に没頭する奴らにイライラしていた俺だったが、さすがに本番当日は、しんと静まり返った体育館にて、卒業式は厳粛な雰囲気の中で執り行われた。

 一つ意外だったのが、在校生の送辞を行ったのが、萌菜先輩ではなかったということだ。雄清が言うには、生徒会長か、執行委員長のどちらかが、慣例的に送辞を行うことが多いらしいのだが、萌菜先輩は、自分が目立ちすぎるのは良くないと言って、送辞を生徒会長に譲ったということである。

 俺の感覚としては、彼女が消極的にふるまうのは珍しく思えたので、何かわけがあるのではないかと勘繰ってみたのだが、とうとう分からずじまいだった。もしかすると、三年に進級するのを以て、生徒会の仕事から身を引き、勉強に専念するということに心を砕いていて、精神的に余裕がなかったのかもしれない。


 卒業式が終わって、数日後に学年末考査が始まり、みんな大好き校内球技大会に参加したら、いつの間にか、最期の行事である三学期修了式を迎えていた。


 三年生の抜けた体育館というのは、どこか寂しい感じがして、いつもよりもしんとした空気に包まれていた気がした。

 

 今年度の全行事が終了したところ、さて春休みである。

 その初日、いつもより少し遅めの時間に目が覚めたのだが、まだ寝られると思って布団に潜り込んだところで、電話が鳴った。誰か出るだろうと思いじっとしていたら、案の定コールが止んだ。だが、十秒も経たないうちに階段を上がってくる音がして、俺の部屋がノックされ、ガチャりと戸が開き、お袋が部屋に入ってきた。

「太郎、電話よ。女の子から」

 そう言ってニヤニヤしている。

 なにか皮肉の一つでも言ってやればよかったのだが、マイハニーのラブコールを待たせるのも忍びなかったので、はやる気持ちを抑え、素の状態を装い電話を受け取り、お袋を部屋の外に追い出した。


「どちらのかわい子ちゃんかな?」

「……私だが」

 ……。


 萌菜先輩だった。


 妙な汗がブワッと出てくるのを感じながら、

「にゃ、にゃんでしょうか」

 と噛みまくりながら、用件を尋ねた。思えば、綿貫は俺のスマートフォンの番号を知っているので、わざわざ家電にかけてくる必要がなかった。

「……君はさやかと二人きりの時はいつもそんななのかな? 君ってツンデレだったんだね」

「べ、別にそんなことありませんが」

「いや、気にしなくていいよ。ちょっと気持ち悪いなって思っただけだから」

 なんか、気にせざるを得ないようなことを言われているが。

「ご要件はなんでございましょうか?」

「……春休みで暇なときある?」

「庭草の雑草の数を数えるくらいには暇です」

「そう。来週なんだけど、みんなで合宿にでも行かない?」

「合宿すか?」

「うん。勉強合宿。どうせ暇でも、勉強はしなきゃだろう」

「まあ、そうですけど、流石に泊まりだといろいろ問題とかありそうじゃないですか」

 責任問題とか。未成年の男女が一緒に寝泊まりするのは倫理的にどうなのか、とか。

「大丈夫だよ。保護者がいるから」

「……賢二さんが同伴なさるんですか」

 それか綿貫の兄貴か。

「まさか。流石に大病院の幹部を高校生の合宿には同伴させられないよ」

 それもそうか。

「というと、どなたが来られるんです?」

「うちの使用人が運転手兼、世話役をするから安心して」

「そうすか。ところで場所はどちらですか」 

「私の家がミクロネシアの島に持っている別荘があるんだ。さやかは来ると言ってるし、山本も、佐藤さんも行くと言っているけれど。妹さんもつれてきてもいい」

「あっ、じゃあ行きます」

 ミクロネシアと言うと、ハワイ以南の常夏の島だろう。そんなところに行く機会はなかなかない。

 うへへ、綿貫と南の島の別荘に……。じゅるり。

「来週の朝九時に君の家に迎えに行くから準備しといてくれ。ビーチもあるから水着も用意してね」

 俺は垂れそうになる(よだれ)を拭いながら、受話器を耳から離した。


 電話を戻そうと部屋を出たところで、ちょうど夏帆(かほ)ちゃんが通りかかったので、声をかけた。

「萌菜先輩が別荘に泊まらないかと誘っているんだが、お前も来ないか?」

「えっ、ほんと? さやかさんも来る?」

「ああ」

「じゃあ、行く」

 なぜ綿貫が来ることを確認したかは聞かないでおこう。



 一週間後、俺と夏帆ちゃんは、綿貫家が手配した白のリムジンに乗り、名古屋港へと向かった。運転手は黒岩さんと言って、綿貫家の執事らしい。彼が別荘のある島まで連れていき、合宿中のお世話をしてくれるという。

 車中では萌菜先輩に執拗(しつよう)に絡まれたが、途中で夏帆ちゃんが間に入ってきたので助かった。

 

 綿貫家の別荘がある、島は無人島らしい。俺たちは港についたのだが、

「定期船でもあるんですか?」

 と萌菜先輩に尋ねたところ、

「そんなのないよ。別荘のある他、家なんてないんだから。それにここから船だと、すごく時間かかるよ」

「え、じゃあどうやって行くんです?」

「あれ」

 そう言って先輩が指差す方向には、喋る豚が乗っていたら至極似合いそうな、真っ赤な飛行艇が浮かんでいた。

 バブリー過ぎてもはや笑うしかない。


 俺たちは、執事の黒岩さんが操縦する飛行艇に乗って、島へと上陸した。その島は火山を中心に、サンゴ礁が少し離れた沖で、島の周りを取り囲む、堡礁の様相を呈していた。エメラルドグリーンに輝く島周辺の海と相まって、映画の撮影で出てきそうな綺麗な島だ。


 別荘は近代的なデザインの建物で、斜面の途中に建てられてあり、海に面した部屋は窓が大きく、開放的になっていた。 

 このような南国の綺麗な海を目の前にして部屋に閉じこもることほど、無風流な事はないと思ったので、初日は思う存分遊ぶことにした。

 荷物を置いてからみんなでプライベートビーチに降り(そもそも島全体が私有地らしいが)、遊び疲れてからは各々砂浜に寝そべり、自由気ままに過ごした。


「深山君、ちょっと見せたいものがあるんだけれども」


 大分日が傾き、涼しい風が吹き始める頃、青色の水着を着た萌菜先輩にそう言われる。

 萌菜先輩の水着はワンピース型に近いもので、腰から足首まで布にまかれたようになっているが、左足のほうに大きなスリットが入っている。なぜかセパレート型よりも露出は少ないはずなのに、より色っぽっく感じた。


 ちなみに、綿貫は白のビキニでふちにフリルがついている。佐藤は黄色のビキニ。夏帆ちゃんは紫色で若干、布の面積が少ない気がする。お兄ちゃん心配。臍が出ているのも駄目だし、鼠径部の線が見えているところも、露出が多すぎる。


 だから、ラッシュガードを上に着せようとしたのだが、

「こんなダサいの着たくない」

「だって、お前、その格好は露出が多いぜ」

「こんなの普通だよ。だいたい、男の人はお兄ちゃんと、雄くんしかいないんだし。お兄ちゃんはともかく、雄くんは変なこと考えないでしょう。留奈ちゃんいるし」

「その言い方だと、俺が妹の水着姿見て興奮する、変態みたいじゃないか。兄にとって、妹の体なんて、脂肪の多い、肉塊でしかないんだぞ」

「うーわ。……いくらお兄ちゃんでも、怒るわよ。てかなんで女物のラッシュガード持ってきてんの? 流石に気持ち悪いんだけど」

 それきり、夏帆ちゃんは目を合わせてくれていない。

 ……俺の目が潤んでいるのは、多分潮のせい。

 

 雄清はまあ、別に普通の海パン。俺も似たり寄ったり。


 それはそれとして、

「なんですか?」

 俺は萌菜先輩の呼びかけに反応した。

「まあ、来てくれ」

 すたすたと萌菜先輩は行ってしまったので、俺はしぶしぶついていった。……綿貫の水着姿眺めていたかったのにな。

 夏帆ちゃんはこちらを不思議そうに眺めていたが、綿貫に話しかけられてあちらを向いていた。


 数分歩いてから、立ち止まった萌菜先輩に俺は尋ねた。

「それで、どうしたんですか?」

「まあ、座ってくれ」

 萌菜先輩の示す先には、ハンモック型のいすが置いてあった。

 俺は言われたとおりに座る。萌菜先輩も座った。

 ……いや近いんですけど。いやでも彼女の胸やら素肌やらが目に入ってきてしまう。……なんかいい匂いするな。

「私はここからの景色が一番好きなんだ。この島の最高地点も見えるし、向こうにはミクロネシアの島々も見える。私のお気に入りの景色を君にも見てほしくて」

 確かにそこからの景色はなかなか魅せられる。

 日が傾き、遠くを眺める萌菜先輩の頬に紅がさしているように見える。

「だったら、ほかの連中も連れてきたほうが」

「言っただろ、私は君に見てほしかったんだよ」

 妙なことを言うな、と思いつつ、俺は礼を言った。

「……まあ、ありがとうございます。俺も好きですよ」

 そう言ったら萌菜先輩は微笑んだように見えたのだが、ぷいとあちらを向いてしまった。

 調子狂うな。

「……じゃあ、俺向こう戻りますね」

 萌菜先輩は何も言わなかった。


 世話役というのは本当に何でもやってくれるらしく、夕食の用意も黒岩さんが一人でしてくれて、ビーチから戻ったら、すぐにディナーだった。

 ディナーはどれも唸るほど美味しくて、飛行艇さえも運転してしまう、ハイスペックな黒岩さんには敬服するしかなかった。

 

 夕食の後、潮でべたつく体をさっぱりさせたいということで、風呂を沸かしてもらっていたのだが、その順番決めで少々もめた。


「俺は後の方で構わんのだが」

 と紳士的な対応をした所、

「あんた、どうせ、こっちゃんの出汁が出た風呂だ、とか思って興奮してるんじゃないの? 気持ち悪い」

 と心外な事を佐藤に言われてしまう。綿貫の体液が出た風呂だからと言って興奮するような俺ではない。すでに北岳に行った時に体験済みだし。

「俺は、そんな変態のテンプレみたいなやつじゃないぞ」

 と抗議したのだが、聞く耳を持たれず、

「先輩、男子は最初にしてください」

 というわけで、雄清も巻き添えをくらって(俺も事故に遭ったみたいなものだが)、男子組は最初に入る事になった。広めの風呂らしいので、待っているのも馬鹿らしく、雄清と同時に入る事にした。

 

 風呂場は外に面していて、島の岬に立って、双眼鏡でこちらを覗けば見えるような状態だった。綿貫の入浴シーンに興味がないと言えば嘘になるが、俺はそこまで馬鹿なことをする気にはならない。


 風呂を上がり、バルコニーの椅子で、波の音を聞きながら、ほてった体に風を当てていたところ、風呂から上がった女子たちがやってきた。綿貫はノースリーブに短パンのパジャマといういで立ちだ。血行が良くなった彼女の肌はうっすらピンク色になっていて、しっとりとした肌が、艶っぽく、水着より露出は少ないはずなのに、俺はなんだか、直視するのが躊躇われた。風呂あがりというシチュエーションに興奮しているのかもしれない。そんな気は、おくびにも出さないが。


 風呂に入った後は、各人部屋に入って、俺は整数の問題を解いていた。


 3を法とし、14は2と合同。

 綿貫を法として、俺は愛と合同。愛はちきうを救う。すなわち俺はこの世界の救世主。やばい、集中できない。神経が高ぶっているせいだろうか。


 水を飲もうと思って、キッチンに行ったところ、リビングで雄清と佐藤が、ソファに並んで座って、ヒソヒソと密談ならぬ蜜談をしていたらしかったので、邪魔をしないようにそっと飲み物を用意した。


 こぽこぽと水を注ぎながらも、聞こうとしたわけでないのだが、彼らの会話が耳に入ってくる。


「そろそろ返事聞かせてほしいんだけど」

 と佐藤が雄清に詰め寄っている。

「返事って?」

「バレンタインチョコ渡したじゃん。雄くん、私のことどう思っているの? 今日こそは逃げずにちゃんと答えてほしい」

「……ずっとそばにいてくれたら嬉しいなって思ってるよ」

「もっと、別な言葉で言ってほしい」

「……僕は留奈が好きだよ。十年前から変わらず」

 佐藤は顔を俯かせたが、ポツリと、

「……嬉しい」

 

 このまま放っておいたら、キスでもしかねない勢いだったので、俺は咳払いをして、

「気づいてるかもしれんが、俺一応ここにいるぞ」

 といった。

 そうしたら佐藤は顔を真っ赤にして、

「あんた聞いてたの?! ほんと最低!」

 と悲鳴を上げた。俺が悪いのだろうか。リビングで盛り上がるこいつらが悪い気がするんだが。

「まあ、人の価値観はそれぞれだし、お前らがどういうお付き合いをしたいのか知らんが、避妊だけはしっかりしろよ」

 といったところ、雄清は苦笑いし、佐藤は、

「そういうの大人になるまでしないからっ! てかほんと最低!」

 とクッションをつかんで俺に投げてこようとしたので、そそくさと部屋に退散した。俺的には割と真面目なアドバイスだったんだが。


 部屋に戻ってから、雄清と佐藤が長年もつれさせてきた、曖昧な関係も、とうとうこの日を以て新たな局面を迎えたことに、なんだか不思議な感覚を覚えつつ、先ほど書き連ねていた、ノートの馬鹿な落書きを見て、ひとりで笑っていた。

 そんなとき、スマートフォンが振動した。見ると、萌菜先輩である。今日連絡先を教えたばかりなので、確認の意味で、送ってきたのだろう。そのまま電話に出た。

「どうかしましたか?」

「電話テストです。……今何してる?」

「整数の問題やってました」

「どんなの?」

「俺モジュロ綿貫さやかは愛なのかなって考えていて」

「ちょっと何言ってんのかわかんない」

「俺の愛の形は特異なのものですから」

 萌菜先輩はあきれたといった感じで笑った。それから、

「暇なら、ちょっと話があるんだけど」

「なんすか?」

「ちょっと、散歩でもしながら話さない?」

「まあ、いいですけど」

 

 そういう訳で、薄手のパーカーを羽織って、俺は玄関に向かった。


 散歩に出ると言ったら、黒岩さんは懐中電灯を用意してくれたのだが、別荘の周りは外灯がついていて、特に暗くて困るということはなかった。


 道を歩きながら、萌菜先輩は空を見上げて、

「星空を見ていると気分が安らぐ。私って、高いところにあるものを見上げるのも、高いところから、下を見下ろすのも好きなんだ」

「そうなんですか。案外俺たち気が合うかもしれませんね。山頂って結構高いんすよ」

「知ってるよ」

 萌菜先輩はそう言って、微笑んだ。


 それから彼女は不意に真面目な顔をする。

「ねえ、深山くんは、さやかのことどれくらい好きなの?」

「急になんですか?」

「いいから」

 先輩にはふざけている様子は見当たらなかったので、仕方なく俺も真面目に答える。

「……好きなのはそうなんですけど、単純にそういうんじゃなくて、あいつに会わなかったら、今はもっとつまんなそうにしていたかな。多分幸せそうにしているやつを見て、鼻で笑って、それで、そんな自分に嫌悪する。そういう生活をしていたと思います。俺にとってあいつは無くてはならない存在なんだと思います」

 もしかしたら、綿貫に出会わなかったら雄清たちの事でさえ苦々しく思っていたのかもしれない。

「……もしさやかが、君を好きでなくなったら」

「多分一生独りでいるんじゃないでしょうか」

 今まで誰かを好きになったことなんてなかったし、こんな俺を好いてくれるようなやつが他に現れるとも思えない。

「そう。……わかったよ。前に言ったかもしれないけれど、もしさやかを泣かせるようなことをしたら、私は君を許さないよ」

 魂抜かれそうだな。萌菜先輩はにこやかに言っているが、それが逆に怖く見えた。


「私は、しばらくここで星を見ているから、君は先に戻っておいて」

「失礼します」

 いくら先輩とはいえ、女子を一人暗がりに置いていくのは、良くなかったかもしれないが、妙なことを聞かれて気が動転していた俺は、彼女を別荘にちゃんと連れ帰るほど気を回すことができなかった。

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