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07 ダイマの町

「着いたー!」

「着きましたッスね!」


 家々に明かりがともり始める頃、サンゾーとゴークはダイマの町に到着した。


「まずは宿屋かな! お腹も空いたし!」

「そうッスね!」


 どこの町でも宿屋はどこにあるのかすぐに分かる。夜に到着する旅人にも分かりやすいよう、入り口に多くの明かりを夜通し灯すからだ。

 2人もその明かりに導かれるように一軒の宿屋に入った。


「いらっしゃいませ!」

「えーと。一人部屋を二つお願いしたいんですけど」

「はい! お一人様一泊銀貨2枚、先払いになります。食事とお湯は別料金です。よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 サンゾーは荷物から銀貨の入った革袋を取り出す。


「ゴークもお湯使うよね?」

「ええっと……」


 サンゾーがゴークの方を振り向くと、ゴークは何かを言いたげにもじもじしている。


「どしたの?」

「いえ……路銀のことなんッスけど……」

「ああ、そういえば言ってなかったね。心配ないよ、ほら」


 そう言ってサンゾーは革袋を掲げる。


「私にオヘンロ・クエストを頼んだ人からの支援があってね。路銀は出してもらえることになってるんだ」

「そうなんスか。安心したッス」

「うん。だからゴークの分も出してあげられるよ」

「ありがたいッス。……あれ?」


 ゴークは革袋を凝視している。

(……あ、気付かれたかな?)


「その紋章、もしかして……」

「……そうだね、ゴークの想像通りだと思うよ。まぁ後で話してあげるよ」

「はいッス。……あ、オレっちもお湯使いたいッス」

「はいよー」


 そしてサンゾーは二人分の宿泊代とお湯の料金を支払うのであった。



「……そんな訳でね、王様の頼みでオヘンロ・クエストをすることになったんだ」


 宿屋の一階にある食堂で夕飯を食べながら、サンゾーはゴークに自分が旅に出ることになった経緯を話していた。


「ごめんね、王様の個人的な話になっちゃうから、願いが何かっていうのは話してあげられないけど……」

「大丈夫ッス。でもお師匠、すごいッスね! 王様直々の頼み事なんて!」

「いやぁ、私じゃなくて父さんがすごいんじゃないかな……」

「ヨーゼンさんがすごいのはもちろんそうッスけど、お師匠も認められてるからこそッスよ!」

「うーん……」


 サンゾーは考え込んでしまう。ヨーゼンは確かに強かったし、若い頃は色々な冒険をしてきたのだろう。その実績と経験が評価されて、周りから頼りにされていたのも納得できる話だ。

 だが自分は? いくらヨーゼンから手ほどきを受けたとは言え、ヨーゼンの代わりになるほどの器があるのだろうか?

 そこまで考えたところで、サンゾーは今日の昼にスボ和尚から言われた言葉を思い出す。正面ではゴークが大きな肉の塊にかぶりついている。


(ゴークを信じて、か。いいものだね、仲間がいるってのは)

「……ふふっ」

「? どうしたんスか、お師匠?」

「頼りにしてるよ、ゴーク」

「??」



 サンゾーの言葉の真意が掴めず、ゴークは口を膨らませたまま目を白黒させる。そして口の中の物を飲み込むと、サンゾーに向かって話しかけた。


「いやでも、路銀の心配が無くて助かったッスよ。オレっち、持ち合わせが少ないもので……。

 旅の途中で冒険者として稼ぎながらの旅になるかな、とか考えていたッス」

「そっかー。……それはそれで大変そうね、大陸中を旅しながらお金も稼がなきゃならないし」


 この世界には、冒険者という職業が存在する。ヨーゼンもそうだったが、要は腕っぷしに物を言わせた何でも屋稼業のようなものだ。

 冒険者はほとんどの場合、互助組織である冒険者ギルドに登録している。魔物がいる地域での素材採取や、危険な魔物の討伐依頼。長旅の際には盗賊にも警戒しなければならないため、その護衛任務。一般市民からそのような依頼を吸い上げ、冒険者との仲立ちをする組織だ。

 需要はかなり多いと聞く。また、腕の立つ冒険者になると、冒険者ギルドからの直接依頼などもあるようだ。ヨーゼンのように。


「実際に冒険者として依頼を受けるかどうかはともかく、旅をする上で冒険者登録はしておいた方が良いかも知れないッスね。冒険者ギルドには色々な情報が集まるッスから」

「あー、そうかもね。……あとそうだ、思い出した。一応これで本当にお金を受け取れるか確かめておかないと」


 そう言ってサンゾーは紋章入りの革袋を掲げる。王様を疑うわけではないが、これを見せれば冒険者ギルドで追加を受け取れるとはどういうことなのか、いまいち良く分からない。


「確かこの町にも冒険者ギルドはあったよね。んじゃ明日は朝イチで冒険者ギルドに行ってみるってことで」

「はいッス!」


 そうして2人は夕飯の残りを食べ始めるのであった。




 翌朝、冒険者ギルドのカウンターにサンゾーとゴークは来ていた。


「本日はどのようご用件ですか?」

「えーと。冒険者登録? ってのをしたいんですけど」

「はい、新規の方ですね。冒険者ギルドについてのご説明を致しますか?」

「お願いします」


 カウンターの職員が語ってくれたところによると……。

 冒険者ギルドは誰でも登録できる。冒険者登録を行うと、ギルドを介して様々な依頼が受けられる。依頼はカウンター横の依頼ボードに貼り付けてあるため、そこから選ぶことができる。

 また、冒険者にはランクというものがあり、Fから始まってAまでと、その上にSランクがある。ランクは依頼を達成するごとに加算される功績ポイントが貯まると上がっていく。ランクによって受けられる依頼に制限は無いが、依頼によっては推奨ランクが設定されることがある、とのことだった。


「高ランクの冒険者になりますと、ギルドからの直接依頼が行くこともあります。Aランク・Sランクの冒険者は数が限られますので、困難な依頼が集中することもありますね」

「へぇ。ちなみにこの辺で高ランクの冒険者って何人くらいいるんですか?」

「3~4パーティ前後かと……。有名な方ですと、王都に居られますSランク、『竜殺し』ヨーゼン様ですとか」

「ぶほっ!?」


 サンゾーは思わず吹き出す。父さん、Sランクだったんだ!?


「いかがされましたか?」

「いえ、何でも……」

「それなら良いのですが。他にご質問はありますか?」

「あ、それなら一つ。王宮の方から、この革袋をこちらで見せればお金が受け取れる、と聞いたのですが……」


 サンゾーは王家の紋章付き革袋をギルド職員に見せる。


「こちらは……。ギルドマスターに確認して参りますので、少々お待ち下さいませ。

 その間に、冒険者登録用紙のご記入をお願い致します」


 ギルド職員はそう言ってサンゾーとゴークに用紙を渡し、奥へと引っ込んだ。

 2人は用紙への記入を始める。


「名前、性別、年齢……意外と書くところ少ないのね」

「他に確認できることもないッスからね。根無し草みたいな人もいるみたいッスし」

「そうなのかー。……あ、故郷って欄があるよ。実家の住所書いておこう」


 そうして2人が用紙への記入を終えた頃、ギルド職員が戻ってきた。


「お待たせ致しました。冒険者登録用紙へのご記入は終えられましたか?」

「はい」

「それでは、ギルドマスターがお会いになるそうですので、ご一緒願います」


 ギルド職員は2枚の冒険者登録用紙を手に取り、サンゾーとゴークを促す。2人はギルド職員に続き、奥にあるギルドマスターの部屋まで案内されたのだった。




「失礼致します。ギルドマスター、お2人をお連れしました」

「入れ」


 サンゾーとゴークはその声に促され、ギルドマスターの部屋に入る。中には簡素な応接セットと大きな机があり、机の奥にがっしりとした体格の中年の男が座っていた。


「こちらがお2人の登録用紙になります」

「ふぅむ……」


 ギルド職員から先程2人が書いた登録用紙を受け取ったギルドマスターは、それを眺めながら顎に蓄えられた髭をさする。


「受付から聞いたが、アワー国の紋章付きの革袋を持っていたそうだな。事情を聞かせてもらえるか?」

「はい。えーと……」



 サンゾーは、王から依頼を受けてオヘンロ・クエストの旅をしていること、革袋はその際に受け取ったことを話した。

 その話を聞いたギルドマスターはふむふむと頷く。


「なるほど、筋は通っているな。

 確かに、その革袋を冒険者ギルドで提示してくれれば金を受け取ることができる。正確に言えば、アワー国からギルドに預けられている供託金から出すことができる、かな。

 ただ、なりすましを防ぐため、誰がいくら受け取ったかは逐一アワー国王宮へ連絡をすることになる。また、各ギルドにてギルドマスター、またはそれに準ずる者との面談が必要になる。ここまではよろしいかな?」

「はい」

「おそらく王宮からはこれから連絡が来るのであろうが、私からも各ギルドへ連絡をしておこう。次からはいちいち説明をしなくとも済むようになるはずだ。

 それと、日が落ちると各ギルドマスターも不在になることが多いため、可能なら日があるうちにギルドを訪れるようにしてもらえると助かる」

「はい、分かりました」

「今日さっそく受け取って行くかね?」

「いえ、今日は冒険者登録のついでに寄っただけですので。まだ大丈夫です」

「そうか、分かった」



 そこまで喋って、ギルドマスターはふぅ、と息をつく。


「しかし、君のような年若い者が王からの依頼とはな。サンゾー、だったか……。ん?」


 言いながらサンゾーの冒険者登録用紙を眺めていたギルドマスターの動きが止まった。


「この住所は……。もしやサンゾー、君はヨーゼン氏の関係者か?」

「はい、ヨーゼンは私の父になります」

「……なるほど。ヨーゼン氏には娘がいると聞いていたが、それなら納得も行く。ずいぶん大きくなったものだな」


 ギルドマスターはサンゾーのことをまじまじと見つめる。


「父のことをご存知なのですか?」

「この近隣のギルドに勤める者で、ヨーゼン氏のことを知らない者はいないよ。当ギルドでも何度か、困難な案件を使命依頼で受けてもらったことがある」

「そうでしたか……」


 サンゾーは少し逡巡してから、口を開いた。


「……あの。数年前に父もオヘンロ・クエストに出たそうなのですが、何か知りませんか?」

「なに? 数年前から不在とは聞いていたが、そうか……。オヘンロ・クエストに……。

 すまんな、当方では特に知らせは受けておらん。ヨーゼン氏がオヘンロ・クエストに出ていたということも今知ったくらいだ。

 だが、そうだな……。もしかすると、オヘンロ・クエストを続けて行った先のギルドなら何か知っていることがあるかもしれん。各ギルドへ回す連絡に、その旨も書き添えておこう」

「ありがとうございます。助かります」

「ヨーゼン氏には世話になったからな。もしサンゾーがヨーゼン氏の行方を見つけてくれるなら当方としてもありがたい」

「はい、ご期待に添えるよう頑張ります」

「いやいや、行方不明のギルド員の捜索も冒険者ギルドの仕事の一つだからな。気にすることはないよ」

「ありがとうございます」



 ギルドマスターは、手元の書類にサラサラとサインを行う。


「……よし、これで君たちの冒険者登録も完了だ。

 冒険者ギルドでは魔物や盗賊の出現警報など、近隣の注意情報も扱っているから見ておくといい。

 ではな、良い旅を」

「はい、ありがとうございました」

「ありがとうございましたッス!」


 そうしてサンゾーとゴークはギルドマスターの部屋を辞したのであった。




「では、お二人の冒険者登録票をお作りしますので、もう少々お待ち下さい」


 入り口まで戻ってきたサンゾーとゴークは、ギルド職員にそう声をかけられた。

 少し時間があるようなので、2人はギルドマスターから話を聞いた、近隣の注意情報が載っているという情報ボードに近づいていく。


「えーと、どれどれ……色々あるねぇ」

「……あれ。お師匠、この情報……?」


 ゴークが指差したそのボードには、

『西方、ラカンの町周辺。オーク出現注意報』

 との記載があった。


「確か、この先の第五のほこらの近くの町がラカンの町だったような……」

「げ。マジ?」

「マジッス」

「オークかぁ……。ゴーク、見たことある?」

「無いッスねー。噂では、クサいって聞くッスけど……」

「だよねー、クサいって聞くよね~……」


 魔物にも様々いるが、特にヒト型の魔物、ゴブリン・オークなどは総じて悪臭がすると言われている。

 彼らはある程度の知能を持ち、多少の衣服も身に付けている。しかし、それを洗う、ということをしないらしい。真偽は分からないが。


「まぁ、大丈夫でしょ! 絶対会うとも限らないし!」

「お師匠、その発言は……。いやいいッス」

「?」



 何か言いかけてやめたゴークに対し、不思議そうな顔をするサンゾー。

 そこにギルド職員から、冒険者登録票が出来上がった旨の声がかけられたのであった。

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