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14 閑話 ゴークの願いは?

 明くる日の早朝、サンゾーとゴークはラカンの町から第四のほこらに向けて出発した。

 ラカンの町の北の山はそれほど高い山ではないが、森が深い。ある程度の深さまでは猟師などが使う山道が続いているが、途中からは獣道に毛が生えた程度の道しかないようだ。そんな緩やかに上っている山道を2人は登っていく。


「予定通り朝早くに出て来られて良かったわね」

「そうッスね。この調子なら昼頃にはほこら付近まで行けそうッス」


 サンゾーは前日、午後に行ったゴークとの手合わせで程よく体を動かした甲斐あってか、夜もぐっすり眠れた。昨日は睡眠が不規則だったが、変に引きずらずにサイクルを戻せたのは今日のためには良いことだ。

 一方、ゴークは。


(身体全体が痛いッス……)


 サンゾーの手合わせで直接打たれた訳ではないが、当て身や足払いは何度も喰らっている。そのたびに地面を転がったゴークの身体には、小さいダメージが積み上げっている。

 だがゴークはそれを顔には出さない。サンゾーに気付かれてしまうと稽古をつけてもらえなくなるのではないか、ということもあるが、何よりゴーク自身の矜恃のためだ。

 この痛みは己の未熟。そう心に刻みながら、ゴークは歯を食いしばって山道を登っていた。



「そう言えばさ、昨日ちょっと思ったんだけど……」


 山道が続いているあたりでは謎のオークも出てこないだろうと、サンゾーとゴークはまだそれほど気を張らずに歩いている。

 サンゾーが会話を振ってきたのはそんな時だった。


「ゴークってさ。オヘンロ・クエストに出るために腕を磨いていたのよね?」

「そうッスね」

「逆じゃないのね? つまり、腕試しのためにオヘンロ・クエストに出たかった、とかそういう理由」

「……はいッス。そりゃあ強くはなりたいッスけど、それだけなら他にも方法あるッスし」

「じゃあさ。そこまでして叶えたいゴークの願いって何なの?」



 ……ついに来たか。

 ゴークはいつかこのような日が来るだろうと思っていた。意図的にゴークからは話さずにいたのだが、一緒に旅をしていく以上、サンゾーが疑問を持つのは当然だ。

 話さずにごまかすこともできるが、それは師匠に対して不義理になるだろう。……話さなければ、ならない。


「……あー、いや……。話したくないならそれでも良いよ? 私が知ったからってどうなる訳じゃないし」


 サンゾーはいつも他人を気遣ってくれる。根が優しい人なのだろう。それとも親の教育が良かったか。

 逆にそれが、ゴークの覚悟を決めた。


「……いえ、いつかは分かることッスし。聞いてもらいたいッス」



 思ったよりも深刻なゴークの様子に、サンゾーは息をのむ。


「……笑わないで下さいね?

 オレっちの、願いは……」


 そして。ゴークはサンゾーと出会った時からずっと被っていた、ベレー帽を外した。



 ……確かに、気にはなっていたのだ。

 何せずっと被っている。食事の時も、立ち合いの際も。そしてずれる様子もない。さらに言うと、それほど似合ってもいない。

 一度食事の時に、帽子外したら? と促してみたことがあったが、曖昧に笑うだけで誤魔化されてしまったのだ。以来、サンゾーは帽子のことに触れていない。何か理由があるのかな、と思うだけに留め置いて。

 その帽子が今、外されて……。




 その下には、毛が無かった。



 ハゲである。いや正確には脇には赤毛が生えている。円形脱毛症、というやつだ。

 頭頂部付近だけ見事にツルツルだ。いや、実はサンゾーは可能性として考えなかった訳ではない。だが、これほどとは。

 ……笑ってはいけない。例え想像以上にツルツルだったとしても。ここで笑えば信義にもとる。サンゾーは大きく深呼吸をした。


「……剃ってる訳じゃない、よね?」

「……はいッス。天然ッス。

 5年くらい前からッスかね、徐々に抜け始めて……。2年経つ頃には、こんな感じに。

 オレっちくらいの若さでこんな頭なんて、他にいないッスよ……。色々試しましたけど、どれも効果なくて……」


 実際のところは若い頃から毛が抜けてしまう人間は一定数いるが、それを言っても慰めにはならないだろう。少数派であることには変わりない。

 ちなみに、この世界ではカツラは一般的ではない。


「……なので、オレっちは決意したッス。オヘンロ・クエストを達成して、この頭に毛を生やしてもらおうと! そうすれば、女の人にもモテると思うんスよ!」


 ドーン! と効果音が聞こえて来そうな勢いでゴークは宣言する。

 サンゾーは、頭とモテるかモテないかは別じゃないかな、と思ったが黙っていた。本人のやる気に水を差すこともないし、世の女性にとってはそうかもしれないし。

 だが少なくともサンゾーは気にしない方だった。最初は驚いたが、見慣れればこんなもんかな、という気もする。むしろ年上好きとしてはこれもアリ、なのだが、口には出さなかった。何か恥ずかしかったので。



「……そっか。

 ありがとうね、ゴーク。話してくれて」

「いえ……。お師匠こそ、笑わずにいてくれてありがとうッス」


 やっぱり笑ってはいけなかった! サンゾーは胸をなで下ろす。

 ゴークはベレー帽を被り直した。



「……さて! それじゃオヘンロ・クエストを頑張らないといけないわね! ゴークの頭のためにもさ!」

「はいッス! とりあえずは第四のほこらッスね!」

「いくぞー! えいえいおー!」

「えいえいおー、ッス!」



 そうして2人は森の中を進む。

 行く手には鬱蒼とした森が広がっていた。

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