表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/15

13 閑話 ガンバレガンバレ男の子!

「お願いッス、お師匠!」


 ゴークは真剣な目でサンゾーを見つめる。

 サンゾーは先程自分の拳法に対する不安を話していたが、同じことがゴークにも言えた。ゴークは2年前にスボ和尚に為す術もなく負けてから、ずっと腕を磨いてきた。今では、そこらの魔物には負けないくらいの実力が付いたと自負している。

 しかし、そんなゴークをほぼ無傷で退けたサンゾー。油断が無かったとは言わないが、それでも勝てなかっただろう、とゴークは考えている。

 もっと強くなるために。自分を超える実力を持つサンゾーに教わりたい。



 そんな気持ちが伝わったのか、サンゾーはどうしようか迷うそぶりを見せたものの、結局ゴークの申し出を受けた。2人は周りの迷惑にならないよう、町を出て近くの平原に移動する。


「まぁ、稽古かどうかは分からないけど、とりあえず手合わせってことで」

「はいッス! よろしくお願いします、師匠!」

「こちらこそよろしくね、ゴーク。

 ……あ、今回は分身の術は禁止ね。あれ使っちゃうと別物になっちゃうし。それにあれ、発動まで隙があるでしょ。タネがバレてると使えないよ、たぶん」

「はいッス。そのつもりッス」


 他にも分身の術には弱点があった。ある程度のダメージを喰らうと術が解除されてしまう上、そのダメージは全て本体に返ってきてしまう。また、単純に複数の身体を同時に動かすため、体力の消耗も激しい。

 効果は高いが、リスクも高い。諸刃の剣と言えた。


「ゴークの実力も分かってるし。今回は私からも仕掛けるよ」

「了解ッス。それじゃあいくッスよ、お師匠!」


 そして手合わせが始まった。




「はぁ、はぁ……。全然ダメッスね……」

「武器のせいもあるんだろうけど、結構攻撃が大振りだよね、ゴーク。そんなんじゃ当たらないよ?」

「返す、言葉も、ないッス……」


 30分ほど全力で打ち込んだ結果、体力が尽きたゴークは大の字に倒れ伏していた。サンゾーはその隣に座っている。


 最初、ゴークには多少の遠慮もあったのだ。ニョイ=ボーはゴークには軽く感じるとは言え、実際の重さは竹棒の比ではない。その攻撃がもしサンゾーに当たったとしたら、怪我をさせてしまうかも、と。

 だが、その遠慮はすぐに消えた。何せどれだけ打ち込んでも当たらないのだ。掠った程度なら何度かあったが、それもサンゾーの服のみ。完全に見切られており、ゴークは如来の手のひらで遊ばされている気分を味わった。

 後半はとにかく早くニョイ=ボーを振ることを心がけたが、それでもサンゾーには及ばず、先に体力が尽きたのだった。



「まぁ、相性もあるんだろうけどね。魔物相手とかだと攻撃力のあるゴークのほうが有利だろうし」


 サンゾーはそう言いながら、自分の拳を握ったり開いたりする。

 時折素早い魔物もいるとは言え、総じて魔物は人間と比べて身体が大きく、それに従って動きも鈍い。そして人間よりも固い個体が多い。そのような相手には、素早さよりも一撃の重さが重要となる。

 対してサンゾーの拳法は、主に父ヨーゼン相手の組手によって磨かれたものであり、言うなれば人相手の技術である。攻撃力は相手を無力化できる程度でよく、それ以上に相手の攻撃に当たらないこと、相手に攻撃を当てることに重きを置いている。


(でも、父さんには魔物を退治した話もあったわよね。拳法でも魔物を倒せる秘密があるのかしら。それとも他に何か……?)



 考えを巡らせるサンゾーの傍らで、ゴークは自らの未熟を噛み締めていた。

 自分が身に付けた技術が通用しないのはまだ納得できる。サンゾーが言う通り、ゴークはいずれオヘンロ・クエストに出るため、主に多数相手、魔物相手を想定した鍛錬をしてきた。人相手は不得手だと言われても仕方がない。

 しかし、自分だけスタミナが切れて倒れている現状はどうだ。隣にいるサンゾーは息も切れていないように思える。技術では負けていても、それ以外のところでなら勝機を見いだせるかと思っていたのに。技術の質がどうという話の前に、そもそもの量が足りていないように思える。


(和尚、確かにオレっちはまだまだ未熟ッス……)


 リョウゼンを出る際スボ和尚に、お前はまだ未熟、と言われたことを思い出す。

 サンゾーに師事して、その技術を少しでも我が物にしよう。そして鍛錬も続けていこう。いつかサンゾーに勝てるように。ゴークは決意を新たにする。



 息も整ってきた。日が落ちるまでにはまだ間がある。


「……よしっと! お師匠、続きをお願いしても良いッスか!?」

「お、頑張るね。いいよ、私の訓練にもなるし」


 跳ね起きたゴークはサンゾーに向けてニョイ=ボーを構える。

 それを見たサンゾーも、パンパンと裾を払って立ち上がる。


「よろしくお願いします!」

「さあ来い!」



 サンゾーとゴークは再度手合わせを始める。


「まだまだ振りが大きい!」

「はいッス!」

「足元がお留守!」


 サンゾーの足払い!


「ぐえっ!」




 ……そうして2人は、互いの姿が見えなくなるまで手合わせを続けたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ