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10 閑話 ガンバレ男の子☆

 見張りを始めて1時間ほど経ったろうか。それとも2時間?

 サンゾーは、戦っていた。


(ね、眠い……)


 眠気と。



 原因は分かっている。本来なら仮眠を取るべき時間に、自分の未熟な行いに対する後悔のせいで目が冴えてしまい、眠れなかったことだ。今日も1日歩いてきて、それなりに身体は疲れていたというのに!


(マズい……。ここで寝てしまったら、冒険者としてというより、大人として、失格……!

 気張れ、私!)


 眠気を覚ますために、サンゾーは自分の頬を両手でピシャリ! と叩く。……これも何度目だろうか。

 そして手のひらに爪を食い込ませ、少しでも刺激とする。

 ゴークの方を伺うと、真面目に小屋の外を見張っている。


(マズい……。ここで寝てしまったら、師匠と呼んで慕ってくれているゴークに対して顔向けできない……! 師匠、失格ッ……!!

 気張れ、私!)



 眠気のせいか、思考がループしていることにも気付いていないサンゾー。

 頬を張った刺激も徐々に薄れてくる。後に残るのは、叩いて血行が良くなったことによる、ほんのりとした暖かさ……。


(寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ……)


 ……しかし無情にも、サンゾーの意識は眠りの海に飲み込まれていくのであった。




 同じ頃。


(暇ッスねぇ……)


 ゴークは暇を持て余していた。

 見張りと言っても、何かの動きを見ている訳ではなく、目の前に広がるのはそれなりの広さの畑と奥にある真っ暗な森だけだ。時折風が吹き、ざわざわと木が揺れる。

 今日は月明かりもあるため、何かあれば見逃すこともないだろう。それがますますゴークの集中力を低下させる。


(そう言えば、リョウゼンにいた時には座禅とかさせられたッスねぇ……)


 ゴークは精神集中の修行は苦手であったが、スボ和尚にはそれを見抜かれていたようで、他の僧より多く精神集中の修行を命じられたものだ。長いときには2時間ほど座禅をしていたこともある。

 だがそのおかげで、それなりに高い集中力を身に着けていることを、まだゴークは自覚していない。


(あぁ、暇ッス……)



「あの、お師匠……」


 ついに暇に耐えかね、小屋の外を見ながらサンゾーに話しかけるゴーク。

 しかしサンゾーから答えは帰ってこない。


「……お師匠?」


 聞こえなかったか、とゴークがサンゾーに顔を向けると。

 サンゾーは、寝ていた。


(……ありゃ、寝ちゃったッスか。まぁ、オレっち一人でも何かあれば分かるッスから、寝かせておきましょうかね……)



 そう思い、ゴークはサンゾーの姿を眺める。体育座りのような格好で壁にもたれ、肩に頭を乗せるようにして寝ているサンゾー。扉から差し込む月の光に照らされて、暗闇の中でそこだけ浮かび上がっているように見える。ゴークはそこから目を離すことができず、自然と観察するような形になる。


(なんていうか……綺麗ッスよね、お師匠。顔立ちも整ってますし……)


 ゴークには姉妹はおらず、リョウゼンでも男所帯だったため、年齢の近い女性と長く過ごした経験が無い。だが、町で見かける女性と比べても、サンゾーは遥かに魅力的に見えた。


(しかも強いッスし。何ですかね、天は二物を与えるんスかね)


 自分の見た目にコンプレックスがあるゴークは、苦々しげに自らを省みる。強さも、美しさも、自分はサンゾーに及ばない。


(あんまり見てると失礼ッスかね……。ん、あれ?)



 そこでゴークは、サンゾーの腰のあたりに毛布が落ちているのに気付いた。寒さを避けるため、2人は毛布を肩にかけたまま見張りをしていたのだが、動いた拍子に肩から落ちてしまったようだ。


(あのままにしていると、風邪を引いちゃうッスかね……)


 そろり、とゴークは立ち上がると、ゆっくりとサンゾーに近づく。

 起こさないように慎重に毛布を手に取ると、サンゾーの肩にかけようとして少し屈む。

 その瞬間、ふわり、とゴークの鼻をサンゾーの香りがくすぐった。


(ぐっ……)


 心臓の鼓動が跳ね上がるが、何とかそれに耐えるゴーク。

 本能を刺激するような甘い香りだ。本当に甘い訳はないのだが、少なくともゴークはそう感じた。

 バクバクと弾む心臓を抑えながら、サンゾーを起こさぬよう、ゴークはサンゾーの肩に毛布をかける。


(ふう、危なかったッス……。ん?)


 サンゾーを上から覗きこむような格好になっていたゴークの目に、それは飛び込んできた。

 サンゾーの白い肌。服の隙間から胸元が見えている。そして、サラシに巻かれ、膝との間で潰れているその双房……。



 ……心臓が止まる。息を飲んだゴークは固まり、そこから目を離すことができず……。


「ぬぐぐ……うぎ……」


 ……意志の力で、そこから目をもぎ離し、2~3歩後ろへ後ずさった。




(何なんスか、あれはー!)


 サンゾーから離れたゴークは、扉の正面に座り、外を見張っていた。サンゾーが寝てしまっている今、ゴーク一人で畑全体を見張らなければならない。

 先程から心臓は跳ねっぱなしだ。


(お師匠、無警戒過ぎますよー! お願いですから、自覚を持って欲しいッスー!)


 頭の中で念仏を唱えながら、なるべくサンゾーの方を見ないようにしているゴーク。

 ……時々ちらりとサンゾーの方を見て、すぐに正面に顔を戻すことを繰り返している。



 ゴークの悶々とした思いを抱えたまま、夜は更けていった。


 最高に筆が乗りました(笑)

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