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01 旅立ち、あるいはクエストの始まり

 それは、サンゾーが20才になる誕生日のことであった。

「おきなさい。

 おきなさい、わたしのかわいいサンゾーや」

 その声に、少女サンゾーは目を覚ます。ベッドの脇には母親が立っていた。

「おはよう、サンゾー。

 もう、朝ですよ。

 今日は、とても大切な日。

 王様からお呼びがかかっていたでしょ」

「そういえば……そうだったっけ……」

 寝起きではっきりしない頭で、今日の予定を思い出す。先日、王宮から使いが来て、王様が私に会いたがっている旨の手紙を届けに来たのだ。

「遅れては大変だからね。早く起きなさい」

「はぁい……」

 ふわ、と口から漏れるあくびを噛み殺し、サンゾーは答える。突然の呼び出し、何の用だろう……?



 2時間後、サンゾーはアワーの王宮の玉座の間にいた。目の前の玉座にはアワー王が座っている。

「お呼びに応えまして、サンゾー、参上しました」

「よくぞ来た!

 勇敢なるヨーゼンの娘、サンゾーよ!

 ヨーゼンが突然姿を消してからもう何年になるか。父から受け継いだ拳法の技は磨いておったか?」

「はい。父には未だ及ばないとは存じますが、父の名に恥じぬよう、研鑽に努めております」

「おお! さすがはサンゾー!

 そんなおぬしを見込んで、ひとつ頼みがあるのじゃ」

「何でございましょう?」

「実はな。儂に代わり、オヘンロ・クエストを行って欲しいのじゃ!」

「オヘンロ・クエスト……!!


 ……って、何ですか?」

「何じゃ、知らんのか。

 オヘンロ・クエストとはな。このシコーク大陸に伝わる伝説じゃ。

 シコーク大陸には我がアワー国の他に、トーサ・ルイヨ・サヌキスの3国があるのは知っておるな。その4ヶ国にまたがり、計88ヶ所のほこらがあるのじゃ。その全てを巡った者は、願いを一つ叶えることができると言われておる」

「そんな伝説が……。でも、『願いを叶えることができると言われている』ってどういうことですか?」

「うむ。オヘンロ・クエストは代々我が王家に伝わる伝説ではあるが、儂の知る限りそれを成した者は一人もおらん。故に、そう伝わっている、としか今は言えん。

 考えてもみい。我がアワー国だけでも広大な国土がある。それが4ヶ国、そしてほこらは各地に散らばっておる。生半可な実力の者では全てを巡ることはできまいよ」


 話を聞く限り、なかなか大変な話のようだ。

(でも……)

「……そのような案件を、何故私に?」

「ヨーゼンが居ればヨーゼンに頼んだんじゃがな。しばらく姿を見ぬゆえ……。おぬし、どこに居るか知らんか?」

「さぁ、王様もご存知の通り、父はあの性格ですのでさっぱり。まぁ、どこかで元気にしているとは思いますが」

「そうよなぁ。風来坊と言うか、何というか……。考えてみれば、姿を消す前10数年もの間、王都に腰を落ち着けていたのが珍しかったのかも知れんな。ヨーゼンでも娘は可愛かったとみえる」

「どうなんですかね。拳法は相当に仕込まれましたが」

 そう言いながらサンゾーは、数年前まで続いていた修行の日々を思い出そうとして……それを慌てて打ち消した。父が傍にいたため辛くはなかったが、修行の内容は非常に厳しかった。あまり思い出したくはない。

「そうだな。姿を消す前、ヨーゼンも言っておった。

『サンゾーはもう一人前になりました。私に何かあれば、ご用命はサンゾーに』とな」

「……そうですか」


(……やばい、嬉しい)

 サンゾーはヨーゼンに直接褒められた記憶がほとんどない。修行をこなしても、黙って頷くばかりだった父。そんな父が、外では自分のことを一人前と言ってくれていた。それを知ったサンゾーは、王様の前ではあるが、思わず口元が緩むのを抑えられなかった。

 ヨーゼンからは『女でも自分の身を自分で守れる程度には強くあるべし』と何度も聞かされたものだ。その結果身についた技が、『自分の身を自分で守れる程度』なのかはサンゾーには分からなかったが。


「そこで、今回の件はサンゾーに頼むことにしたのじゃ」

(父さん、一人前だって言ってくれてたのは嬉しいんだけど。

 今回はちょっと迷惑だったかな!)

「どうじゃ? 引き受けてはくれぬか?」


 少し考えて、サンゾーは拒否権が無いことに気付いた。アワー王の言葉は問いかけの形ではあるが……何と言っても、相手は王様なので。

「達成のお約束はできませんが、精一杯やらせて頂きます」

「おお! さすがはサンゾー! 期待しておるぞ!

 我が国からも、可能な限りの支援はしよう! 路銀の心配はいらんぞ!」

「ありがとうございます」

 そうして、サンゾーはオヘンロ・クエストの旅に出ることになったのだった。



「ところで王様、一つよろしいでしょうか」

「なんじゃ?」

「王様の代理を私にお命じになるということは、王様に叶えたい願いがあるということですよね?」

「そうじゃ」

 仮に達成できたとして、どのタイミングで願いを言う必要があるのかが分からない。そのため、これだけは聞いておかなければならない。

「叶えたいのはどのような願いなのですか?」


 その言葉に、アワー王の目がわずかに泳いだ。

(これは何かある……?)


「王様?」

「その、なんじゃ。市井で流れておる、娘に対する噂は知っておるか?」


 アワー王は賢王である。人柄も良く、国民のことを常に思い、周りの国と争うこともない。突然国民を呼びつけるなど、フランクすぎるきらいはあるが、それが可能なのも賢王たるアワー王だからこそである。

 子供は3人。第一王子が40才そこそこ、第二王子が40才手前。二人とも結婚しており、孫もいる。

 そして、2人の王子の妹に当たるアワー王女は……。


「えーと。……あまり外に出られない、とか」

「『あまり』ではない。『全然』じゃ」

 そう言って、アワー王は深いためいきをつく。

「『私には本だけあれば良いんです!』などと言って、日がな一日書庫に篭もっておる。

 娘ももう29。他国に嫁ぐにしろ、婿を取るにしろ、そろそろ身を固めることを考えてほしいのじゃが。見合いも行おうとしたが、どうにも頑なでな。『いつか私だけの王子様が!』などと言いおって。見合いの相手はまさしく王子であると言うのに!」

「はぁ……。それで?」

「王族としては夫を迎えて欲しいが、親としては本人が幸せなら今のままでも構わんと思っておった。

 しかしな、侍女の話によると、このところ鏡の前に座る時間が増えているとのことでな。ためいきも増えていて、表情も晴れぬ。食事もあまり取れておらんようだ。おそらくだが、娘もこのままで良いとは思っておらんのだろうよ。

 それとなく見合いの話も振ってみたが、強い調子で拒否されての……。兄たちと歳の離れた娘だからといって可愛がり過ぎたかの、我が強い娘に育ってしもうた。儂も妻も、あまり強くは出れんのだ。

 他にも手を尽くしたが、どうにもこうにも上手くいかん。そこで、だ」

 アワー王はパン! と膝で手を打ち、身を乗り出して、

「オヘンロ・クエストじゃ! その願いにて、現状を打破して欲しいのじゃ! 何でも良い、娘が幸せに暮らしていけるようにして欲しいのじゃ!」

 そう言って、アワー王はサンゾーを強く見つめたのであった。


 何とも、親バカな願いである。バカ親、とも言える。

(他にも方法あるんじゃないの?)

 と、口には出さなかったが、サンゾーはそう思った。

 しかし、相手は王様である。バカ親でも、王様である!

「は、はぁ……。では、願いとしては『王女様が幸せに暮らせるように』ということでよろしいのですか?」

「そうじゃ! よろしく頼む!」

「分かりました。それでは……」

 そう言って席を辞そうとするサンゾーに、

「待て。最後に大事な物を渡しておこう。大臣、例の物を」

「ハッ!」


 その声に応え、王の側に控えていた大臣が革袋と玉のようなものを携えてサンゾーの近くへやってきて、その2つを手渡す。

「まずは何より、路銀じゃ。銀貨で50枚。

 10日ほどで無くなろうが、その革袋を見せれば各地の冒険者ギルドで追加を受け取れるよう手配しておこう。オヘンロ・クエストを続けていくといずれ他国に出るが、冒険者ギルドなら各地にあるからの」

 言われてサンゾーが革袋を見ると、アワー国王家の紋章が焼印されている。

(なるほど、この紋章付きの革袋があれば路銀には困らない訳ね)


「そして、玉についてだが。

 それは『願いの玉』と呼ばれるもので、オヘンロ・クエストのほこらに入れると光るそうだ。そして、全てのほこらを回り終わった際には金色に光り輝くと言われている。金色じゃぞ、金色!」

(何故金色をそんなに押すんだろう?)

 サンゾーは、手のひらに収まるくらいの大きさの『願いの玉』を見つめる。今は白色だ。

「まずは第一のほこらが王都のジクワ地区にあるから行ってみると良い。

 ほこらに行った際には必ず願いの玉をほこらに入れるんじゃぞ。忘れるでないぞ!

 また、途中で失くさぬようしっかりと身に付けておくんじゃぞ!」

「分かりました。それでは行ってまいります」

「くれぐれも頼んだぞ!

 ではまた会おう! サンゾーよ!」


 その声に見送られ、サンゾーは玉座の間を辞したのであった。


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