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命と私。

作者: 貂寡
掲載日:2008/06/18

一部残酷な描写があります。

途方もない悲しみが込み上げてきた。

私にはその悲しみの原因が分からない。

ただ、ただ。悲しく、有りもしない涙が今にも瞳から流れ落ち地面に吸い込まれる感覚を味わった。


もともと、そんな感情なんて、私には無いものだと・・・

けれど、今の私を見た先生は驚き、そして喜ぶだろう。

なぜなら、私の頬を伝った水分は出ない筈の涙なのだから。

『先生。私、今泣いてます。この気持ち、何なんでしょうか。』

私は手に抱いていた男性の頭部をまじまじと見て、その後辺りを見回した。


窓ガラスの割れたビルが高々と建ち並び、地面は何なのか分からない瓦礫が埋め尽くしていた。

私は数時間前の記憶を巻き戻した。



7月27日、午前10時34分。

駅前のロータリー。

巳也(みや)と待ち合わせをしていた私は、暑い人工太陽の光の下、肌をジリジリ言わせていた。

「ごめん。待った?」

巳也は遅刻をしてきた。

「4分53・09秒の遅刻です。」

巳也は私の頭を叩いて笑っていた。

「詳しく言いすぎ。秒まで普通数えるか?」

私は巳也の手を振り払い腕時計を見た。

「時間です。」

秒単位まで計らないと私は生きて行けない。

「もう10時40分か、菜流(なる)と話して居るとあっという間だな。」

巳也はそういうと予定どおりに来た市内に向かうバスに乗った。

「さぁ、行こう」

バスは音もなく出発した。


午前10時53分

市内のショッピングセンターの前に着く。


巳也は私の隣で鼻風船を膨らまし深い眠りについていた。

呼吸と共に膨らんだりしぼんだりした鼻風船は音もなく割れ、巳也は眠りから目覚めた。

「おはよー。って、もう着いた?」

「はい。2分23秒前に着いています。」

「何で起こしてくれなかった?」

「起こす必要が無いかと。それにここが終点ですから。」

巳也はバスの中を見回し、私の手を引いてバスから降りた。


午前10時57分

ショッピングセンターの入り口から中へ入る。

「えっと、ペットショップは3階だね。菜流さぁ、行こう。」

私は手を引っ張られるままに巳也に着いて行く。

巳也は途中立ち止まっては、ショーウィンドーの中を見ては私を眺めたりしていた。

「どうしたんですか?」

私は首をひねって巳也に疑問をぶつけた。

「ん?いゃーえーと・・・何でも無い。」

巳也は自分の頭を少し触りながらごまかした。

短めにカットされたその髪は撫で付けられたように手に従って動いた。

「嘘付いても無駄ですから。けど話したく無かったら良いんです。話さなくて。」

こんな事を言うと巳也は、基本的には話をしてくれた。

「えっと、もうすぐ菜流の誕生日だろ。だから、お祝いに何か買おうと思って・・・」

巳也は笑いながら頭を少し触った。

私は照れ臭い時にする巳也の癖を眺めていた。

「さぁ、行こう。」

巳也はまた手を引いて歩きだした。


11時13分

ペットショプに着く。

店内には、今流行っているアンドロイドの生き物や意思を持った脳生物などが売られていた。

「これ、可愛いなー」

巳也は笑いながら手のひらに何かを乗せていた。

私はそれを覗いた。

「ネズミですか?」

「うん。可愛いだろ。」

「アンドロイド?」

「いや、生きているんだよ。」

「じゃあ意思を持った脳生物?」

「それも違う。ただ食べ物を食べるだけのハツカネズミだよ。」

巳也の手のひらに乗ったハツカネズミは、

巳也に甘えるように顔を擦り付けていた。

私は背筋に何か冷たい物を感じていた。

「可愛いなー。」

私は巳也のその言葉を聞いてはっとした。

いつの間にか、私は手を振り上げて、

その巳也の手のひらの上にいる醜い物を叩き飛ばしていた。

「あっ」

巳也がそう言ったような気がした。

白くふわふわしたハツカネズミは中を舞い

あっという間に重力に吸い寄せられ地面に叩きつけられた。

動かなくなったハツカネズミを私はそっと手に乗せて巳也を見る。

「菜流、生き物はあっという間に死が訪れるんだ。

ハツカネズミは20日しか生きられないし、人間だって1000年も生きられない。」

私は巳也のいやに冷静な言葉が心に突き刺さった。

「だって。だって・・・私、私は知らなかったんだよ。

そんな、そんなに簡単に、生き物は死んで、死んでしまうなんて。」

巳也は白くふわふわしたハツカネズミを私の手のひらから掬い取った。

「けど、菜流は今、分かったんだろう。

生き物はあっという間に死が訪れることを。」

「うん。」

「じゃあいいんだ。」

巳也はそう言うと、店員に事情を話し、お金を払っていた。

死んで冷たくなったハツカネズミは店員に渡されて行った。

「お腹減ったね。」

巳也はそう言って私の手を引いてまた歩きだした。


12時24分

ファーストフード店。

私達は注文を済ませた。

「今からどうするの?」

巳也はにっこりと笑っていた。

「そりゃもちろん、服を買いに行くんだよ。」

「ご注文の品をお持ちしました。」

「ありがとう。」

巳也は目の前に置かれたてりやきバーガーを口一杯に頬張りだした。

私もサラダを少しずつ口に運ぶ。

5口ぐらいで食べ終わった巳也は笑いながら私を眺めていた。

「どんな服がいい?」

巳也はにっこり笑う。

私はその質問に服を想像してみた。

ゆっくりと頭の中を巡回するが、どこもかしこも、

白いままのスケッチブックが広がっているだけだった。

「想像できません。巳也はどんな服が私には似合うと思います?」

私は食べ終わったサラダの入れ物を片付けていた。


「じゃあ行って見るか。」

巳也はにっこり笑って歩きだした。


午後1時16分。

5階衣料品売り場。

いろいろな種類の服がひしめき合うように並べられていた。

「これはどうかな?」

巳也が引きずり出して来たのは、白いワンピースだった。

「巳也がいいんだったら、けど・・・

白だと汚れがめだっちゃいますね。」

にっこり顔の巳也はこう言った。

「大丈夫だよ。

汚れたらまた新しい物を買いにこよう。」

巳也が袖を通して見るように言ったので、

私はその白いワンピースを着てみた。

白いワンピースの裾に淡い水色の模様が入っていて、

それがどことなく夏の空を思わせていた。


「ありがとう。」

巳也にそう言うと頭を撫でられた。


午後1時39分

「今度はサンダルだな。」そう言った巳也に連れられ靴屋に行く。

オレンジの花が付いたサンダルを買ってもらった。

「巳也。悪いです。

何でこんなにも私にしてくれるんですか?」

そう言ったら巳也はポカンと口を開けていた。

「何でって・・・

お前の誕生日を祝いたいからに決まってんじゃん。」

巳也はにっこり笑う。

「けど、いくら誕生日だからって。」

「よし、次だ次。」


午後1時58分

3階、帽子売り場。

可愛いお花のモチーフが付いた、

サンダルとお揃いの帽子を買ってもらった。

「菜流。可愛いなー。」

頭をぽんぽんと撫でられる。


午後3時26分

一通り買い物を済ませた

私達はショッピングセンターを後にしようとしていた。


午後3時26分42秒

人々が入り乱れていた

ショッピングセンターに突如として揺れが襲う。

マグニチュード7・5の直下型地震だった。

この地震に驚き混乱状態に陥った人々は、

働きアリが道を失ったように、

出入口に雪崩れ込んだ。


巳也はその人混みに巻き込まれ消えていく。

「巳也!巳也ー。」

私は叫び人混みに割り込んだが、見つけられない。

「巳也!」

『ピキ。ガガ。』

変な音が辺りに響く。

入り口にいた人々は、

下に倒れた人を踏み台に

我先にと狂ったように

ショッピングセンターを後にする。

「巳・・・也。」

不安と言うような感情は

無いけれど、そんな感情を私は感じていた。

『ガガ。ガリッ。』

また、音が辺りに響く。

この音は・・・

私は寒さを足元から感じ、巳也を探し続けた。

「巳也!巳也!」

「うっ。うぅー菜・・・流。」

私は風のような巳也の

声を耳を済まして辺りを

伺った。


「菜流。」


入り口と反対方向から声が聞こえた。

「巳也!巳也どこ!」


『ガリッ。コン。』


音が大きく響く。

「ここ。」

人が折り重なった中から小さく聞こえた。

「巳也!」

私は息をしなくなった

人々を掻き分けて巳也を

探した。


一人ずつ顔を見ながら巳也を探した。

小さな子供が口から血を出して白眼を向いていた。

お腹が膨れた女性は泡をふき、腹部から出血していた。

年を取った男性は首を90度ひねる形で息を引き取っていた。

「巳也・・・」

私の瞳に巳也の姿が写っていた。

「菜流か?」

私はそっと、巳也の頭を抱き抱える。

「そうだよ。」

「良かった。けがしてないか?」

「うん、大丈夫だよ。

そこから出れそう?」

巳也の体は息を引き取って固くなった人々に埋まっていた。

「菜流。俺はもうだめだ・・・

だから早くここから逃げてくれ。」

『ミシ。ガリガリ。』

大きな音が私に恐怖を教えた。

「いや。巳也を置いて行くなんて。」

私がそう叫んだ瞬間。

余震がきた。

『ゴゴゴゴ。』

ガラスの割れる音や壁が崩れる音が辺りから聞こえた。

余震が治まって私は巳也を見た。

「巳也!」

私の目の前に巳也の頭部が血に染められて転がっていた。

初め、何が起きたのか分からなかった。

しかし、巳也の頭部と胴体の間に大きな鉄板が突き刺さっていた。

まるでギロチン台に乗せられた死刑囚のように。

私は彼が死んだと言うことをふつふつと実感していたが、

無意識の内に巳也の頭部を優しく抱き抱え、歩き出した。


巻き戻し、思い出した私は瞳に涙を浮かべ、

落ちた涙が地面に吸い込まれていく。

「巳也。」

私は巳也の頭部にある短く切られた髪を撫でた。

「私はどうすれば。」

巳也の頭部から流れ出た血液が真っ白だったワンピースを赤く染めた。

「汚れちゃった。

巳也は新しいの買ってくれるって約束してくれたのにね。

もう、そんな約束果たせないね。」


『ドドドド。』

ヘリコプターの音が上空から耳にとどく。

私は真っ青な良く晴れた夏の空を見上げた。



【現在、南二紙ヶ区上空を飛行中。

「これは酷い。

建っていた建物がすべて全壊している。

死者多数と思われる。

あっ。生存者発見。

降下する。


何だろう。少女が手に持っているもの。

ボール?

!!男の頭部だ!」】


この地震による死者約1億10万人。

行方不明者5000万人。

私は巳也に買ってもらった赤く染まったワンピースを大事に抱えた。

後に聞いた話だが、

巳也は寿命が病気のために短く成っていたのだそうだ。


ぱっと、思い付いた話だ。けれど、やはり何らかの形で現代社会に影響を受けているとつくづく実感した。地震をテーマにしてみたが、何とも不格好な話になってしまった。

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