097.剥く
「これは置いとけば? 祖父ちゃんのだろ?」
マー君が、埃塗れのトロフィーをゴミ山から引き抜いた。
トロフィーには、人の目玉に虫の足が生えた雑妖が、びっしり集っている。って言うか、トロフィーから湧いてる。
俺は全力で首を横に振った。
ツネ兄ちゃんとノリ兄ちゃんも、顔が引き攣ってる。
「政治、それ、雑妖の発生源」
ノリ兄ちゃんが言うと、マー君は無言でゴミ山に投げ込んだ。
三枝さんが、ノリ兄ちゃんに近付こうとした雑妖を魔法で消す。
双羽さんが各部屋の丸洗いを終えて、汚水を連れて出て来た。ゴミ山に汚れを捨てて、再び中へ。
魔法使い以外の五人で、選別を続ける。
ノリ兄ちゃんが、ゴミを灰にする。
俺達は、売る物と送る物を分けながら、送る物の過剰包装を剥いた。
小銭がぎっしり詰まった一升瓶を十一本、発掘した。これは、祖母ちゃんの郵便貯金の口座に入金する事にした。
「昼飯できたぞー」
コーちゃんと政晶君が、農道を走って呼びに来た。
もうそんな時間か。七時頃から作業を始めて、今、十二時過ぎ。
五時間ちょい。
タオルと洗剤をペットNPOに贈る事を伝えると、コーちゃんは超笑顔で言った。
「じゃ、俺、箱詰めと宛名書き、手伝うよ。そんくらい、いいだろ?」
「いいのか? 受験生。情報で助かったし、無理しなくていいんだぞ」
「無理じゃない。息抜きだよ。息抜き。それに俺も身内なのに何もしないとか、なぁ?」
最後は政晶君に言った。
「分家で作業する分には、危なないんちゃうん?」
政晶君が、商都弁でノリ兄ちゃんに聞く。みんなが色々頑張っているのに、自分だけ何もしないのは、気が引けるのだろう。
ノリ兄ちゃんは、母屋を視て、屋敷神様の方を視て、政晶君に視線を戻した。
「いいんじゃない?」
軽トラにタオルと洗剤と小銭の瓶を積んで、俺は一足先に分家に戻った。
※同じ地方の人以外にとっては心底どうでもよさそうな方言の説明
危なないんちゃうん?
→危なくないんじゃないの?(特に危険性はないのではないのか?)
発音を正確に表記するのはちょっと無理かも。
「う」の部分は「ぁ」と「ぅ」の中間みたいな発音で最後の「ん」も半ば消失。
政晶の商都弁にはモデル方言がありますが、歌道山町の方言にモデルはありません。完全フィクション。