094.玩具
何往復かして、応接間に戻ると、ツネ兄ちゃんがソファの前に蹲っていた。
「ツネ兄ちゃん、どっか具合でも……」
悪くなっても何の不思議もない。
でも、違った。
ツネ兄ちゃんは泣いていた。その手の中には、古ぼけたソフビ人形。
懐かしの何とかって番組で、ちょっと見た事がある。俺が産まれる前の特撮ヒーローだ。
丁度、ツネ兄ちゃん世代。
よく見ると、ヒーローの足の裏にマジックで名前が書いてあった。
経済
いかにもお年寄りっぽい達筆。ウチの年寄りの筆跡じゃない。
ヒーローにも、雑妖が何匹も入っていた。
どう見てもツネ兄ちゃんの持ち物だ。
何とかしてもらえないか、双羽さんに相談しに行く。
双羽さんは眉間に皺を寄せた。
「器を壊さずに、ですか……難しいですね」
「子供じゃないんだ。俺が諦めさせてやる」
マー君が応接間に向かう。ツネ兄ちゃんと鉢合わせした。
「……焼いてもらう」
「祖父ちゃんの字だけでも、撮っとく?」
マー君がポケットからケータイを出す。ツネ兄ちゃんは首を横に振った。
「これ撮ったら、百%心霊写真になる」
ツネ兄ちゃんが、ゴミ山の上にヒーローを差し出した。
「これも、焼いて欲しい」
「うん、いいよ」
でも、ツネ兄ちゃんの手は、ヒーローを握ったままだ。たくさんの小さな手や虫の脚が、ヒーローから出て、ツネ兄ちゃんの手を掴んでいる。
ノリ兄ちゃんが、杖の山羊でヒーローの頭を軽く叩く。ツネ兄ちゃんの手から、ヒーローが落ちた。
すぐにいつもの呪文で、たくさんのゴミと一緒にヒーローを火葬する。