087.質問
十二月二十八日。
世間は今日が御用納めだ。
俺達の今日の予定は、玄関の隣の仏間、トイレの隣の小部屋、時間があれば、二階の廊下と使っていない部屋を片付ける。
マー君と真穂は、ジャヌコへ買出し。ついでにゆうちゃんに散髪させる。
俺はクリーンセンターに灰を持って行って、ジャヌコで合流する。
雪が積もった農道をノリ兄ちゃんに合わせて、ゆっくり歩く。双羽さんが魔法で除雪する。
雪の中で白菜を収穫していた近所の婆さんが、話し掛けて来た。
「ケンちゃん、あんたとこ、誰ぞおるが」
「多分、ゆうちゃんだから、大丈夫です」
「ゆうちゃんも帰っとったが?」
婆さんの質問に答えられずにいると、マー君が爽やかに言った。
「本人に直接、お尋ね下さい」
それを聞いて、近くの畑の人達も、作業を中断して農道に出て来た。質問した婆さんは、勿論ついてくる。
次々畑から出てきて、実家に着く頃には、俺達も入れて二十人近くに膨れ上がった。
庭に居たのはやっぱり、ゆうちゃんだった。
昨日はなかったゴミ山の前で、こっちをぼーっと見ている。
このゴミニートは相変わらず、ヘドロの塊で、雑妖に集られていた。
ゴミ山もヘドロと雑妖に隙間なく覆われて、物が何かすら、わからない。
ヘドロは、折角清めた庭に充満している。
夜中にひとりでゴミ出し頑張ったのは、褒めてやりたい所だが、こいつも所詮、ゴミ屋敷作成者だ。
労いの代わりに反吐が出そうになったので、黙っている事にした。
「あれま、ホンにゆうちゃん」
さっきの婆さんが、心底驚いた声で言った。
それを皮切りに、近所のお年寄り達から、ゆうちゃんにとって痛い質問が容赦なく浴びせられる。
仕事、住所、結婚、子供の有無。
ゆうちゃんの母親みたいに行方不明になったかと心配していた云々。
ゆうちゃんは固まってしまった。
「ゆうちゃん、これ、全部一人で出したのか?」
「いや、お……おう。まぁな」
ゴミニートは、ツネ兄ちゃんには返事をしている。
何なんだよ、コイツ。
マー君が助け船を出す。
「皆さん、ゴミ焼き、今からでもできそうですけど、見物して行かれますか?」
みんなの注意が逸れた隙を突いて、ゴミニートは巣に帰った。
近所付き合いもロクにできない分際で、本家の跡取りを名乗るな。
近所の人達は、ノリ兄ちゃんのゴミ焼き魔法を間近で見て、驚いたり感心したりしている。
双羽さんが水の魔法で灰を片付けると、大満足で農作業に戻った。