086.百万
晩飯の後、改めて二百万について、みんなに聞いてみた。
座卓の真ん中には、二百十七万五千六百十一円と払戻票と封筒が、並べて置いてある。
分家のみんなにも要らないと言われた。
俺と真穂は申し訳なさ過ぎて、俯くしかない。
「百万もーらいっ!」
マー君が身を乗り出して、札束をひとつ掴んだ。
みんな、呆気に取られて見ている。
マー君は、札束をズボンのポケットに入れ、ニヤニヤ笑って言った。
「この百万、俺がもらったから、俺のもんで、俺がどうしようと勝手だよな」
「あ、あぁ、そうだな」
米治叔父さんが標準語で言った。
昨日、地区のみんなに巴一家を紹介した時、方言だと通じないんじゃないか、と言われたらしい。
マー君達も「が」と「げ」の使い分けがわからないと言い、叔父さんは標準語で話す事にしたらしい。
「じゃ、この百万、畳代の支払いに充てる」
マー君はポケットから札束を出して、座卓に戻した。
「えっ、あっ、でっ、でも……」
「祖父ちゃんは、リフォーム代なんか、絶対出さないぞ。真穂ちゃん、払えるの?」
「あ、あぁ~……無理むりムリ、無理です。ゴメンナサイ」
叔父さんも、もうひとつの札束を一旦、懐に入れて、出しながら言った。
「こっちの百万は俺が戴いた。で、家のリフォームやら壊れた物の買い替えに充てる」




