083.憎悪
親父の部屋の東には、三部屋あるみたいだった。
どこから手をつけるかは、後で考える。
土産物でもぬいぐるみでも、人形の類には洩れなく「何か」が入っていた。
ゴミ袋に入れる瞬間、何度も目が合った。
玄関を経由していないからか、雑妖もゴミと一緒に庭に出た。でも、ゴミ焼き円からは出られないみたいで、恨めしそうにこっちを睨んでいる。
ノリ兄ちゃんは、魔法で丸洗いされた縁側をざっと視て言った。
「豊一叔父さんの隣のお部屋は触っちゃダメ。明日は東の二部屋とトイレの隣のお部屋を片付けようね」
片付けるっつーか、ほぼ全部捨てるけどな。
誰も異論はなく、縁側と階段から出した物の選別をする。売れる物は軽トラに積む。
みんな、要不要の選別スキルが大幅にレベルアップしていた。
瞬時に判断して、ゴミ山と軽トラに振り分ける。
掃除に使えそうな物はガレージへ。
時々、クロエさんがゴミ袋を持って降りて来る。
ガンガン、ゴミ山を高くする。
よくこれだけの物があのスペースに入っていたと思う。
ノリ兄ちゃんが、双羽さんと三枝さんに守られながら、玄関に回った。
「こっち開いたし、ここだけ止めてても仕方ないから、安全地帯、消すね」
ノリ兄ちゃんの雰囲気から、そこだけ止めてると何かマズイ事になるっぽい事が察せられた。
誰も反対せず、ノリ兄ちゃんはあっさり、安全地帯の魔法を解いた。
家から黒い風が噴き出した。
壁があるのに、風が吹き抜けるのがはっきり視える。
怖い。
何がそんなに怖いのかわからない。
でも、俺は足が震え、その場にしゃがみこんだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
真穂の心配そうな声に顔を上げる。
歯の根が噛み合わない。声も出ない。
双羽さんが玄関で光の剣を一閃した。黒い風が、何の手応えもなく消えた。
俺の震えが治まる。
ノリ兄ちゃんが、にこにこ説明する。
「憎悪と深い怨念を食べて、雑妖が立派な魔物に育っててね、それ、やっつけたんだよ」
それ、誰の憎悪と怨念デスか? いや、今ならわかる。
住んでた時は、何も知らなかった。気付かなかった……
俺は、真穂にもう大丈夫だと言って作業に戻った。