082.階段
近所の人達はもう帰っていた。
叔父さんとマー君はかなり酔っている。
「藍ちゃんが一応、ゆうちゃんも呼んでくれたんだけど、降りてこないんだよなぁ」
「何年も籠ってるからな、顔ぉ会わせ辛いんだろう」
叔父さんが、本家の方角を見て言う。
俺はちょっと困って、真穂の顔を見た。
「うん、どうせ、近所の人に詮索されるのがイヤ! とかだろうけど、あんなのでも一応、同居の家族だから……」
「心配だわなぁ」
真穂の言葉に、叔父さんが相槌を打つ。
俺と真穂は同時に首を横に振った。
「もうアラフォーの大人だし、別に心配はしてないんだけど……」
「用があるから……」
「ゆうちゃんに何の用だ? 大掃除の人手なら、間に合っとろうが」
叔父さんが首を傾げる。
ゆうちゃんが居ても、使えないことは、誰の目にも明らかだ。
「証人。俺と真穂は、大掃除が終わったらここを出て、もう戻ってこないけど、真穂はまだ未成年だから、捜索願とか出されると面倒だろ?」
「誘拐とかじゃなくて自分の意志で出ていくって言うことと、出て行く理由と、無理に言わされてるんじゃないっていうのを見てて欲しいの」
「家出宣言を録音するから、後で祖父ちゃん達に聞かせて欲しいんだけど、いいかな?」
「そりゃ、別に構わんが……」
「住職さんとか、近所の人の前で言うと、引き止められたり、心配されたりするから……」
「まぁ、いざとなったら、何とかする。心配せんでえぇ」
叔父さんはそう言って、証人を引き受けてくれた。
叔母さんと藍ちゃん、コーちゃんができあがった昼食を運んで来た。
カツ丼を食べながら、気になった事を聞いてみた。ノリ兄ちゃんだけ、消化にいい素うどん。
「真知子叔母さん、霊感あるの?」
「ん? まぁ、ちょっと視えるだけ。お祓いも何もできないけど、内緒よ。ここらの人、そう言うの嫌うから」
叔母さんは困った顔で苦笑した。
もうひとつ、ゆうちゃんの母親の事も聞いてみた。
叔母さんは更に困った顔をしながらも、答えてくれた。叔父さんが、一気に酔いがさめたのか、しっかりした声で補足する。
二人の話を総合する。
ノリ兄ちゃんが「大掃除したら叔母さんが見つかる」って言ったのは……
俺は怖くなって、考えるのをやめた。
どうせ、大掃除が終わったら出て行くんだ。
少し休憩して、作業に戻る。
まずは階段の物を出す。
絶妙のバランスで積み上がった物を崩れないようにそっと降ろす。バケツリレーの要領で、降ろしては外へ、降ろしては外へ。
あんなに邪魔でヤバかった階段が、普通に通れるようになった。
双羽さんが水の魔法で、埃焼けした階段を一気に洗浄する。
階段が板の木目も鮮やかに、天井をうっすら映して輝く。
蔓延っていた雑妖も消え失せた。
俺は、生まれて初めて、この階段の真の姿を見た。
オヤジの部屋の障子を外して、外に出す。
障子紙は後で貼り替える。
三枝さんに魔法で軽くしてもらって、縁側を埋める家具を外に出した。
物を除けたら、雨戸が動くようになった。二枚開けて、そこから直接庭に出す。
小さい物は自分の筋力で、大きい物は魔法の助けを借りて、どんどん庭に降ろして、雨戸を開放した。
縁側は、母屋の南側の幅いっぱいに達していた。