080.怒り
真穂が怒鳴った。
「おじいちゃん達がガラクタもゴミも捨てさせてくれないから、ゴミ屋敷になってるんじゃない!
おばあちゃんが大怪我したのに、まだわかんないの!?」
「いやいやいやいや、それは違うだろ。家にある物は全部財産だ。勝手に捨てんなよ!
家長のジジイか、ジジイが留守の時はオヤジか、跡取りのオレの許可を取れよ。
常識的に考えてそのくらい分かれよ! 低能共が!」
「虫食いでボロボロでもう着られない服とか腐ったりカビたりした食べ物とか私が生まれる前に賞味期限が切れて腐食してる缶詰とかお父さんが生まれる前からの古新聞とかそう言うのもウチの財産なワケ? 割れた食器も押入れの中で腐ってグズグズの布団や座布団もムカデやネズミやゴキブリの死骸もゆうちゃんの財産なの? 他にもいっぱいギュウギュウに押し込まれてる邪魔なだけでどうしようもない物に一体どんな価値があるの? ねぇ?」
真穂が息継ぎなしで言い切った。
ホントにもう、全員うんざりしている。
ノリ兄ちゃんが、クロエさんに掃除の説明をさせると提案した。
それでもニートは、そんな物は跡取りの自分の仕事じゃない、と突っぱねた。
「うわー……引くわー。テレビでやってたゴミ屋敷住人と役所の遣り取りまんまじゃん」
藍ちゃんが、三枝さんの後ろに隠れて言った。
「この状態をおかしいと思わない時点で、何かしら精神的な問題を抱えてると思うよ。
普通の人はゴミに埋もれて生活してないし、虫の死骸や腐敗した物を部屋の中に放置したりもしないんだよ」
ツネ兄ちゃんが、可哀想なものを見る目でニートに懇々と説く。
いつからそんな状態なのか質問したが、ニートはうるせぇ! としか言わない。
洗われて体の状態がよくなった事を説明しても、ニートはあの水は何なのか、と明後日な質問を返す。
双羽さんとツネ兄ちゃんが魔法だと答えると、ニートは変な声出して爆笑した。
「なに笑ってんだよ。今、身を以て体験しただろうが」
俺はゴミ袋をゴミ山に追加しながら、吐き捨てた。
真穂と藍ちゃんもマスクをして袋詰め作業に戻っている。
もうこんなの構ってられない。
ノリ兄ちゃんは、俺に使ったのと同じ「一時的に両眼を開く」魔法をニートにも使おうかと提案してくれた。
「いやいやいやいや、いらねーし。
その魔法が一時的に霊感を付与する術かどうか、オレには確認のしようがないだろ。
幻覚の魔法掛けて『ほーら☆おうちにはオバケがいっぱい☆』とかやられたら、たまったもんじゃねーっつーの」
みんな呆れて物も言えない。
ニートは勝ったと思ったのか、ドヤ顔で部屋に戻った。
マジ使えねぇ。ゴミニートめ。