079.提案
ノリ兄ちゃんは、ツネ兄ちゃんに促されて話を続けた。
「山端のおばあちゃんの足の為でもあるんだけど、大掃除してお家をキレイにして、良くないモノをやっつけて、そしたら、ゆうちゃんのお母さん、見つかるよ」
「いや、良くないモノってなんだよ? オバケか?」
「うん。ゆうちゃん、視えてるの?」
「視えてたら、こんな状態で放置なんてあり得ないよ。山端の人達は霊感ゼロだよ」
ツネ兄ちゃんが口を挟む。
ノリ兄ちゃんが首を傾げる。
「でも、真知子叔母さんは……」
「真知子叔母さんは、他所から来たお嫁さんだからな。日之本帝国とか科学文明の国にだって、魔力はなくても霊感だけある人なんて、いっぱいいるし」
知らなかった。真知子叔母さんが本家に入らないのは、そう言う事だったのか。
「他のお部屋は、みんなで協力してお掃除してる最中だから、ゆうちゃんは、ゆうちゃんのお部屋をキレイにしてね」
「いや、いやいやいやいや、それは違うだろう。ムネノリ君、掃除なんてものは、オンナがするもんなんだよ。本家の長男であるオレは、今まで掃除なんてした事ないし、これからする予定も、その必要もないんだ。わかるな?」
「ご自身でなさらないのでしたら、部屋の中身は私共が全て搬出し、焼却処分致しますが、宜しいですね?」
双羽さんが冷たく言い放つ。
ニートが詰め寄った。
「はあ? 何言ってんのオマエ? 何の権限で本家の長男であるこのオレに指図してんの? 他人の物全部燃やすとか、頭沸いてんじゃねーの? 何様のつもりなの?」
双羽さんは何も言わずに、水の魔法でニートの口の中を洗った。
水塊はすぐに口から流れ出た。胴を伝って地を這い、切り落とされた髪を巻きあげ、ゴミの上に舞いあがる。
水塊は髪を吐き出し、清水に戻った。
「何様って……さっきツネ兄ちゃんが言ってたよね? ノリ兄ちゃんはムルティフローラの王族だって。王族の命令で近衛騎士が動くって言ってんの。権限も何も、山端家の俺と真穂の許可があるんだから、問題なんてないだろう」
「いやいやいやいや、何言ってんだよ。それは違うだろ。家長のジジイは今、留守だし、そもそも、そんな許可出す訳ねーだろ」
俺の説明に、ニートは口応えしかしない。
ゆうちゃんも所詮、このゴミ屋敷の跡取りだ。
家族よりゴミが大事なゴミ側の人間なんだ。
そもそも、家長のジジイとオヤジが、「掃除なんてオンナがするもんだ」って決めつけて、散らかす一方で全く片付けなくて、ゴミを捨てさせなくて、増やす一方だから、この惨状なのに。
今時そんな男尊女卑……っつーか、昔の人は、こんなゴミ屋敷になんて住んでなかったろうに。
時代劇でも、普通に男の奉公人とかが掃除してるシーンあるし。
いつ、誰が、掃除は女の仕事って決めたんだよ。どこソースだよ?
ジジイとオヤジが、単に自分がやりたくないから、祖母ちゃんと母さんと、真穂に押し付ける為にそう言ってるだけなんじゃないのか?
確かに「掃除のおばちゃん」は存在する。
でも、俺が見た限り、水都じゃ駅の清掃とかビルメンテナンスの掃除担当とか、役所がやってるゴミ収集も民間の古紙回収とかも、男性職員のが多い。
小中学校では、男女混合で掃除当番があった。高校は、トイレ掃除だけ男女別だったけど、掃除当番は男女関係なくあった。
バイトしてる居酒屋にだって、男女関係なく掃除当番がある。
店長も料理長も掃除してる。っつーか、新入りには、店長が掃除のやり方を説明してくれる。
工事現場のおっちゃんも、警備員のおっちゃんも、竹箒持って現場の掃除してる。
神社もお寺も、巫女さんや尼さんもするけど、男の神職や僧侶だって、境内の掃除してんじゃん。
場を掃き清めるのに、行為者の性別なんて関係ない。
現にこの家も、掃除しただけで、雑妖がスゲー減った。
居間の隣の部屋は、窓を開けて換気しただけでかなり消えた。
魔法で雑妖を消してもらってるのは、掃除する前だ。
その場所も、すぐに掃除しなきゃ、ゴミから次々発生してきてキリがない。
どっかの工場が3S……整理、整頓、清掃を徹底して、スゲー業績伸ばして、ニュースにもなってた。
整理整頓は、仕事の基本なんだ。
普通に生活してればわかるし、どこでもやってることだ。
偉い人や男は掃除しなくていいって言うのは、この家だけの特殊ルールだ。
まぁ、これを説明しても、ゆうちゃんはゴミ側の人間だから、理解できねーんだろなぁ……