078.洗浄
ヘドロは逃げようとしたのか、蔵の方を向いた。
クロエさんと双羽さん、三枝さん、ノリ兄ちゃんを見る。
ツネ兄ちゃんが、ノリ兄ちゃんを紹介する。
ヘドロは失礼極まりない事を言い放った。
「いや、えっ? あれっ? ムネノリ君って、死んだんじゃ……?」
ノリ兄ちゃんは改めて名乗ったが、ヘドロは名乗るどころか、キョロキョロしだした。
双羽さんが、向かいの畑の雪を軽トラ一台分くらい操る。
雪の塊は空中で水になり、ふわふわ飛んでアメーバのように広がり、ヘドロ野郎を包み込んだ。
俺達が掃除の後でやってもらってる、体を洗う魔法だ。
ぬるま湯が、一瞬でドブ水に染まる。集っていた雑妖が一撃で消え、ヘドロも落ちた。
物理でもこんな汚ねーとか、何年風呂に入ってねーんだよ、このゴミニートはッ?
「ちょ……マジ凄くね?」
「一瞬でドブ色とか……ないわー。これはないわー」
「きんもー……」
俺、藍ちゃん、真穂が言葉少なに感想を漏らす。
双羽さんが溜め息混じりに言う。
「一度では無理ですね。あと二回……いえ、三回」
ウチのゴミニートが、お手数お掛けしてすんません。
双羽さんの予想通り、水の汚れを三回捨ててやっと、「ゴミニート」はただの「ニート」になった。
「ゆうちゃん、髪切るからじっとしててね」
ノリ兄ちゃんが、三枝さんに合図する。
三枝さんは光の剣を抜いた。
「いや、ちょっ、おま……何て声出してんだよ。キモいから喋んな」
「ゆうちゃん、それはないだろ。宗教は声変わりしてなくて、これが地声なんだよ」
「いや、キモいもんはキモいだろう」
「貴方のように口臭が酷い訳ではなく、発言の内容に問題がある訳でもありません」
ツネ兄ちゃんと双羽さんのフォローやツッコミも、ニートは意に介さない。ドブ臭い口で罵詈雑言を吐き続ける。
三枝さんが剣で薄汚いロン毛を切ってくれた。
ヘルメット風ヘアに藍ちゃんが爆笑する。
「プッ……! 無理……むりムリむりムリ、これは無理だわあはははははははは!」
「ちょっと、藍ちゃん、いくら何でも、そんな笑っちゃ悪いよ」
真穂が笑いを堪えた変顔で、藍ちゃんの脇腹をつついて窘める。
「どうせ明日、街に連れて行くし、この話題、終了な」
俺は、ゴム手袋の手をポンポンと打って締めた。
これ以上、構ってられない。
ツネ兄ちゃんが、ニートにも、ノリ兄ちゃんは王族だと説明したけど、無駄だった。
そんな国知らないとか言って、ノリ兄ちゃんの妄想呼ばわりするだけだった。
不敬罪で手打ちにされてしまえ。